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<ミャンマーで今、何が?> Vol.289
2018.12.27
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■昔懐かしき西部劇映画
・01:カッコいいカウボーイ
・02:アラモ劇場開始前の亭主口上
・03:巨象のようにデッカイ、アメリカ
・04:アラモ劇場の開幕
・05:歴史の見方
・06:アラモは時代と国境を飛び越えた歌舞伎十八番
・公式ツイッター(@magmyanmar1)
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・01:カッコいいカウボーイ
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西部劇といえば、チャンバラと同じくらい好きだったので結構ウルサイ。
その中でも『RIO BRAVO』は最高傑作のひとつだろう。個人的にはイチオシである。
だが、どうして唐突に西部劇なのだと、叱られそうだ。ムリヤリにでも、その理由をこじつけるのが老獪学の第一歩と、このヤンゴンで学んだ。
ストーン監督の警策によって、信頼厚きアメリカを疑うことから、歴史の再学習はスタートした。そこで、学生たちとはアメリカを徹底的に見直すことを検討中である。コレクションを整理しながら、西部劇のDVDが意外と多いのに気がついた。
子供の頃は良かった。インディアンに急襲される幌馬車やカウボーイ、ハラハラしていると、ラッパの響きとともに騎兵隊が現れ、救出される。単純な世界だった。だが、今は、ストーン監督に言われずとも、歴史の裏側を見る目ができてきた。
アメリカ大陸には類人猿は生息せず、化石人類の骨も発見されていない。アメリカ・インディアンの祖先はユーラシア大陸からベーリング海峡を渡ってきたというのが定説だ。だから顔つきも西洋系ではなく、ユーラシア系だし、新生児のお尻には、その出自を象徴するモンゴロイドの焼き鏝が押されている。
先住民ははるか古代から定住して、素朴な自然界のルールで、広大な大陸を平和裏に棲み分けしていた。川にはサケの魚影が濃く、湖ではキャットフィッシュがジャンプする。ビリー・ホリデーのけだるげな“サマー・タイム”が聞こえてきそうな風景だ。森には大鹿が隠れ、大草原をパイソンの群れが移動していく。先住民には自然の神が恵んでくれた土地で、耕せば先祖が残してくれた豊穣の土地があった。獲物や自然の恵みを盗り尽すことはなく、必ず来年用に自然に戻す知恵があった。
悪魔は常に海からやってきた。遅れてやってきた白い肌の悪魔が自然の調和を破壊していった。科学万能を信奉する無知な西洋人には新大陸かも知れないが、先住民にとっては、代々祖先から受け継いだ大切な土地である。決して新大陸ではない。
最初は、上陸した河口近くに砦が築かれる。近代兵器で武装した堅固な砦を築いた。そして軍隊が投入され、その砦は徐々に奥地へ、西へと開拓進出していった。その大西部への侵略を白人はフロンティアと称した。今、ミャンマーはこの地上に残された最後の経済フロンティアと西洋人は言う。その文言をそのままモノマネする東洋人もいる。
ハリウッド製作のDVDを丹念に鑑賞すると、先住民虐殺の史実をかなり忠実に描写しているものもある。最初はおとなしく、動物の毛皮や砂金などの交易を求めるが、白人の欲望には限度がない。野生バッファローやビーバーなどの乱獲がはじまる。そして、野生種は絶滅していく。言葉の行き違いから、不信が生まれ、火器・火力の威力で従属・屈服させていく。
例えば バート・ランカスター主演の『アパッチ族』、ダニエル・デイ・ルイスの『最後のモヒカン族』、アンソニー・クウィンの『セミノール族』、ディズニー漫画の『ポカホンタス』などで、その一部を、あるいは側面を学習できる。
まだ純朴だった子供時代、西部劇といえば、なんと言ってもカウボーイ、二丁拳銃で、インディアンで、一対一の決闘であった。とにかく格好良かった。インド亜大陸の元祖インド人ですら、カウボーイに憧れた。それだけに、ハリウッドの映画はグローバルな規模で影響力大である。子供時代からインプットされ、大人になっても、その思い込みを修正するのはムツカシイ。そこをストーン監督は指摘する。
膨大なコレクションを整理していると、未鑑賞のDVDは幾らでもある。
その内の一枚が『THE ALAMO』であった。思い出が走る。多分、高校時代に渋谷のパンテオンで見た記憶がある。1960年の製作だから間違いないだろう。ストーリーは忘れたが、懐かしさで、鑑賞してみた。
海賊版DVDを絶賛するこのメルマガで、今後一つルールを設定したい。
DVDのタイトルはすべて『二重鍵括弧』で表示し、基本的に英語原題のまま、筆者でも知っている日本語タイトルは、日本語もありうる、といういい加減なルールである。
読者の方は『二重鍵括弧』をキーワードとして検索すれば、グーグルまたはYouTubeで行き着くはずだ。
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・02:アラモ劇場開始前の亭主口上
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それにしても、何で急に『アラモ』なんだと、重箱の隅をつついて、親切にも注意してくださる奇特な読者もいらっしゃる。その辺りをムリヤリにでも「ミャンマーで今、何が?」にこじつけたい。イギリスの老獪学が手本になる。
日本には“落語の三題話”がある。それに比べると、“老獪学の二題話”なんぞチョロイものだ。我が日本には、負けず嫌いの“漱石”の例もある。ムリヤリにでもこじつけ、説明責任を果たそう。
アラモ砦はアメリカ合衆国テキサス州サン・アントニオ市にある。
ジョージ・ブッシュもそうだが、テキサス出身者は何でもデカイことを自慢する。
そこでテキサス州の面積を調べると約69万平方km、ミャンマーが68万平方kmだ。
だから、ミャンマーをアメリカのテキサス州とほぼ同じ大きさ、と説明するのがアメリカ人には分かりやすい。因みに欧州勢では、フランス国土が60万平方kmで何とかミャンマーの妹分クラスだ。そして我が日本などは半分近くの38万平方kmしかない。数字はすべて大日本百科全書(ニッポニカ)から引用、上二桁の下は四捨五入。
DVD鑑賞には常に、世界地図、英語辞書、筆記用具の三種の神器を用意することにしている。生徒にもそれを厳しく指導している。DVD大学の基本の基本だ。
井の中の蛙ミャンマーとはいえ、今の時代、自国の器を知る、領土を知る。己を知ることは大切だ。決してミャンマーは小国ではない。だが、アメリカや中国のように、驕り高ぶっては品性がダメになる。下品で不遜な態度を見習ったら、世界中の物笑いの種だ。
勘違いしている人が多いが、カナダの領土はアメリカより広大で、さらにその上には世界一のロシアが君臨している。ブッシュさん、上には上がいるんですゾ。慢心は慎むべし。
ミャンマーとほぼ同じ領土のテキサス州は、アメリカ国内ではアラスカに次いで二番目の大きさである。国内でブッシュが威張るのは許せる。だが歴史を辿ると、アメリカン・インディアンを追い出すか、絶滅させて、国土を略奪していった。その結果が合衆国50州である。
ミャンマーの若者は、アメリカはNo.1、日本は高品質と、何でもかんでも崇めたてるが、オリバー監督の検証方法をマネして、真実を見極めることを海賊版DVD教室で学んで欲しい。老書生は晩年になって、それを教えてもらった。何事もイエスマンで、パブロフの条件反射では悲しい。ヤンゴンの海賊版DVD大学で批判的なモノの見方を学んでほしい。
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・03:巨象のようにデッカイ、アメリカ
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だから、ひと言でアメリカを説明することはできない。それはムツカシイというよりもムリである。
巨象のようなアメリカをアッタックする方法はないだろうか?
そこで行き着いたのが実は、DVD『アラモ』である。しかも、知的に攻撃できる。
ハリウッドの映画産業で大成功した、アメリカの大ヒーロー、ジョン・ウェイン、がプロデュース・監督、そして主役と全力投球した。
アメリカの子供全員が知っている・・
♪テネシー生まれの快男児♪ その名はデイビー・クロケット♪ わずか三つで熊退治♪ その名を西部に轟かす・・♪ デイビー・・、デイビー・クロケット♪
小阪一也の唄が聞こえてきそうだ。
そのデイビー・クロケットをジョン・ウェインが演じた。
この『アラモ』伝説には、アメリカ人の名誉と理想と意気込みが詰まっている。アメリカ人にとっては、心の魂を奮い立たす郷愁とともに想い出すのだろう。
日本人にとっての“仮名手本忠臣蔵”かもしれない。だから、この物語はアメリカを知る一つの大きな手がかりとなる。『アラモ』からアメリカの歴史に入っていくのは正解かもしれない。
アラモがテキサス州サン・アントニオ市にあることはすでに述べた。
メキシコではスペイン語が話されていることから歴史を見直してみたい。1718年にサン・アントニオ川近くにデ・バレロ伝道所とデ・バクスター軍事砦がスペイン人によって築かれた。そして土着の原住民を70年かけてクリスチャンに改宗させていった。その近辺にはCottonwoodの木が繁茂していたので、この砦をスペイン語でEl Alamoと名付けた。
最初は反乱レベルだったが、1820年代はじめメキシコ独立戦争に発展した。1821年アメリカから約300家族がアラモへ移住してきた。スペイン政府はアメリカ人のテキサス移住を許可し、その後10年間でその人数は増え続ける。非常にずうずうしいのだが、移住してきたアメリカ人がメキシコからのテキサス独立を要求するようになった。アメリカ人は単純なのだが、このように老獪な兆しも読み取れる。政治はこのように流動的で生きている。そして歴史が形作られていく。決してコンビニ的なひと言では語れない。
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・04:アラモ劇場の開幕
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さぁ、映画がはじまった。
この戦いの行方を暗示する皆殺しのテーマ曲がアラモに鳴り響く。
音楽担当はディミトリー・ティオムキン。そして音楽は主題曲の“Green Leaves of Summer”に変る。アメリカ版“ツワモノどもが夢の跡”である。あるいはブラザーズ・フォアを想い出す方もおられるだろう。
デイビー・クロケットがテネシー州から気の荒い男たちを引き連れ、アラモの伝道所を見下ろす小高い平原に現れる。斥候担当は当時の新人ロック歌手フランキー・アバロン。そしてジム・ボウイも100名の志願兵を引き連れてアラモに集結した。
このアラモの守備をサム・ヒューストン将軍から任されたのが英国軍人のトラビス大佐。救援隊が到着するまで数時間でも長く、時を稼ぐよう厳命される。準備態勢が整うまで、何とか持ちこたえるのだ、トラビス大佐! トラビス大佐は少佐から特進し、この砦の最高司令官となる。守備隊が陣取ったのは砦ではなく、この伝道所である。トラビス大佐が指揮する軍隊はわずかに27名。荒くれ者のカウボーイたちは、ライフルを片手に、続々とこの伝道所に到着するが、英国スタイルで四角四面のこのトラビス大佐が気に入らない。ことあるごとに火花が散る。特にジム・ボウイとトラビス大佐は犬猿の仲である。
敵軍のサンタ・アナ将軍の大軍団がアラモを完全に包囲するにはまだ数日掛かる。夜闇に乗じて打って出てゲリラ戦法で波状攻撃を掛ければ、勝機はまだあるとするのが、ジム・ボウイの戦略だ。だが、堅物のトラビス大佐は、それを許さない。ジム・ボウイに言わすと、この崩れかけた伝道所で、7000の大軍を防ぐというのか? 死を待つだけの無能な男と見る。やりきれない気持ちで大酒を飲み、酔い潰れる。
一方、メキシコ軍の総司令官サンタ・アナ将軍も、メキシコを南から北へと縦断し、統制の取れた近代的な軍隊で抵抗勢力を踏み潰し、アラモを目指す。アラモが両軍宿命の決戦場となる。
メキシコからの独立を目指すテキサス義勇兵188名が、メキシコ軍司令官アントニオ・ロペス・デ・サンタ・アナ指揮下4000人(映画の中では7000人)の軍隊に包囲された。1836年2月23日から3月6日までの13日間、188名が立て篭もり死守した砦のことである。アメリカの守備隊は多勢に無勢、デイビー・クロケットもジム・ボウイも全員壮絶な最後で全滅した。
これから間も無く、テキサスは独立を果たし、そしてアメリカ合衆国連邦に組み込まれていく。だから、アラモはアメリカ人にとって、テキサス独立の象徴であり、アメリカ建国の一里塚でもある。
ジョン・ウェインがデイビー・クロケット、リチャード・ウィドマークがジム・ボウイ、ローレンス・ハーヴェイが英国出身のトラビス大佐、リチャード・ブーンがサム・ヒューストン将軍。テキサス州の大都市ヒューストンはその名に因む。ジム・ボウイはナイフ使いの名手で、ボウイ・ナイフに名を残した。敵メキシコ軍のサンタ・アナ将軍はサン・アントニオの都市名として記憶された。このテキサスから隣のニュー・メキシコ州にかけてはアメリカの歴史を訪ねる旅となる。
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・05:歴史の見方
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今、世界中では、“ヘイト・スピーチ”という些細なことを大げさに取り上げ、隙あれば相手を貶め、罵る手法が大流行だという。それがお互いに激昂してくると、「オマエの母ちゃん、デベソ!」でガキの闘いがネットで展開し、目クソ鼻クソで収拾のつかない混乱状態が発生する。
欧米諸国ですら、スーチーに対して、この手の圧力を掛けてくる。
だが、このメルマガは少し違う。
反対意見があれば、どうして、そういう反対意見が出てくるのかを、ジックリ見学する。
反対意見に耳を傾け、その反対意見に正当性があるのかを、ジックリ考える。
だが、今の日本と隣国の関係も「オマエの母ちゃん、デベソ!」が多過ぎるような気がする。
ガキの闘いに政治家が加わる。
それに比べれば、中国・インドという大国を相手にするスーチーの対応は、歴史的な経緯を踏まえ、卑屈になるのでもなく、傲慢になるのでもなく、大人の政治家の風格がある。
モノの見方には二面ある。メキシコ側からすれば領土拡大に野心満々のアメリカと映り、アメリカ側からすれば、強力な重火器で踏破する残虐非道な独裁者サンタ・アナ将軍と罵倒する。
これはアメリカ側が製作したハリウッド映画である。
しかも、ジョン・ウェイン一家の意気込みが伝わってくる映画でもある。
それを充分に認識した上で、このDVDを鑑賞していきたい。
メキシコ側が製作すれば、もちろん、違う物語となっただろう。
最初、ジョン・ウェインはアメリカ国外でのロケを考えたようだ。できれば、メキシコかパナマで、と息子でアシスタントを務めたプロデューサーのパット・ウェインは語っている。だが、アラモ近くに広大な土地を所有する富豪が出資者となり、伝道所および砦など、町全体を本物ソックリに造り上げるのに協力してくれた。伝道所のサイズは本物の四分の3という。
実はDVDを鑑賞するときに、最も参考となるのが、“Special Features”または“How to make…”と題した監督・製作者・出演者による映画製作の裏話である。中国製海賊版だと日本語の字幕どころか、これらもすべて削除されている。だが、時折落ちこぼしで、これらの裏話が生きていると、宝くじに当たった気分になる。
ミャンマーの若者たちには、DVDは活用次第で、最高の教育教材になることを伝えている。
まず、この当時の上位者は下位のものをMr.付けで呼んでいることだ。
将軍がトラビス大佐に向かって、Mr.トラビスと呼びかける。デイビー・クロケットも同じく、若者にMr.で呼びかける。当時のアメリカ人が、このような礼儀を弁えているとは驚きだ。だから、DVD映画は時代を超えて参考になる。
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・06:アラモは時代と国境を飛び越えた歌舞伎十八番
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伝道所の砦から眺めるとアラモの町に土煙が起こり、サンタ・アナ将軍の第一陣が到着したことが分かる。砦内では、女たちは避難し、男たちは全員受け持ちの位置につく。
騎馬隊が白旗を掲げ、砦の真下までやってきて、命令書を読み上げる。
砦の上にはトラビス大佐以下、主要なメンバーが騎馬隊を見つめる。
守備隊のライフルはすべて、命令書を読み上げる伝令係に狙いを定めている。
敵は休戦の白旗を掲げている。命令があるまで一人として発砲するな、とトラビス大佐が大号令を掛ける。
命令書の内容は、武器弾薬すべてを放棄して、砦を明け渡すようにとの降伏の勧告令状だ。
トラビスは吸っていた葉巻の火で、大砲の火縄に火を点ける。
トラビス大佐の回答だ。大轟音とともに大砲が敵前線に打ち込まれる。戦闘の火蓋は切って落とされた。
サンタ・アナ将軍指揮するメキシコ軍は、アラモ砦の荒くれ者と違い、赤・緑・ブルーの制服で統制が取れ、食料・弾薬・物資の輸送隊も延々と続く。一時間ごとに新しい部隊が到着する。サンタ・アナ将軍の本陣がアラモに到着するには、あと4・5日は掛かるだろう。
メキシコ軍はアラモを完全包囲する作戦のようだ。散発的な小競り合いはあるが、本格的な攻撃は仕掛けてこない。
我慢の限度を越えたジョージ・ボウイが15人ほどの少人数でゲリラ戦法を決行すると、デイビー・クロケットに持ちかける。テネシー州で連邦下院議員を数回務めたことのあるクロケットは、トラビス大佐とジョージ・ボウイの融和を図ってきた。今となっては、ボウイに加担して、敵陣営の夜営地に忍び寄る。敵に気づかれぬため、音を立てずにボウイ・ナイフが後ろから羽交い絞めにし、喉を掻っ切る。戦果は上々で、大量の牛を盗み出し、カウボーイが追い立てるように砦内に追い込み、正門が閉ざされた。
砦内では、久しぶりに豪勢な腹いっぱいの焼肉パーティが展開される。豚肉では味わえない、本物の牛のステーキだぞ、とデッカイ肉の塊がグリルされ、ふんだんに提供される。
トラビス大佐一人が、軍隊の規律を破ったとして、苦虫を噛み潰した顔だ。
アメリカの伝説となったエピソードがいくつも語られる。
日本人にとっては初耳だが、アメリカの一般大衆には幼稚園時代から刷り込まれた伝説である。常識では考えられないが、デイビー・クロケットはライフルの名手で、3歳で熊退治をしたとアメリカ市民の全員が信じている。
その後政界入りし、名演説で人気を博したことも、伝説となっている。この劇中でも、初めて出会う荒くれ男どもが、女性も、子供までが、あの有名なデイビー・クロケット・・と尊敬の眼差しで、アライグマの帽子を被り、鹿皮の服を着た男をまじまじと見つめる。俺は生まれつきの嘘つきだったから、議員をやっていけたと、一流のジョークで笑い飛ばす。テネシー人らしい飲んで殴り合う男らしいゲームにも付き合う。ジョン・ウェインがデイビー・クロケットに成り切った演技で、そしてアメリカの伝統と伝説を堪能できる一場面である。
これこそコンビニ的ひと括りでは、決して味わえない映画の世界である。
ついに、サンタ・アナ将軍の本陣がアラモに到着した。
トラビス大佐たちが立てこもる砦の全面に、カラフルな制服を身につけた軍団が、規則正しく整列していく。
「こんな見事な制服は見たことがない」 「戦いはユニフォームでするもんじゃない」 「だが、連中は2年間実戦で、メキシコ軍を鍛え上げてきた」 「決して柔な連中ではない」 「油断したらダメだ」 荒くれ者たちが、それぞれに批評する。
その内、騎兵二人が、一人はメキシコの国旗を掲げ、トラビスの前にやってくる。そして、もう一人が、巻紙の命令書を読み上げる。
「メキシコ軍最高司令官はたった今、アラモに到着した。砦内には戦闘に従事しない女性と子供が大勢いると聞き及んでいる。彼女たちには非常に申し訳なく思う。非戦闘員の女性・子供を即座にこの砦から退避させてもらいたい。彼女たちには何らの危害行為も加えない。彼女たちが希望する場所への輸送は当方が責任をもって行う。今から、一時間の猶予を与える。
メキシコ軍最高司令官サンタ・アナ将軍!」
そして「あなた方の回答は?」と、騎兵の一人が折りたたんで、返事を要求した。
トラビス大佐は、しばらく考えた末、口を開いた。
「将軍の寛大な申し出に感謝する。我々は非戦闘員を砦から退避させる」
それを聞いて、二人の騎兵は手綱を返して、戻っていった。
一瞬の静けさが砦を包む。
トラビス大佐が大声で「独身の者どもは配置につけ。結婚している者は、家族の出発の準備を手助けせよ」、女性陣の出立をエスコートする男たちが隊列を組み白旗を先頭に掲げる。そして女性たちの荷馬車が続く。
中には、退避を断る女性もいる。トラビス大佐が夫人に支度を急がせる。「私は軍人の妻です。私の子供も軍人の子供です。私たちはここに残ります」、夫人の弟でトラビスの秘書官が「大佐でも自分の妻を服従させることは出来ないのですね」と皮肉を言う。トラビスは「君のことを誇りに思う」とジーンとする一場面だ。
荒くれ男がひとり、品のよい女性と子供・老婆の乗った荷馬車に近寄り「私には別れを告げる女性がいない。変りにアナタにグッバイをいって良いですか?」「勿論ですとも!」と言って手を差し伸べる。男が手の甲に恭しくキスをして、見送る。
悲喜こもごもの小さなドラマがあちこちで展開される。
トラビス大佐はクロケットとジム・ボウイの間に立ち、結婚している男は元の配置に付けと大声を上げ、砦の正門をオープンするように命令する。そして退避する荷馬車の列がメキシコ軍の方へと消えていく。
しばらくすると、女性たちをエスコートしていった男たちが、砦に戻り戦闘体制に付く。
メキシコ軍の着飾った軍楽隊が、戦場に進軍ラッパを鳴り響かす。
さぁ、運命の決戦である。真昼間の長い一日が始まる。
ライフルの射程距離は、それほど長くはない。名手デイビー・クロケットは「充分に相手を引き付けて撃て。まだ撃つな!まだ撃つな!」を繰り返す。そして「今だ!」の号令で一斉にライフルが火を噴く。最前列の歩兵たちが、倒れていく。
砦の上からは、戦闘の模様が見渡せる。砦の中にも、大砲はぶち込まれ、噴煙を上げる。
砦の内も外も騒乱状態だ。
砦の周りには、斃された屍が当たり一面に散乱している。
メキシコ軍の歩兵が、それにもめげず、砦に向けて歩を進める。
あまりの惨状に司令官が退却のラッパを吹かす。
クロケットも、それを認め「撃ち方、止め! 敵は退却している」の号令を掛ける。静寂さが戦場に戻ってくる。
砦の中では、負傷した兵士たちの看護で大忙しだ。死体は死体で馬車に積み込まれる。
砦の外では、倒された屍の山に、年老いた老婆たちが、駆け寄り十字を切る。
「今日は多くの勇敢な兵士が殺された。敵ながら天晴れだ。オカシナ気分だ。俺が撃ち殺した相手だが、彼らのことを誇りに思う。多くの彼らは死ぬことを怖れていなかった。多分、自分たちに正義があると、信じていたのだろう」と、テネシーの男がつぶやく。
場面は変り、負傷したジム・ボウイの傍らで、クロケットとトラビスたちが語り合っている。「今日はラッキーだった。それに軍隊の士気も大いに上がっている。助っ人の1000人が到着すれば、鬼に金棒だ」、トラビスが訂正する。「いや、その数字は半分の500人だ」、ジム・ボウイが「それじゃ、1000人の助っ人を言うのは、ウソだったのか」と咎める。
そこに状況を偵察に行っていた早馬が戻ってくる。水を一気に飲み干すと「助っ人の軍隊は待ち伏せの攻撃で、全員殺された。待っても、助っ人は来ない」と報告する。口を利くものは、一人もいない。悲壮感が全員を包む。負け戦を全員が覚悟する。単に負け戦ではない、それは“全滅”を意味した。
この映画は、アメリカ映画としては非常に稀有な例であるが、“全滅”を前提に描かれた映画である。それだけに、アメリカでは伝説となった物語である。
多分、この時代のアメリカ人までは、日本の平家物語、勧進帳あるいは忠臣蔵を理解できる、感受性の高い精神が宿っていたのではなかろうか?
ジム・ボウイが担架に横たわりながら「俺の仲間は、引き上げる。そして北へ向かう。クロケット、お前もついてくるか?」と訊ねる。
ボウイの一隊が全員馬に跨り、砦の内庭に集合する。
トラビス大佐が、その中央に立ち「諸君、斥候の早馬が新しい情報を持ち帰った。それは死に相当する絶望的な情報だ。ファニン大佐は待ち伏せを受け絶滅した。待っても、助っ人はやってこない」
さらに続ける「私は最高司令官としてここに留まる。だが、去りたい者は名誉の敬意をもって送り出したい。防衛する砦は、これ以上強化は出来ない。だが、士気は決して衰えていない」
去る準備をして馬に跨ったクロケットもジム・ボウイも、そしてその部下たちも、神妙な顔をしてトラビスのスピーチを聞いている。
「去っていくという貴方たちの行為を、誰であろうと咎めることはできない。この10日間というもの、城壁を厚くし砦の守備を固めてくれた。そして敵の攻撃を仕留めてくれた。それは勇敢な行為であり、貴方たちは気高い兵士であった」そして「オープン・ザ・ゲート!」と開門を指示し「神のご加護があるように!」とスピーチを終わる。そして全員をゲート近くで見送る。
そしてジム・ボウイがゲートに向かい、その手前で馬を停めると、後ろを振り向き全員の顔を見渡す。おもむろに馬から降り、びっこを引きながら歩み寄り、仲たがいしていたジム・ボウイが口も利かずにトラビス大佐の横に並ぶ。
続いてジム・ボウイの身辺の世話をしていた黒人奴隷が、後を追いかけるようにジム・ボウイに従う。それを見た部下たちが全員下馬して、ジム・ボウイの周りに集まってくる。それをクロケットの一隊は乗馬したまま見つめている。
クロケットは改めて自分の部下であるテネシーの荒くれ者たちをゆっくりと見渡す。一人ひとりが馬から降りはじめる。最後にクロケットが下馬する。
全員が黒人奴隷、ジム・ボウイ、トラビス大佐の後ろに並び、クロケットが大佐の横に並ぶ。すべては無言のままだ。
砦から出て行くものは一人もいない。そこでトラビス大佐の「クローズ・ザ・ゲート!」の命令が下る。
ドナルド・キーンであれば、この場面はアメリカの歌舞伎十八番とするところだろう。
総攻撃は明日朝一番に始まる。横になりながら、問わず語りがはじまる。
「死後の世界を信じるか?」「死ねば、蛆虫の餌になるだけだ。神の国なんて、子供だましの作り話だ」「いや、俺は神を信じる。善は必ず勝利する。そして悪は必ず滅びる」アメリカ人好みの信じるか、信じないかが話題に上がる。
ジム・ボウイが珍しく蝋燭の灯りで書き物をしている。そこに身の回りの世話をする黒人奴隷のジェトゥロがやってくる。「これが何か、分かるか? ジェトゥロ!」「何ですか?これは!」「死んだ女房と約束していたものだ。お前を今日限り自由の身にする。この書付があれば、お前は今日限りフリーマンだ。この書付をもって、今夜、そっと砦の壁を駆け下りろ。脱出したら、脱出したで、もっとハードな人生が待っているかもしれないが。俺にできることは、それだけだ」
書付をもらって立ち去ろうとするが、思い出したように「フリーマンということは、自分の意思で自分のやることを決められるということですネ。それなら、私はここに留まります」
すべては歌舞伎十八番の筋書き通りに進む。
朝が開けると、真っ赤な制服に白ズボンの軍楽隊がドラムを鳴らしながら、アラモのとりでを四方から包囲する。その横には歩兵部隊、そして重装備の大砲大隊、アリの一匹這い出る隙間もないほどの包囲陣だ。遠くの山々からは続々とメキシコの軍隊が詰め掛ける。その数の多さに、180数名の守備隊は、誰もが唖然とした表情で、応戦する構えすらしていない。ただ、呆然と見つめるだけである。
トラビス大佐がひと言。「諸君、幸運を祈る。守備位置につけ!」
今までに見かけなかった長距離大型砲が、はるか彼方から、砦の中にぶち込まれ炸裂し、あちこちが破壊されていく。阿鼻叫喚の地獄となる。工兵隊が砦を乗り越える長い梯子を、撃たれても撃たれても、次々に立てかけていく。騎馬隊は低い柵に集中して飛び越えようとする。歩兵も騎馬隊も、狙い撃ちをまったく怖れずに、次々に波状攻撃を加えてくる。兵器庫に火が点火され大爆発が起こる。
このアラモ劇の主人公はそれぞれに壮絶な死を遂げた。全滅である。
メキシコの仕官が、奥の部屋で覆いを取り除けると、トラビス大佐の夫人と幼い娘、そして世話係のメキシコ人の子供が怯えた表情で見上げる。
今回、生き残った唯一の生存者である。
幼い娘はロバに乗せられ、メキシコ人の子供が手綱を引く。傍らの母親にパパはどこにいるの?とけなげな質問をする。それに気づいたメキシコ軍の将校が号令を掛けると、ラッパ隊が悲しげな別れの曲を奏でる。近くのメキシコ軍全員が起立して、敬礼してこの三人を見送る。
21世紀の時代には、ゴルフ外交や経済談義が、洗練されて相応しいのかもしれない。
だが、アラモというアメリカ人が誇りとする歴史を語るのも悪くない。意外とお互いに琴線に触れる共通項が見つかるかも知れない。お互いに哲学するという教養とユトリがあればの話だが・・
*
2018年も押し詰まってきた。一年間すっかりお世話になりました。今年はこの号が最終回です。メルマガの中身も時代の趨勢で変貌していきます。しばらくは海賊版DVDが続きそうです。気に食わぬ方は、どうぞ、購読中止のボタンをクリックお願いします。
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