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<ミャンマーで今、何が?> Vol.364
2020.05.26

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━


■ミャンマーの検事長物語

 ・01: 大物の魚が網にかかった

 ・02: 汚職と言っても何疑惑だ?

 ・03: 日本とミャンマーはまったく異な国

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)

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・01:大物の魚が網にかかった

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5月25日(月)のミャンマー・タイムズ第一面には“Big Fish”と特大の文字が
躍っている。
意味は“大物の魚”が網にかかったという意味である。

ミャンマーでは多種多様な政府委員会・分科会が設立・機能している。その英文
略語を追いかけるだけでも苦労する。そのひとつがACC(Anti-Corruption 
Commission=反汚職委員会)である。

ACCが設立されたのは前軍事政権時代の2013年で、その当時は日本の検事長問題
同様に、臭いものには蓋をするとか、無理が通れば道理が引っ込むなど、軍部の
意向を忖度どころか、軍部の横行が目立った。だから汚職撲滅を掲げても、看板
に偽りありであった。

2016年に民主新政権に替ったものの、そしてスーチーが汚職撲滅を声を大に叫ん
だものの、各大臣およびそれ以下の政府高官は過去50年間の軍事政権スタイルに
慣らされていた。大臣就任はそのチャンスであった。政府高官に任官されると汚
職天国が待っていた。

これには海外メディアにも問題がある。新興国ミャンマーだったら汚職が当たり
前との報道が目立った。実際には汚職というモノは贈賄と収賄のワンペアで成り
立つ。だから汚職といっても贈賄側が誘発する事件も大いにありうる。だからミ
ャンマー進出の外国企業は、大半がその片棒を担ぐことになる。

ところが2017年に前少将のU Aung Kyiがその委員長に就任した。調査委員会の追
及は一転して厳しくなった。大将・中将に次ぐ高位の軍人である。それだけでは
ない。2018年3月に就任したウィン・ミエン大統領は汚職撲滅の強力な擁護者で
あった。この二人の強力トップで、スーチーの汚職撲滅は初めて実際に始動する。


先ず最初にACC委員長であるアウンチーの略歴を紹介したい。
彼はスーチーの率いるNLD党ではなく、それと対立する軍部派のUSDP党に属する。
軍事政権時代、彼は泣く子も黙る情報大臣を務め、その後スーチーが15年間自宅
監禁されると、軍部とスーチーの連絡将校として有名になった。

2017年にACC委員長となると、それまで抜け穴だらけだった反汚職委員会法を4度
も改定して2018年には最強の法案に整備した。

以上の経歴からして、アウンチー元少将を単純に軍部側の人間と色分けすべきで
はない。むしろ優秀なミャンマー人に特有の旗幟を鮮明とせず、静かに豹変する
人物かもしれない。そして15年間スーチーとの連絡将校を務めたとき以来、スー
チーと何らかの信頼が築かれているのかもしれない。

2016年にスーチーの新政権が出現したとき、政治にずぶの素人が何が出来る。日
本人社会からも民主党同様に直ぐに潰れるヨ、と見当ハズレの意見も飛び出した。
だがスーチーは1.民主化の達成、2.法の遵守、3.透明性を徹底させる、と
いう三本柱を最優先に脆弱なNLD党および新政府をひっぱってきた。

期待された学生運動の指導者たちは、反政府デモでは勇名を轟かしたが、刑務所
暮らしで、政治を学んだり知る者は皆無であった。だからスーチーの弱点は後継
者にあることも事実である。
いろんな点でミャンマーは、ミャンマー特有の問題を抱えており、シンプル系で
はなく、むしろ複雑系である。

話しは横道に逸れてしまった。
本題に戻ろう。

5月22日、前タニンタリー地区のチーフ・ミニスターDaw Lei Lei Mawに反汚職法
で4つの罪状が科され、30年間の禁固刑が宣告された。これが“Big Fish”の本
題である。

ミャンマーの行政区は元々中央政府が管轄してきた7つの管区と新首都のネイピー
ド特別区を加えて合計8地区(*管区は軍事政権の臭いがするので“地区”に改
めた)とシャン・カチン・ラカインなど主要民族それぞれの合計7つの州からな
る、連邦制を採用している。

連邦政府とは中央政府を意味し、8地区と7州には、それぞれ地方議会があり地
方議員が選出される。その最高職がチーフ・ミニスターで日本の新聞では地区首
相とか州首相と報道されている。ミャンマー最南端のタニンタリー州地区首相を
務めたDaw Lei Lei Mawが網にかかった“大物の魚”である。

1965年の生まれだから今年55歳、30年の刑期を全うすると85歳となり、熟成すべ
き後半人生を監獄で過ごすことになる。汚職罪で刑務所に入る罪人としては、こ
の女性は過去最高位の政府高官である。そしてもうひとつ驚くべきことがある。
彼女はスーチー率いるNLD党出身の州首相であるということだ。

刑罰には見せしめという要素もある。だがミャンマーの国民に与えた今回の警告
は大ショックといってよいだろう。いま国民は、そして身に覚えのある政府高官
は、新政府は本気であるということをまざまざと認識させられた。このようにスー
チーの国家改造計画は憲法改正だけでなく、時間は掛かるがジワジワと前方に進
んでいる。

今回辞任した日本の黒川検事長問題を意識して表題を<ミャンマーの検事長物語
>としたが、正直これは正確ではない。アウンチーは汚職問題に限定して強力な
捜査権を持つ委員長ではあるが、検事長という職名ではない。誤解の無い様にご
注意願いたい。



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・02:汚職と言っても何疑惑だ?

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さあここでこの州首相の犯した悪事について説明したい。

彼女は2015年の総選挙でNLD党から立候補し、スーチーと同じく国会議員に当選
した。そしてその後タニンタリー州の州首相に任命された。

州政府の管轄内にあるダウェイ空港の4億チャットの土地を含み、F22Sunny 
Constructionと何件かの契約を認可する際に、この州首相は自分の持つ権力を乱
用したとして告発され、ACCは調査を開始した。

さらにACCは、州首相が地方政府の資金19兆チャットを建設省道路管理局に廻し、
州都のダウェイに州首相が所有する二つの敷地を囲い込む塀の建設に乱用したこ
とを暴いた。
このACCの調査により、州首相は2019年3月に逮捕され、同時に州首相は解任させ
られた。

調査官によれば、州首相は二階建ての自宅を地元の業者・Global Grand 
Services社(*CGS社)に市場価格をはるかに上回る価格で売却し、同社には見
返りとして幾つかの建設契約を認可した。CGS社の社長・役員・部長の計3名は同
じ贈賄違反で起訴された。

州首相はCGS社に州政府の発電事業を請け負わせたが、同社はその代金80兆チャ
ットの支払いを履行せず、その結果州政府の電力エネルギー省がその肩代わり・
尻拭いをさせられた。これにより同社社長・役員には10年の刑期、部長には5年
の刑期が言い渡された。

そして裁判所は、前州首相に対して30年の刑期を宣告すると同時に、彼女が同州
のThayetchaun町に所有する自宅の没収も命令した。



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・03:日本とミャンマーはまったく異な国

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まったく関係ない話だが、日本のホリエモンが収監されていた期間は約2.5年で
ある。それと比較して30年という期間は永遠と思えるほど絶望的な時間である。

ミャンマーの複雑系物語として、何度も前に書いたが、ミャンマーには恩赦とい
う特別制度がある。犯罪人にとっては宝くじみたいなものだ。当たればラッキー
である。

ビルマに軍事独裁政権を敷いた悪名高きネウェインの黒目が白濁した92歳のとき
のことである。キンニュン指揮する特別部隊がネウィン自宅を包囲・監禁した。
そのときネウィンの娘婿および三人の孫は国家転覆罪の疑惑で逮捕され、それぞ
れに100年前後の、否100年以上の禁固刑を喰らった。

この事件では手柄を上げたキンニュンだが、疑り深いタンシュエ上級将軍によっ
て、同様に国家転覆罪で未来永劫とも思える禁固刑を喰らった。だが世間がこれ
らの事件を忘れた頃に異例の“恩赦”を発表し、娑婆に復帰している。それがミ
ャンマーの伝統を作り上げてきた。

本人にオフレコでインタビューすれば、自分はスケープ・ゴートにされたという
ことだろう。
それだけにこの国を読み解くことは難しく、複雑怪奇でさえある。

だから黒川検事長を初め、日本の規範でこの国を締め括るのは非常に危険だとい
うことを自戒の言葉としたい。

追伸:ヤンゴンは今日も晴天でスーパーホットです。


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