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<ミャンマーで今、何が?> Vol.79
2014.01.29
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■ミャンマーの近未来を占う
・01:昨年の火祭り事件
・02:ミャンマーの火祭り
・03:プロのジャーナリスト的にはどう読み解くか
・04:レイムダックに陥ったテインセイン大統領
・05:一方の当事者スーチーは?
・06:テインセイン、シュエマン、そしてスーチー
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2014年の新年早々は“ナーギス台風ニモマケズ”と題して2回連続してお届けしたが、2週間の取材データを整理していくうちに、この視点からの捉え方はミャンマー対応の本質をえぐる面白いテーマになりそうなので、今後もしばらくはシリーズものとして連載することを検討してみたい。
とはいうものの、「ミャンマーで今、何が?」の主題とは何の関係があるのかと疑問も呈される恐れもあるので、しばらくは旬の話題とこのシリーズものとをミックスして順繰りに取り上げる予定だ。
昨年の最終版メルマガでは <ミャンマーの現在史を振り返る> と題してミャンマーの現在史を総轄してみたが、今回は2014年の年初ということもありミャンマーの近未来を占ってみたい。ヤンゴン市内では中国人のグループが赤いはっぴを着て、元気に銅鑼を鳴らし小型トラックで町中を流している。一月元旦は日本人にはあっけないほどの普通の日だったが、旧正月の明日からは爆竹が鳴り響きヤンゴンの町中が急に活気を帯び始める。
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01:昨年の火祭り事件
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2013年11月6日付の週刊メルマガ第69号を思い出していただきたい。
「先月火祭りの10月19日にシュエマンとその家族は元最高上司であるタンシュエの自宅に親しくご機嫌伺いをしている。そこでタンシュエが現在の民主化に不満を漏らしているとの情報をレポーターに語り、さらには同日タンシュエ宅を訪れたテインセイン大統領の二期目出馬断念の情報もレポーターに語っている。
タンシュエの不満は明らかにされていないが、民主化の速度が速すぎることと、元最高権力者とその家族を護る2008年憲法の改正が、逆鱗に触れた模様である。
これを逆手にとってシュエマンの国取り物語がスタートしたと見るのはどうであろう。
すなわち、テインセインをレイム・ダックに陥れ、スーチーの憲法改正キャンペーンをチンタラ議会に委ねるという方法である。後は時間を掛けて柿が熟すのを待てば良い。
このシナリオはあくまでも東西南北研究所の仮説である。予測とは外れるものだ。さあ、そこでどういう結論にもっていくか?」
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02:ミャンマーの火祭り
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ミャンマーでは形ばかりのプレゼントを用意する敬老の日ではなく、青少年時代にお世話になったあの方へ、学生時代の恩師に、そして自分の将来を決定する指針を与えてくれたあの先輩に、そしてここまで自分を育ててくれた両親に、あるいは職場でお世話になり今は引退されている昔の上司を、それぞれ自宅に訪れ、その足元に跪いて頭を床に押し付けて感謝の気持ちを体全体で表現する。それがミャンマーの火祭りでもある。ここミャンマーでは日本でほとんど消滅した旧い礼節が今も息づいている。その場に居合わせると、なんと優雅な風習なのだろうと見とれてしまうほどだ。
引退したタンシュエ元上級将軍のネイピードにある自宅にも元の部下であるテインセイン大統領とシュエマン現下院議長がその日に訪れた。ミャンマーの国運に影響を与えるトップスリーである。このニュースの重大性をもう一度噛み締めてほしい。
日本であれば、ごった返す正月三が日に闇将軍の自宅に、時の首相と衆議院議長家族がそれぞれ別々に訪れたとご理解いただければ良いだろう。別になんら不思議なことではない。
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03:プロのジャーナリスト的にはどう読み解くか
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ひっかかるのはテインセインにとって天下分け目ともいえる大統領選二期目出馬断念の重大決意を下院議長がレポーターに漏らしたという事実である。なぜ大統領自身、あるいは大統領府の広報担当官ではなかったのか。これが最大のキーポイントである。
そしてその理由らしきものとして、闇将軍が進展中の民主化に不満を漏らしているという漠然とした情報を匂わせていることだ。これも下院議長がレポーターに語っている。
下院議長といってもただの下院議長ではない。2015年の大統領選挙でその権力の座に最も近いと目されている人物である。国内はもとより海外での知名度と国際的ファンに取り巻かれたスーチーNLD党首との一騎打ちで、どれほどの横綱相撲がとれるかに下院議長の沽券はかかっている。
欧米人には読み取りにくいところだが、日本でもミャンマーでも“闇将軍が進展中の民主化に不満を漏らした”という情報だけで十分である。日本で言えば、体育会系の最高幹部の一言だと思えば理解しやすい。議会の80-90%を占める現役軍人および元軍人はこれだけでビビッてしまう。国軍の元最高権力者であった人物がそう漏らしたのだから。
現行憲法下でミャンマー最高位の権力を与えられているテインセイン大統領でさえもこの場面はビビルところだ。軍属時代、タンシュエ上級将軍に最大の忠誠心を誓ってきた部下だけに“不満だ”という一言は肚に堪えたはずだ。唯一頭が上がらない、かっての上司の面前で詰め腹の切らされたのが次期大統領選不出馬の決断と読める。
そのあたりの駆け引きと筋書きを闇将軍から任されたのが下院議長で、テインセイン大統領としてはグウの音も出なかったのではなかろうか。だから、大統領自身、あるいは大統領府からはこのあたりの事情を何一つ説明していない。
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04:レイムダックに陥ったテインセイン大統領
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その後のミャンマー政局は下院議長の筋書き通りに進んでいるように見える。
テインセイン大統領からはサプライジングの改革案は出てこなくなったし、スーチーの大統領出馬を可能にする2008年憲法の修正案は牛歩の進歩もしていない。関係者がビビッているからである。だから2014年の開始を中だるみと表現したのだが、これはテインセイン大統領がレイムダックに陥ったからである。
テインセイン大統領も最高権力者の任期最終年は実権が衰退していくことを米国大統領の歴史から学んでいるはずである。それだけに大統領二期目の出馬断念は最後の最後まで口にしないはずである。
それをチャンス到来と見た下院議長が上記のような形でマスコミにリークした。
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05:一方の当事者スーチーは?
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それをスーチーはシュエマン下院議長に求めた。その判断は的確だった。だが、その戦術が不十分だった。したたかなシュエマンを動かすことに失敗したからだ。前にもお伝えしたが、下院議長を横においてスーチーはシュエマンが率先して憲法改正を行ってほしいと記者会見で訴えている。だが、シュエマンに無視された。
第2回目の欧州訪問でデビッド・キャメロンをはじめ欧州の政財界リーダー、バチカンの法王にまで、ミャンマー憲法改正の必要性を執拗に訴え、外圧によるミャンマー憲法改正を企てた。しかし、自国の憲法改正を外圧に頼るという判断には別の危険が潜む。ミャンマー政府はそれらの外圧には屈しなかった。
そして、2015年の総選挙を彼女の政党NLDはボイコットするという考えまでフェイスブックから流れた。だが、間もなくNLDは総選挙には参加するとの公式声明を出した。
今年一月になってスーチーはチン州・カレン州での遊説を終わり、三大民族遊説の最後の仕上げであるシャン州で、チャーター機の着陸と野外広場での集会が許可されなかった。理由は飛行場と広場は国軍の所有で許可は出せないとしている。
一連の動きを見るとスーチーの焦りが見て取れる。憲法改正の戦略・戦術がコロコロ変わっているような気がする。自宅軟禁時代に培ったと思えた鉄の女としての辛抱強さが揺らいできたようにも見て取れる。
一方、シュエマンはすでに大統領選の票読みに入り、スーチーに対する軍部の嫌がらせにも知らぬ存ぜぬで眼を瞑っているようだ。
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06:テインセイン、シュエマン、そしてスーチー
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もしテインセイン以外の人物が新政府の大統領に選ばれていたら、今日のミャンマーの発展は望めなかったであろう。彼ほど勇気のある改革派は国軍内にはいないからだ。武闘派は幾らでもいる。だが、今の時代にはそぐわない将軍たちである。今、求められるのは平和時に真の勇気を発揮できる将軍だ。その勇気とは闇将軍の不評を買っても改革を進めたテインセインの実績である。闇将軍の顔色をうかがっていては出来ない肝っ玉である。
ナーギス台風の頃は無能で昼行灯であった将軍が、大統領に任命されてから、四面楚歌の中で完全に一皮剥けていった。多分、自分を捨て新生ミャンマーの大統領職に身を捧げる覚悟をしたのだろう。憲法の大統領としての職掌を読めば自分がこの国の最高権力者でこの世のトップに立っていることは自明の理だ。だが、精神的に裏切れない心の師が闇将軍でもある。その最優先順位にテインセインは国民を置き、そのように宣言している。
これは生半可な将軍では持てない勇気である。だが、彼は敢えて実践した。自分がその地位で燃焼することを覚悟したのであろう。これは武士道に匹敵する天晴れな覚悟である。
その点でテインセインはミャンマーの歴史に燦然と輝く人物になれたと東西南北研究所は見ている。ノーベル平和賞を受賞するかどうかはどうでも良いことである。
あとテインセインに期待されるのは、それ以上は何も望まず、最後の舞台であるアセアン連邦会議の議長として2014年を燃焼し尽くすことである。そうすれば、違う次元での評価が彼に戻ってくるものと予想される。
アウンサンスーチーの不屈の魂がこの国の民主主義の嚆矢となったことは間違いない。そしてこれまでに受けた数多くの海外での評価が彼女をミャンマーの歴史に鮮明に刻むことになるだろう。したがって、彼女がミャンマーの次期大統領の選ばれるか否かは大きな問題ではない。しかも、ミャンマー国軍を育てたアウンサン将軍の娘というサラブレッドでもある。最近彼女はことあるごとに自分は政治家だと語り、憲法の改正を訴えているが、むしろカリスマ性を利用して泰然自若としていればよいのではないだろうか。世の中はなるようにしかならないのであるから。
問題は下院議長である。
2015年の大統領選挙は彼の品格が問われるリトマス紙でもある。テインセインとスーチーは間違いなくミャンマーの現在史に記される人物だ。
そこでシュエマンは如何にというのが東西南北研究所からのクエスチョンである。米国や日本での選挙のように、勝つためには手段を選ばないダーティー・トリックが幾らでも仕掛けられてきた。それを真似するのも自由。民主主義の国なのだから。だが、東洋の価値観ではダーティなところはそれなりに歴史に刻まれ、善政はそれなりに評価される。
一人ひとりの国民がそれを評価し、歴史がそれを刻むのである。低レベルのところでスーチーと勝負するのも自由。ミャンマー現在史の歴史を見つめて自分をどこに位置づけるかを熟慮するのも勝手。
前にも書いたが、今スーチーが大統領選出馬への資格がなくて焦っている。自分がその根回しをする能力を十分に持ちながら、懐手で何もしないのは卑怯だというのが東洋の論法で、いつの日にか歴史はそれにしたがって判断を下すだろう。
だがここに歴史を覆す秘策がある。敵に塩を送るのである。時代がそれを要求しているといって闇将軍を自ら説き伏せ、国会の多数を占める軍籍、元軍籍の仲間を自ら率先して根回しするのである。そして憲法を改正して、それをスーチーにプレゼントして、スーチーと選挙戦を堂々と戦うのである。ダーティと評価するか、懐の深い将軍だと評価するかは歴史が決める。
2014年も引き続きよろしくお願いいたします。
皆様にとりましてもミャンマー同様に希望に満ちた新年でありますように。
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