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<ミャンマーで今、何が?> Vol.81
2014.02.12
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■レイムダック政権
・01:レイムダックに陥ったテインセイン大統領
・02:保守派の台頭
・03:2008年憲法のABC
・04:容易でない憲法改正
・05:ミャンマーの民主化はここまでか?
・06:第三者の登場
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01:レイムダックに陥ったテインセイン大統領
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前にもお伝えしたとおり、テインセイン大統領は完全にレイムダックに陥ってしまった。レイムダックとは任期終了間際で実権を失った政権のことである。これまでサプライジングのスピードで、サプライジングの改革をあらゆる方面で行ってきたが、それが2013年末ごろから完全に失速してしまった。というのが東西南北研究所の見方だ。任期終了間際といっても2015年の国民総選挙および大統領選挙は2015年後半に予定されており、大統領の任期は大雑把に言えばあと2年近く残されている。あまりにも早すぎるレイムダックである。
それを敏感に感じ取っているのが、テインセイン大統領その人であり、その改革を支持してきた改革派の人たちであろう。彼らは今、八方塞がりで、大きな挫折感を感じているに違いない。これまでに歴史も驚く改革をミャンマー国内で率先して推進してきたテインセイン大統領だけに二期目出馬断念の報道が自分の意思とは別にあまりにも早い時期に第三者によって意図的に流されたからだ。そのターニングポイントは2013年10月19日の火祭りの日である。闇将軍自宅の密室でその決定はなされた。その情報をレポーターに漏らした人物がいる。詳細はこの週刊メルマガVol.69 <2013.11.6>をご参照いただきたい。
そして同じような挫折感を味わっている、もう一人重要な人物がいる。それがNLD党首のスーチーさんだ。彼女の容貌が優雅なレディーから、最近は般若の形相に変わった。髪振り乱して昨年後半から憲法修正を国内外で訴えている。彼女は憲法修正によって自らが大統領になることを目指しているとの欧米・日本の報道が一般的だが、実態はまったく異なる。ミャンマーが新民主主義国家になるためには、国会議員の25%が国民の選挙によらずに、国防軍の任意で指名される危険性を一貫して訴えている。それは民主主義に基づく文民政府を唱える国家にあってはならないと訴えているのだ。国会議員の四分の一という大量の議席が国民の審判を受けずに立法権を有する国会議員になってはいけないと訴えているのである。
スーチー個人の夢はこの国に独裁政治ではなくシビリアンコントロールの政府を実現することにある。それが今は見果てぬ夢に転落しそうな瀬戸際だから彼女は焦っているのである。テインセイン大統領もこれまでの改革が水泡に帰す危険を感じ取って焦っているはずだ。
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02:保守派の台頭
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マングローブの林は潮間帯に生息する。この地域では、潮が高潮線と低潮線の中間に来たときの見極めがきわめて重要だ。上げ潮と下げ潮の中間は水路の流れは滞り、一見平穏なトキに見える。だが、OPW村の人たちは子供でも知っている。これから上げ潮になるのか、下げ潮になるのかは。ボートが泥地に捕まれば、次の高潮までまったく動きが取れない。一見平穏に見えるが正確な判断を要求される危険なトキでもある。
ミャンマーの改革においては2014年年初の今がもっとも正確な判断を要求されるそのトキである。数十万トンの巨大タンカーに例えてみよう。これまでフルスピードで波を蹴立てて前進して巨大タンカーに、意図的にフル・アスターンがかかったとしよう。プロペラがきしみながら全速力で逆回転を始める。だが、巨大タンカーはすぐには止まらない。素人目には同じ方向にさらなる前進を続けているようにしか見えない。では、プロの目ならどう見るだろう。
テインセイン大統領の見事な舵取りで、英知を絞り育ててきた改革派とともに、政治・経済・農業・教育・福祉などの各分野でサプライジングを行ってきたが、それもこれまでかという兆候が発生している。これが上げ潮か下げ潮かの判断を難しくしている。
議会の動き、憲法だけでなく各法律の制定、すべてに保守派が鎌首をもたげ始めてきた。保守派にしてみればこれまでイライラしながら我慢に我慢を強いられてきたのだろう。それが正面きって改革に“ノー”を唱え始めたのだ。その最大の焦点となっているのが通称2008年憲法で、今回はその憲法から糸口を探してみたい。
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03:2008年憲法のABC
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2008年憲法とはあのナーギス台風直後の混乱時に、軍事政権の監視が厳しい中で、国民投票によって採択された194ページの15章からなるミャンマー連邦の憲法である。今と比べると、もっともっと言論の締め付けが厳しく、国民が床屋談義で、あるいは路上の茶店で“タンシュエ”とか“スーチー”などとおおっぴらには言えなかった時代の話である。
それには、国が危険に陥ったとき、国軍の最高司令官(Commander-in-Chief in Army)が全権を掌握できるとなっている。これは過去にも前例のある国軍によるクーデターを憲法が事前に保障しているようなものである。
そして問題の第59条(F項)には、配偶者および子供が外国籍の場合、ミャンマー連邦の大統領または副大統領の資格はないと記載してある。これは明白にスーチー個人をターゲットにしたもので、ウワサされる闇将軍のスーチー嫌いが中途半端でないことを物語っている。憲法にまで記載するのであるから。
一昔前の闇将軍、ネーウィンの晩年の話をしよう。彼の眼の黒いうちはとっくに政界を引退したというのに、その威光は時代を超えてミャンマー全土に行き渡り、当時の軍事政権でも手の出しようがなかった。だから、その娘、子供・孫たちまでが勝って放題な商売・生活を謳歌していた。だが、90歳を超え、彼の瞳が白濁し、体力・気力が衰えたことを見て取った晩年に、本人を除く華麗なこの一族の逮捕劇がこのヤンゴンで発生した。
ネーウィンの威光排除の最高指揮官であっただけに、次の闇将軍はその追及が彼自身およびその家族に及ばないように、問題の憲法の中で過去の行為の免責条項まで設けている。
このあたりが2008年ミャンマー憲法のABCである。
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04:容易でない憲法改正
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話を進めよう。109名の委員からなる‘憲法再検討委員会’が議会内に発足したのは6ヶ月前のことであった。諸団体、政党、識者などからの意見、憲法修正案がこの委員会に提出された。
スーチーさんの野党NLDも14章にまたがる168条項の改正案を提出した。そして、この109名委員会は憲法改正そのものに賛成とのレターを諸団体・グループから28,000通も受け取った。
だが、与党USDPのほんの一部である、ヤンゴン地区18町村のUSDPメンバーは憲法改正には反対とのレターを100,000通も109名委員会に送りつけている。このUSDPの党首はシュエマンで2015年の大統領選挙に強い意欲を燃やし、スーチーの最強のライバルである。
この109名憲法再検討委員会というのが完全に骨抜きにされ、憲法を再検討するどころか、こうやって集めたレターを議会に送付する役目に終わってしまった。そこで1月31日に結成されたのが41名の議員からなるもうひとつの委員会で、これは提案された修正条項を吟味することになっている。だが、台頭し始めた保守派は牛歩の歩みでチンタラ作業を行うものと推測される。表面的には設立された41名の専門委員会で検討中とのポーズは取れるが、前者の109名委員会は6ヶ月も掛けて何一つ前進しなかったのだから。この辺りにも保守派が力を盛り返してきたと見て取れないだろうか。
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05:ミャンマーの民主化はここまでか?
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もうひとつ難関が待ち受けている。
もちろん一国の憲法には重みがある。軽々に改正できるものではない。ミャンマーの場合にはもっと複雑な話となる。仮にこの41名委員会で検討委員会が憲法改正の条項を絞って改正すべき最終案を議会に提出したとする。それからの手続きは、憲法改正最終案を議会の75%以上が同意して、さらにはそれを国民投票に諮る必要がある。
だが、議席の25%はミャンマー国軍が指名権を握っており、それ以外のすべての議員がそれに同意せねば憲法改正案は国会を通過することが不可能となる。そんなことが可能だろうか。口では憲法改正に賛成する与党議員がいたとしても、国軍と与党USDPとを合わせた議席数は80%以上になるのだから。
もちろん巧妙な保守派のことである。大勢にまったく影響のない、すなわち2008年ミャンマー憲法のABCを死守した上で、枝葉末節に相当する条項を改正するぐらいは議会を通過させるであろう。そして声を大にして2008年憲法を要求にしたがって改正したと喧伝することだろう。
それを見越しているから、スーチーは優雅なレディから般若の形相になったのである。
中国が前の軍事政権と密約を締結しブルドーザー工事を進めていたミッゾンダムの建設中止は中国を激怒させることを知りながらテインセイン大統領の大英断で行われた。だが、大統領宣言は自分の在任中は工事を中断するというものである。ということは、テインセイン大統領が引退すれば、いつでも保守派のバックアップを受けた次期大統領はミッゾンダム建設を再開する可能性があるということである。
中国の経済的、文化的、政治的、軍事的な影響でミャンマーの独立は守れなくなると判断したミャンマー国軍の首脳陣が大博打を打ち、超スーパーパワー大国の米国に一切を預けた。その大舞台で指名されたのがヒラリー・クリントン元国務長官だった。そして見事な場外ホームランをかっ飛ばしてくれた。ヒラリー・クリントンとアウンサンスーチーがハグする場面は世界中のトップニュースとなった。だが、二人はともにCautious(用心深く、慎重に)という言葉をあの当時は繰り返し用いている。たった2年半前のことである。
だが、時が経つと世界中が用心深さを殴り捨てて、世界のギャンブル場、このミャンマーに飛び込んできた。潮流が革新から保守に大きくシフトしようとしているこのトキにである
だが、東西南北研究所の杞憂など取るに足らないと一笑に付されて結構である。世の中は楽天主義で泰然としているのも一法である。そのキーワードは米国・欧州などの外圧かも知れない。
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06:第三者の登場
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そしていまひとつ気にかかることがある。
ミャンマーの国営日刊英字新聞はThe New Light of Myanmarである。この新聞でミャンマーのキーパーソンがしばらく顔を見せないと失脚だとか、その本人に何らかの不幸な変化が発生してきた。これは歴史が何度か証明している。
当然、その逆もある。
まずはその人物の経歴から見てみよう。
2008-2009年:少将、2009年後半:中将、2011年初め:大将=将軍、2012年4月:副上級将軍、2013年3月:上級将軍。実に立派な経歴で、しかもそのスピード出世には驚かされる。現在、ミャンマーの陸・海・空、三軍のトップに立つミンアウンライン最高司令官その人である。1956年の生まれで現在57歳。現政府の席次で言えば、テインセイン大統領、そして二人の副大統領に次ぐ第4位の高官で、そしてタンシュエ上級将軍が引退した今、ミャンマー国軍の最高位に君臨する人物である。
最近の地元週刊誌が同将軍が語った言葉を掲載している。「ミャンマー国軍が恐れるものは何もない。ミャンマー国軍“タマドー”は引退したタンシュエ上級将軍が定めた政策に常に従う」と述べている。タンシュエとはご存知の通り、1992年から2011年までミャンマーの軍事政権に君臨した人物である。
これは昨年11月29日、国防軍幹部を集めて開催された秘密会議でのコメントと思われ、国営日刊新聞には掲載されなかった。驚くべきことに、同将軍はミャンマー国内の長期に展開されてきた少数民族との内戦は、広大な自治区と国富である資源の厖大な分け前を要求する少数民族グループのリーダーたちに責任があると強調したとのことである。
これだけではなく最近、同将軍が目を引いたのは昨年12月21日国営日刊新聞“ミラー”である。同誌の第一面には同最高司令官に関する4つの物語がカバーストーリーとして掲載されたが、これはミャンマーでは非常に珍しいことである。だが明らかに何らかのメッセージを伝える意図があったものと同誌は見ている。
その物語はこうだ。ミンアウンラインが国軍医学大学の卒業式でスピーチを行い、「国の安全が脅かされるときには、通常の手段以外に、特別な手段が講じられるだろう。特別な手段とは“ヒューマン・セキュリティ”である」と新たな概念を持ち込んだ。しかも、この“human security”を英語の単語で語ったのである。
その編集者は行間から何かを読み取ろうとしている。このミンアウンライン上級将軍のスピーチは、ひとつには国軍の政策が重要な変化を起こしていることを伝えている。そしてもうひとつは、この最高司令官が政治の世界に踏み込む可能性を強く示唆しているというのだ。ということは、2015年の次期大統領選挙に出馬することを匂わせたのではないだろうか。
キナ臭い話はここで終わりにするが、面白いことにスーチーNLD党首がテインセイン大統領、シュエマンUSDP党首、そしてミンアウンライン国防軍最高司令官との4者会談の提案をしていることだ。
今は皆がハッピーにミャンマーの時代が来たと酔いしれているトキだ。そのトキに東西南北研究所が無粋な話を持ち込むのはよそう。‘衆人酔える中に、一人醒めたるものは容れられず’とは高山樗牛の名作、滝口入道の文句だったと思うが、来週は俗世間を離れて、再びOPW村のマングローブ・ジャングルに夢を馳せてみたい。
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