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<ミャンマーで今、何が?> Vol.498
2022.06.07
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━
■ミャンマー学モヒンガー編
・01: バーマンとは酒場人ではない
・02: エルビスのGIブルース
・03: 創業一年で16億ドル
・04: 他山の石
・05: How to cook モヒンガー
・公式ツイッター(@magmyanmar1)
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・01: バーマンとは酒場人ではない
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ミャンマー学の先駆者で第一人者といえば、なんと言ってもJames George Scottであろう。
1851年生まれ、1935年に83歳で亡くなった。
1875年大英帝国の行政官としてマラヤ(現在のマレーシア)に赴き、同年ビルマに足を踏み入れたらしい。
その後35年間、出入国を含めて、ビルマに関係することとなった。
ビクトリア女王がインド女帝として権勢を振るった時代である。
1882年に『The Burman』を英国で出版した。当時ビルマは外界から閉ざされた神秘の国だった。その国土・文化・風習を歴史に照らし、詳細に紹介したので、出版と同時に、欧米を中心に世界中で大ベストセラーとなった。
文官としての“スコット”は行政官として認められ、その後“Sir”の勲位を与えられ、1910年に退官した。
ラングーン最大の市場“スコット・マーケット”に不滅のその名が残された。
だが度重なるクーデター政権で市場の名前は変更された。
何を隠そう。これこそ“ボージョー・マーケット”の旧名である。
『The Burman』は、人種差別が当然の大英帝国時代に、文明からかけ離れた民族として、“ビルマ人”を一段低く蔑んで呼称した英語である。
同様の基準で判断してみた。
英語の“Chinaman”も中国人に対する軽蔑語である。
習近平主席がこの問題を国連安全保障理事会に提訴しないのが不思議なくらいだ。
日本に対しては“支那”という漢字を抹消させた強気の中国なのに、英米列強に対しては弱腰か、英語に無関心かのどちらかであろう。
横道ついでにひとりの先輩の話を記録しておきたい。
東洋・西洋の架け橋としてアメリカ政府は1970年にハワイ大学のメインキャンパス内にEast West Center(東西文化センター)を創設した。このセンターで履修した、日本語の達者なアメリカ人とこのヤンゴンで出遭った。ひけらかさないが博士号ホルダーである。
その彼からビルマを識るためにと紹介されたのが、この“The Burman”である。日本の友人とボージョー・マーケット近くの洋書店で見つけ分厚いこの書籍を二人は購入した。
振り返ると、6年前の6月21日、天気は雨のち晴また雨、価格は4500チャットと表紙裏にメモってある。
私にとってヤンゴンは正に文化人類学のクロスロードであった。
スマホに信を置かず、ガラパゴスに徹していた頃で、ヤンゴン入りした友人が前触れもなく突然立ち寄ってくれることもしばしばだった。
そういう交流も断たれて久しい。
『The Burman』にはNGAPI(魚醤)の章が設けてある。魚醤は大まかに分けると3種あると非常に詳しく説明してある。
その文章で、Sir Scottが特別の愛着を持ってビルマ人に接していたことが分かる。そこが彼の魅力である。
だが魚醤以外にビルマの食べ物に特別の関心は払われていないようだ。
そこでアマゾネス軍団と相談した。
ミャンマー名物のMOHINGAについて、詳細な文献は見つからない。
それならばと、我々の手で独自の調査を行い、紹介することにした。
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・02: エルビスのGIブルース
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更に与太話をクダクダ続けたい。
そうすれば追手も途中で諦めるだろう。
酒場人ではない、英語で“バーマン”と書かれた洒落たドアを下街に見つけた。
記憶は曖昧だが、昨年の前半だったと思う。
渋い髭文字のロゴマークを朝市の帰りに見つけ、足が止まった。
髭文字のBURMANのすぐ下に小さく何か書かれている。だが私の視力では読み取れない。
シックで、洒落ていて、センスが良いと直感的に思った。
その瞬間Sir James George Scottが頭をよぎった。
だが何の商売か見当がつかない。
好奇心にまかせて重厚な扉を恐る恐る開けてみた。
19世紀の英国に迷い込んだような雰囲気だった
明るさを抑えたガス灯を思わせる照明が心地よい。
それが幾つも並べられた鏡の縁でプリズムのように反射した。
入口に会計・案内係の若い男が立っていた。英語が通じない。大声で奥の仲間を呼んだ。
口髭を生やした若い男が、流暢な英語で応対してくれた。
ヤンゴンの若者に欠けているのは英語力。この英語力こそ次世代の国際化になると、またしても確信に近いものを感じた。
簡潔に自己紹介し、私の好奇心を告げたら、開店間際の店内を案内してくれた。
壁には古ぼけたセピア色の写真が何枚も飾られている。
その一枚は旧総督府の有名な写真だった。
1948年1月4日、英国のユニオンジャックが降ろされ、ビルマ国旗が高々と掲揚された。
ビルマ独立記念その日の写真である。
お立ち台にビルマ初代大統領のサオ・シュエタイ(シャン州随一の有力藩王)が伝統的な民族衣装で立ち誇らしく国旗掲揚を見上げている。
その話をしたら、若者は警戒を解き、このDirty Old Manを信用、逆に好奇心を持ってくれた。
老獪なDOMは、アナタがこの男性用床屋のオーナーですか? それにしても達者な英語だ、と持ち上げ、聞き出したのが次の情報だった。
イ; サー・スコットは知らない。
ロ; 若者はマレーシアKLの理髪店で五六年修行し、そこで英語も習得したそうだ。
ハ; 若者はこの店のマネージャーを任され、真のオーナーはシンガポールにいる。
何とか話を聞きたい。だが年に一回しかヤンゴンに来ない、との返事だった。どんな人物だろう。
是非会いたい。予想に反し、20歳そこそこの若者だと教えてくれた。ますます興味が沸いてきた。
ニ; ヤンゴン空港が再開したら、当地にやってくる日本人が何人かいる。
そしたら二人並んで、メニューの“ホット・タオル・シェービング”など楽しみたいものだ。
その前に床屋の腕前を試す必要がある。
最も安そうなタマドウ刈り(GIカット)を注文した。
観察したところヤンゴンに相応しくない、桁外れの超高級男性用理髪店である。
どうしてこの場所を選んだのか、スタッフの英語力のお粗末さとのチグハグさを含め、オーナーから聞き出したい。クーデター発生で目論見は外れたのか、チャンスと見たのか?
ヤンゴン・ビジネスの極意が掴めるかもしれない。
街中のGIカットは昔は1000チャット、今は2000チャットに値上り。この店では情報代金のチップをはずんで1万5千チャット支払った。
シンガポール在といったが、ミャンマー人の血は入っていないのか、疑惑が募る。当然ながらJunta(当局)とは特別のコネがあるはずだ。
ホ; 店内にはオールディーズが静かに流れていた。そのひとつがエルビスの曲だった。
ヘ; 表看板の髭文字はシックでセンスが良いと褒めまくった。
それに応えて、表に出て説明してくれた。
髭文字と絡めた下の細かい英語はBARBERSHOP、更に真下に細かく YANGONとなっており、最上部の極細の文字は住所の90 BOGALAYZEY ST.であった。
望み薄いが、ヤンゴンが真に開放されたらの話である。
一杯飲ったあと、心許せる酔狂の友をお誘いしたくなる床屋である。
予算は二人で5万チャット。これだけ用意して貰えば大丈夫だろう。
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・03: 創業一年で16億ドル
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YouTuberの進出は世界各国で人気上昇中である。
という説明は実情を説明しておらず間違いである。
メルマガのモットーである源流をたどれば、日本は10年以上遅れていると、とことん思い知らされた。
2005年にPayPal社の元社員Chad Hurley, Steve Chen, Jawed Karimの三人組が創業し、翌年の2006年には16億5千万ドルで会社を売却し、グーグルのグループ会社となった。
三人はたった1年で16億ドルの億万長者となった。典型的なアメリカン・ドリームである。
英語のTubeとは真空管のことで、旧ブラウン管テレビを意味する。
すなわちYou(アナタ個人個人)がテレビ局を運営できる、というアメリカ人らしいお遊びが感じられる。
アメリカを中心とする欧米では個人個人のユーザーが動画をYouTubeにアップして小遣い稼ぎをする。
それどころか若者成金が続出した。
10年前のアメリカ、そして英語ネイティブが住むカナダ、欧州、オーストラリア、NZ等での話である。
あっと言う間に丸い地球を席巻した。ただし日本を除いて。
繰り返すが、YouTubeの流行は日本では10年出遅れていた。
世界を動画で紹介し、Globe trotする若きバックパッカーが大勢いる。
一般家庭の主婦がガーデニングや得意料理の動画をアップする。
欧米では10年前から日常茶飯事の収入源である。
将来のオバちゃん、アマゾネスの一人ひとりが異常なほどの興味を示してくれた。
先は長いが目論見通りだ。
ここでの物語は“ヤンゴン農学校”の手作り教材である。
欧米のみならず、タイでも中南米でもYouTubeで稼ぐオバちゃんは幾らでもいる。英単語で検索すれば、日本のYouTuberとは異なる世界が見えてくる。
そのキーポイントはしつこいが英語である。
欧米人のみならず、英語を理解するフィリッピン人やシンガポール人は国際共通語の英語で勝負してくる。
100億に膨張せんとする世界人口と、1億に縮小せんとする日本人口では、プラットフォームであるマーケットの差は単純比較100:1。
島国のヤマト言葉に固執するなら、勝負はすでについている。だからヤンゴンの若者に英語を勧めるのだ。
確かに経済は複雑で流動的である。単純比較はできない。インフレと円高、その対策も重要な要因である。
だが考え直してほしい。フィリピンもシンガポールも島国である。しかも点在する島々を、交通機関のインフラがなくとも、スマホで落下傘急襲できる時代となった。
何が違うか、もう一度再考してほしい。
“Think twice”で1億ドルに挑戦だ。
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・04: 他山の石
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ヤンゴンにもYouTuberが多数出没している。プラス・マイナスあるが、参考になる。
北欧諸国、欧米、東南アジア、南アジア、大洋州のYouTuberが、東西南北からやってくる。
例えばヤンゴン在のシンガポール人はビデオ片手に下街通りを丹念に歩く。
早朝や夕方、路上市場などの紹介が目的だ。
動画に撮せば、視聴者が理解するとは限らない。
結果として猥雑なビデオ撮影となっている。
シンガポール訛の英語で話しても意を尽くしてない。
テロップまたは字幕で説明する配慮が足りない。
そのサンプルがモヒンガーの紹介である。
ヤンゴン川のように濁ったスープは見れば分かる。
だが材料として何が使用されているのか説明が足りない。
事前勉強もせずに、出たとこ勝負の撮影だ。
これで小遣い稼ごうなど、ユーチューブを舐めとんのとちゃうか?
ビデオを連日アップしているが、再生回数が伸びない。
原因はここにありそうだ。
肖像権を意識するのか、売子や通行人の映像はカメラがブレる。
幼い子どもや犬猫だと肖像権無視で、手ブレせずにきちんと映っている。
国際起業家を目指すアマゾネスには、特にマイナスな細かい説明が好まれている。
ヤル気になってきた証拠だ。
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・05: How to cookモヒンガー
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アマゾネスによればラカイン州、カチン州、シャン州、モン州等、地域や地方で材料・味は異なる。
初来緬の外国人に、あるいは話のタネにと、何でもいいから食わせれば良い、というものではない。
グリーンチリが効いた辛口はOKか、コリアンダーの香りは好みか、バナナの茎の輪切こそモヒンガーの真髄、と全体像を説明して、相手の好みを斟酌するのが、親切というもんだ。
そこでアマゾネスが人気店の味を盗んできた。
各自持ち寄ったごった混ぜのレシピが“ヤンゴン農学校”特製モヒンガーになりそうだ。
幻の伝統料理が生まれる瞬間の、ハウツーものである。
定義編:
ビルマ語の“モヒンガー”とは魚スープに入ったライス・ヌードルが文字通りの意味である。
魚スープといっても、どの魚をベースとするかは、各Street Vendor(路上モヒンガー屋)の勝手で、独り善がりの秘蔵レシピとなっている。
漏れ聞くところでは、ナマズ・乾燥エビ・生鮮市場売れ残りの赤身白身魚、各自、切磋琢磨して工夫しているようだ。
先ずはカレー味のグレービーソースを作る。西洋では“肉汁”がグレービーだが、モヒンガーは“魚汁”がグレービーソースとなる。マエストロならこのツボを押えたい。
これに水を足してグツグツ煮込んでいく。
そこで、レモングラス、パールオニオンと中玉オニオンの輪切り、それに砕いたジンジャー、および黒胡椒を強調して味を調える。
目分量で加減するのが、プロの作るモヒンガーである。計量スプーンを使えばバカにされる。
ここまでで、6割の仕上がりとなる。
秘伝中の秘伝だから、聞き出すのに苦労した。
ヤンゴン農学校には裏番組で「ヤンゴン“NO”学校」という秘密の分校がある。誰に対してノーなのか斟酌願いたい。
ここでは情報を聞き出す学問を初め、“Fighting Lawyer”の真似事、言葉遊びの極意、ああ言われればこう言い返す術、他人のモノマネ塾、007の研究、東西文化の歴史、等を伝授しているが、生徒は全員落伍してしまった。
ついでに余談に移りたい。
近所で「モヒンガーって、何なのか説明してください」と質問しても、きちんと答えられる地元の人は一人もいない。普段おしゃべりで偉そうな人ほどそうだ。最後は食べれば分かると屋台に連れて行く。
現代人はこれほど言葉が乏しく、貧しくなっている。だがモヒンガーは食べても私にはさっぱり分からない。そこで今回の企画が始まった。
果たしてラーメンを系統立てて外国人に説明できる日本人はいるだろうか? 札幌ラーメン、博多ラーメン、その他名前は知っている。
だが私は失格である。
閑話休題。
言い忘れたが、モヒンガーは基本的に午前中のみの朝食である。
アマゾネスたちを引き連れて朝食のハシゴを何日か強行した。
ついでにモヒンガー屋台における、食し方の正式作法を説明しよう。
席を確保したら、オヤジの一段落を見計らって注文を告げる。
基本は4項目。
揚げパンの細切り(ビルマ語でイチャクイ100チャット)、
ひょうたんの揚げもの(ビルマ語でブディジョー100チャット)、
ダックのゆで卵(ビルマ語でベーウー200チャット)
これらを入れるかどうかを告げる。
不要なら言わなければよい。
最後に辛いのがお好みなら“グリーンチリ”、不要なら“No green chili”で通じるかどうか試してほしい。
もう一つ言い忘れた。
5分の一くらいの具を残して魚スープを飲み干すのがミャンマーの正式な作法である。そうするとオヤジが半分ぐらいスープを注ぎ足してくれる。
機会があれば、じっくり見学してほしい。
これこそモヒンガーの正式なお手前である。オジサンも若い女性も、このあと安堵してどんぶりを空にする。すなわち一人前の料金には注ぎ足し一回が含まれている。
そして現在のモヒンガー路上価格は一人前600ー1000チャット見当となっている。
さあ、ここから残り4割の秘伝を一気に紹介しよう。
ヒヨコ豆、ひまわり油、発酵魚醤、ローストされた米粉、ニンニク、ジャガリ(ココ椰子から作る椰子酒を何度も煮込んで作る黒砂糖)、ターメリック粉、塩などをオヤジの気分次第で入れたり、足したり、入れ忘れたりしながらで、この世の絶品が出来上がるから不思議だ。
ここでワザと紹介しなかった異国情緒豊かなイングレディエントがもう一つある。
直径10cmほどのバナナの茎をスパッと輪切りにする。幅は5mmほど。まるで植物の解剖実験で見るような維管束が顕微鏡なしでまじまじと見ることができる。
この維管束をダクト(通路)として水分や養分が樹の根っ子から最頂部のバナナの果実まで運搬される。だから輪切りにすると水分が滴り落ちるほどみずみずしい。
そして維管束は植物繊維で構成されている。だから便秘解消のオーガニックな秘薬と言えるであろう。
だが濁り濁ったスープの中では5cmほどの長さで、真っ黒な太めの紐状の姿をしている。まさかこれがバナナの茎だとは外国人は誰一人思うまい。
シンガポールのYouTuber殿よ、だからしっかりした事前調査と、親切なテロップによる説明が必須だと力説するわけだ。
もしお望みならアマゾネスの一人か二人、ガイドとして貸出もOKです。
ただし日当はヤンゴン値段ではなく、高目のシンガポール値段と、ご承知おきください。
そろそろモヒンガーのフィナーレと行きましょう。
付け合せに小粒ライム果実1/4スライスがついてきます。
お客は必ず自分の指でスクイーズしてスープ全体にかけます。すると得も言われぬ柑橘系の芳香が丼を包みます。
誰もが幸福感を感じる一瞬である。
サーScottも頷いてくれるはずだ。
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