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<ミャンマーで今、何が?> Vol.491
2022.04.26
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━
■英語と日本語、そしてバカ息子にバカ娘!
・01: “蟻の一穴”情報
・02: 釈迦に説法だが・・
・公式ツイッター(@magmyanmar1)
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・01:“蟻の一穴”情報
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2022年4月21日イラワジ通信社の英語ニュースが激震を起した。
同通信社は歴代軍事独裁政権に反抗し、当初はビルマ国境近くの地下に潜行し、移動しながら所在を秘して、ビルマ情報を国内外に報道してきた。反逆精神に溢れた、老舗の通信社である。
GWで忙しい方、ウクライナに夢中の方には、見逃してしまう情報かもしれない。だがミャンマー・ウォッチャーにとっては、敵の尻尾を捉えたような価値ある情報である。
その要点を和訳し、ここにお届けしたい。
「現行の総司令官がタンシュエと会見した。
“情報源”が同紙に明かしたところでは、今年4月3日に総司令官が首都ネイピードにあるタンシュエ宅を訪問した、となっている。
総司令官訪問前の準備段階として、国軍が後押しするUSDPのタンテイ議長、およびその他の将軍たちが、タンシュエに面会した。この人物こそ1992年から2011年初期まで軍事力でこの国を支配してきた独裁者である。
総司令官、タンテイ議長、その他将軍たちによる訪問は、今年の水祭り前にかっての総司令官であるタンシュエに対するリスペクトを表明したものと“情報源”は語った。
かっての上司で国家の指導者でもあったタンシュエを、時折その部下である将軍たちが敬意を表明し、訪問するのはミャンマーでは伝統的な慣習である。
会見時、総司令官は昨年のクーデターから現在のミャンマー情勢までを掻い摘んでタンシュエにブリーフィングしたものと思われる。
だが二人の会話内容は明らかにされていない。
かねてタンシュエはクーデターを実行する総司令官を祝福していた。
タンシュエは2011年にこれまで掌握していた権限を放棄し、総司令官が昨年のクーデターでこの国を支配する準備までしてやり、自分の指でこの男を総司令官に選別し、自分の後継者に指名した。
その総司令官がタンシュエを訪ねるのは昨年央以来、初めての出来事である。
多くの識者は、この長い空白期間から、総司令官は自分の前任者タンシュエに相談せずとも、この国の舵取りは可能だとひとり確信し、その自信過剰がタンシュエ訪問および会見を控えさせてきたと観測している。
この4月3日の訪問は、昨年のクーデター蜂起以来、反抗勢力は益々勢い付き、武装までするようになり、国軍が一年以上掛けても鎮圧できぬ苦悩の最中に実現した。
現総司令官に対するアンチ率は国軍内部で前例のないほどの高まりを見せ、それと同時に下っ端兵士たちの団結もかってないほど最低の堕落状態である」
これが同紙報道の全内容である。
語調を正確に伝えるために、意訳したり、言葉を書き足したところもある。ご理解頂きたい。
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・02: 釈迦に説法だが・・
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賢明な読者には無用の説明だが、余計な蛇足を付け加えたい。
“情報源”とは「大統領の陰謀」のディープスロートに相当する。英語ではsourcesとしている。
この通信社に限らず、気の利いたジャーナリストならエスピオナージを当局内部に潜行させ、情報を探るのは常識である。
だがこれは、薬にも毒にもなりうる両刃の刃である。連中は二重スパイかもしれないし、当局内部では仮面を被り従順な役人だが、実際は不満分子かもしれない。それだけに、この情報は二重三重にダブルチェックして読解する必要がある。
ネイピードにあるタンシュエ自邸を訪問したところがミソである。
日本だと最高権力者の首相が官邸に呼び出すか、高級料亭を手配するが、ミャンマーでは大先輩の自邸に自ずから足を運ぶのが礼儀に適い、慣習でもある。
総司令官は自分が出向く4月3日の前に、タンテイ議長、その他将軍たちを先遣隊としてタンシュエ邸に送り込んだ。
表向きはこの国の伝統に従い、年長者への敬意を表明している。
それだけに、かえって本来の意図を隠蔽しているのでは?と疑いたくなる。空白期間が長過ぎる。
その空白期間が長かったので、メルマガは、タンシュエが前任の独裁者ネウィンを始末した手本をそっくりCOPYして、愚民がタンシュエを密かに始末しようと企んでいると推理した。あるいはすでに始末したと過去形で表現する段階かもと、アガサ・クリスティ流のお遊びである。
年長者への敬意を示す伝統に従うなら、タンシュエの昨年・今年の誕生日(2月2日)、昨年のミャンマー歴の新年、など幾らも機会はあった筈である。その疑問はメルマガで何度か呈した。それだけに今回の情報は有り難い。だが鵜呑みにしてはいけない。一語一語解剖せねばならない。
もう一つ気になることがある。
その他将軍たちの中に元大統領テインセインの名前が連なっていないことである。これこそ伝統に従えば、不自然さが残る。
なぜならテインセインこそタンシュエの忠実な部下で、大統領時代を通じてタンシュエの完璧なイエスマンであった。しかも国政のトップに躍り出た出世頭である。
参列した将軍の中にテインセインを除外すれば、画龍点睛を欠くことになる。不自然さが見えないか?
クーデターから現在のカオス状態までを総司令官はタンシュエにブリーフィングしたとなっているが、これは飽くまでも“情報源”の憶測と本人が述べている。
“情報源”は詳細は不明と正直に語っている。
ここまでの“情報源”の説明は信用できる。
その一方で、「かねてタンシュエはクーデターを実行する総司令官を祝福していた」とか、「総司令官が昨年のクーデターを実行し、この国を支配出来るようタンシュエがお膳立てした」と、タンシュエがクーデター蜂起を事前に容認どころか促すような文脈となっている。
この部分はウワサにも聴いたことがない。シャーロック・ホームズならどう読み解くだろう。
これが事実とすれば、タンシュエの御墨付きでクーデターが実行されたことになる。
その御墨付きは2011年となっている。これが読み解く鍵である。
この年はテインセインが軍服を民族衣装に着替えて大統領に就任し、国家の舵取りを開始した年である。
2011年という年に起こった、見逃してはいけない出来事がある。
大統領に就任したテインセインの民主化計画の初仕事がスーチーを国政に参加させることであった。
テインセインはスーチーを大統領官邸に招待し、誠心誠意口説いた。
その証拠写真が一夜にして世界中を駆け巡った。
スーチーがテインセインとがっちり握手し、その頭上にはスーチーのパパであるアウンサン将軍が額縁に納まっている。
国軍はスーチー人気とアウンサン将軍のシナジー効果を極度に恐れ、この二人が親子関係にあることを国家重要機密として路上喫茶で口にすることすら禁じていた。
秘密警察に聴き咎められると国家機密漏洩罪で刑務所に入れられた。
この国家機密を大統領自ら破ったのである。
テインセインは大胆な男ではない。自分の判断で国家機密を世界にばら撒くなど、トテモじゃないがふかのうだ。当然タンシュエの綿密な陰謀に従ったまでである。
2011年は、デレック・ミッチェル⇒ヒラリー・クリントン⇒オバマ大統領という米国トップのバックアップで軍事独裁から開国を決めた重要な年である。
天下分け目のその重要な2011年に、タンシュエが総司令官にクーデターを決起せよとお墨付きを与えたという“情報源”の文脈は、どこから読み直しても、あまりにも突飛で、合理性に欠ける。
だが“情報源”が敢えてこの文脈を添えたのには、何らかの重要な意図が隠されている筈だ。
それが分析出来なければ、「ミャンマーで今、何が?」など名乗れないだろう。
繰り返すが、2011年はタンシュエがまだ矍鑠としており、目玉も白濁していない。格下の愚民やテインセインなどはタンシュエの前ではブルブルと震えていた筈だ。
それほどの凄みがタンシュエにはあった。
だからこの総司令官は、タンシュエを父親に例えるなら、色んな意味で桁外れのバカ息子である。
このバカ息子が2021年2月2日にクーデターを起した。そのお墨付きを2011年というとっくの昔にタンシュエから指示されていたという。
解釈によっては失敗した今回のクーデターの全責任をタンシュエに押し付ける浅はかな言い逃れである。
だがタンシュエが矍鑠として凄みを効かしていれば、タンシュエに全責任をなすりつけるなど、到底出来まい。
だからこそアガサ・クリスティの推理には合理性がある。
目玉が白濁したか、あるいは麻薬漬けにして癈人にするなどアガサ・クリスティなら考えそうな事だ。
今回のイラワジ通信社の報道には最新の写真が添付されていない。
できればビデオで検証したいところである。
総司令官が面会する前に、先遣隊の要人を送り込んだ段取りも気に掛かる。
何を画策したのだろう。
一番最後の段落は非常に意味深である。
国軍内部の総司令官に対する不平不満と下級兵士の乱れが報告されている。
蟻の一穴となるかは分からない。
ノンポリにとっては江戸川乱歩の推理小説の味わいがある。
今の日付は4月26日。
以上
東西南北研究所
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