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<ミャンマーで今、何が?> Vol.85
2014.03.12
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■ミャンマーの国勢調査
・01:何が問題なのか?
・02:誰が知りたいのか?
・03:もうひとつの問題点
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今月3月30日から4月10日の21日間、ミャンマー全国でいっせいに国勢調査(National Census)が施行される。そしてその大まかな報告書は2015年はじめには発表されることになっている。
日本では5年に一度施行されているが、ミャンマーにおいては過去30年以上に亘ってこのように大規模で全国的な人口調査は施行されてこなかった。
日本の人口は大雑把に1億2千万。そしてミャンマーは約6千数百万。すなわち国土は日本の面積の約1.8倍もあるのに、人口はその半分でしかないと、ミャンマーのガイドブックには書いてある
日本の数字はかなり実像に近く信憑性が高いが、ミャンマーの数字は謎に包まれてきたというのが実態で、今回の国勢調査でそれが明らかにされるというが、本当だろうか?というのが今回のテーマだ。
国勢調査から見たミャンマーの複雑さ、真の難しさを今回は覗いてみたい。オーバーに聞こえるかもしれないが、ミャンマーの周辺部、国境地帯は今でも秘境なのである。
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01:何が問題なのか?
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今回の国勢調査は米国が7,500万米ドルの資金を投入して、ミャンマー政府と国連人口基金が協力して、3月30日から4月10日の21日間、全国いっせいに施行される。
実際には約10万人の学校の先生(ミャンマーの先生はそのほとんどは女性教師)を動員してミャンマー全土で各家庭を訪問して人口調査が開始される。
その準備は約1年ほど前から、ミャンマー連邦政府が人口調査委員会を設置し、国連の主導で全国レベルで、そして市町村それぞれの単位で予行演習を重ねてきたが、その本番が今月末から全国いっせいに行われることになっている。
その基本は一戸一戸の家庭訪問で、勤務先の工場や事務所訪問だが、ミャンマーの最大の難関は、長いこと続いた軍事政権のおかげでミャンマー人が中央政府を絶対に信用していないということにある。政府の調査員(その大半は女性教師だが)が二人連れで訪問し、質問し、家庭内・工場内の人員構成から、両親の名前、本人の誕生日までを細かく調査用紙に書き込んでいく。賢明なミャンマー人は警察から調書を取られているのではと錯覚する。そしてさらに鋭いミャンマー人はこれは税務署の調査ではないのかと疑い始める。ご承知の通り、ミャンマー人は日本人ほどには単純ではない。NHKの広報が国勢調査には協力しましょうと訴えても、簡単には納得しないのである。何か裏があるはずだと考える。無償で家庭内の個人秘密を暴露する愚かしさを躊躇する。だからさらに利口なミャンマー人は、この家の人はみんな出かけている。私は留守番を頼まれただけだ。この家の詳しいことは分からないと、お得意の逃げを打つかもしれない。
これは都会の人たちが考えそうなこと、田舎に行くとさらに保守的で、彼らの猜疑心はもっと強くなる。見知らぬ調査員が来ると鳴りをひそめて居留守を使う戦略もありうる。
ましてや中央政府と平和協定が締結されていない紛争地帯では、調査員が足を踏み入れること自体が危険を伴う。地雷が敷設してあるのもこの紛争地帯である。国境に近づけば近づくほど危険は増す。不審な人物が近寄ると国境を越えて向こう側に一時避難することもありうる。それよりまず安い日当で調査員が山や谷をこえて、ほんの数軒しかない村々を訪ね歩くリスクを犯すとは考えられない。日本よりも1.8倍も広い国土で道路は未発達だ。しかもランドクルーザーも入れない山道である。21日間という限定された日数で可能だろうか。それに加えてNHKの広報が未発達の国がミャンマーなのである。
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02:誰が知りたいのか?
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ミャンマー政府が30年以上に亘って、国勢調査を行わなかったのは、国境地帯における反政府武装民族との紛争もあるが、元々軍事政権は人口調査にあまり意義を見出してこなかったように見受けられる。
ビルマ族を勘定に入れると136の民族が分散、共存するミャンマーで、日常使用される言語もバラバラである。ビルマ語が通用しない地域はいくらでもある。特に山間部はそうだ。だから聞き取りをベースとする人口調査など不可能だとあきらめていたのではないのだろうか。
しかもミャンマー人にはファミリー・ネームがない。前にも説明したが、同じ一家の祖父母・夫婦・親子・兄弟でも簡単に、鈴木さんだとか佐藤さんだとかひと括りにできない煩雑さがある。だから、個人を特定するのには一人ひとり父親の名前と母親の名前を記入する必要がある。仮に山奥の何とか村から大都会のヤンゴンに働き盛りの息子が数年前に出稼ぎに行き、それっきり消息が分からなくなったケースは幾らでもあるだろう。スーパーコンピュータの手を借りたくなってくる。だが、スパコンがあったとしても、インプットの手間隙は両親の名前からスタートするので、膨大な仕事量となる。過去の軍事政権が、あるいは現在の新政府がミャンマーには人口統計がないと公言しても、納得せざるを得ないところがある。
だが、米国のCIAが、あるいは英国のMI6が、そしてイスラエルのモサドが、ミャンマーの国力を把握する場合に、その人口統計は基本の基本となる。
軍事目的だけでなく、国際通貨基金や、世界銀行、アジア開発銀行も経済指標を作成するためには是非とも人口統計は欲しい。各国の経済企画庁もアセアン各国との比較の上で、その数字は是非入手したいところだ。日本のJICAだって、これがあれば今後の経済発展を作表できるだろう。
こういう声が高まって、米国主導そして国連主導の国勢調査となった。3年前までの軍事政権であれば、自国の実態があからさまになることは絶対に許可しなかった。だが、テインセイン大統領の新政府は、米国の資金で、あるいは国連の資金で、国の実態調査ができるのであれば御の字である。逆に言うと、他人のフンドシで国際社会への一歩を踏み出せるのである。ここにもテインセイン新政権の巧妙さが見え隠れする。
この国の謎はミャンマー政府にとってはなんと言うことはないが、海外のお節介屋にとっては秘密のベールとして非常に興味ある謎であった。だから、この国の国勢調査はミャンマー政府が把握したいというよりも、海外の軍事機関、シンクタンク、経済団体が調査資金を全額提供してでも解明したい秘密であった。
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03:もうひとつの問題点
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このメルマガでも何度か取上げ、今後も取上げねばならない問題。それは特にラカイン州におけるロヒンジャーの問題である。
いま欧米のマスコミは、この問題でいまミャンマー政府を痛烈に非難している。しかし、東西南北研究所はこの問題を「東と西」では考えが異なると捉え、そのまま西欧の見解に追従することは控えてきた。そして今後、時を見て、別の視点でこの問題を再び取上げるつもりだ。
ここでは、そのラカイン州のロヒンジャー問題が今回の人口調査に大きく影響を及ぼしているということをお伝えしたい。
ミャンマー政府の説明では、ロヒンジャーは隣国バングラデッシュからの経済難民で、ラカイン州に越境した違法移民で、その発端は大英帝国がビルマでの労働力不足を解消するために強制移住させたことにあるとしている。そしてその2代目、3代目としてミャンマー生まれの世代がいま問題になっている。欧米マスコミは地元の仏教徒と政府がイスラム教徒のロヒンジャーを迫害していると喧伝するが、その背後にある問題点は、イスラム教徒は地元との協調を図ろうとせず、自分たちの言語(ベンガリ語)のみを話し、ミャンマー名でない固有の名前を持ち、自分たちの生活習慣を頑なに守ってきたことにある。しかも、平均的にロヒンジャーは仏教徒よりも子沢山である。それが時代と共に人口比を逆転させ仏教徒を圧迫し始め、近い将来にイスラム教徒が仏教徒を数で凌駕することを恐れていると地元ラカイン州の仏教徒は語る。
1983年に施行された国勢調査では、イスラム教徒の人口比は10%となっているが、これは社会不安を恐れた政府が意図的に4%低く抑えた数字であると言われている。
ラカイン州の国勢調査員はビルマ語やラカイン州の方言は話せても、ベンガリ語は話せないという。果たしてこのような状況で聞き取り調査はできるのであろうか。日本では北海道から沖縄まで、日本語という共通言語で会話が可能だ。ラカイン州だけではない。あなたが文化人類学者なら、ミャンマーで最も広大なシャン州は民族と言語の宝庫である。ビルマ語を話さないで彼らは日常生活になんら不便をきたしていない。
このような国土で、米国がいかに力を入れようが、国連がいかに努力をしようが、今回の国勢調査はどこまで実態に迫れるのだろうか?
しかし、国勢調査はもう待ったなしの秒読み段階となった。そしてそのラフな調査結果は2015年のはじめには発表されるとのことである。そしてその年の11月には次期大統領を決定する国民総選挙が実施される。
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