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<ミャンマーで今、何が?> Vol.25
2012.12.27

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar


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■テインセイン大統領の深謀遠慮

・01:テインセイン大統領の低姿勢
・02:参謀型のテインセイン大統領
・03:テインセイン大統領の狙い
 ・04:テインセイン大統領の配慮と一世一代の賭け
 ・05:四面楚歌を抜け出す
 ・06:大統領の自己革命
 ・07:改革派で身辺を固める
 ・08:日本とミャンマーの関係
 ・09:日本の信頼度
 ・10:2013年は未知のゾーン

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・ミャンマーで今、何が?

■テインセイン大統領の深謀遠慮


●01:テインセイン大統領の低姿勢

2011年3月に新政権誕生後、テインセイン大統領以下、ミャンマー議会の上院議長・下院議長、そして大統領を取り巻く閣僚すべてが外国の首脳と会談するたびに、テインセイン大統領が進めている政治改革・経済改革、そして民主化改革は国民の利益を最優先するもので、決して後戻りはせず、前進あるのみであると約束し、実際に各方面でその言葉を裏切らない数々の改革を矢継ぎ早に実行してきた。

海外の新政権を見る目は特に欧米の主力メディアがそうだが、軍服を市民服に着替えただけの民主化と不信感に満ちたコメントを繰り返してきた。そして、経済制裁を敷いている米国はじめ欧州諸国の首脳はメディアほどきつい口調ではないが、政治犯釈放の要求・人権問題を掲げてビルマに対する不信感を表明し、北朝鮮と同格の扱いをしてきた。

四面楚歌のこのような状況を覆すのは並みの国家元首・国家指導者では不可能な大仕事である。しかも、独裁者タンシュエ議長の忠実な部下として知られたテインセイン将軍であっただけに、国内外の世間の風当たりは強く、国内のしかも軍人仲間からも信を得ることはできなかった。


●02:参謀型のテインセイン大統領

戦場で力を発揮する戦闘型の将ではなく、むしろじっくりと戦略を練る参謀型の将軍であったことが、ミャンマーという国家にとっても、ミャンマーの国民にとっても幸いしたのであろう。もう少しオーバーな言い方をすれば、テインセイン大統領という未曾有の人物を得なければ、今日のミャンマーはなかったであろうし、2013年のミャンマーもないであろう。


●03:テインセイン大統領の狙い

この参謀型の将軍が採った戦略そして智謀は大統領と同じ1945年生まれで2ヶ月しか年齢差のない一人の女性を口説き落とすことであった。唯そのことに知力のすべてを投入した。場所は戦場ではない、ネイピードの大統領公邸である。隙あれば命を狙い未来への夢を断ち切るという非情の限りを尽くしてきた軍事政権の中で、ただ一人スーチー女史をねんごろに自宅に招待し、大統領としての夢を切実に語ったのがテインセイン大統領である。

スーチー女史もただのアイドルではない。ミャンマー最強の反体制派の闘士である。これまで敵対視してきたその大物が落ちたのである。当然最初の出会いはぎごちない形だけの挨拶で、不信に満ちた眼差しで大統領を見ていたことであろう。スーチー女史ほどの人物なら、相手の目の奥底まで見通し、その言葉一つ一つの真意を咀嚼し、言葉にどれほどの重きのある人物かどうかを量っていたに違いない。


●04:テインセイン大統領の配慮と一世一代の賭け

そして、これは非常に重要なことだが、両巨頭会談のあとで、ビルマ軍創設の父でビルマ独立の国父と仰がれ、スーチー女史の父親でもあるアウンサン将軍の大きな額縁の真下にこの二人が並んで立ち、歴史的な記念写真を報道陣に撮らせている。

これまでの軍事政権は自分たちが崇拝するアウンサン将軍の国民的人気と、15年間という長い自宅軟禁にも屈せず無抵抗という最大の武器で闘いを続けるスーチーとの相乗効果を最も恐れ、軍首脳にはこの父と娘という国内最大の両人気者を絶対にリンクさせてはならないという不合理な不文律があった。

したがって、アウンサン将軍の下でスーチー女史と並んで撮った記念写真を公表するというテインセイン大統領はスーチー女史に対するきめの細かい配慮を示すと同時に、一方では軍首脳部に対する危険な賭けに一歩踏み込んだものと解釈すべきであろう。

当時、軍内部の不協和音は正式のコメントとしては何一つ表面化しなかったが、テインセイン大統領非難のウワサが不気味な形で飛び交った。だが、この熟慮型の参謀が勝ち得た大きな果実はスーチー女史の会談後の短いコメントであった。「テインセイン大統領は誠実な方です。(数多いる軍人の中で)ただ一人信頼できる人です」、この一言が世界を駆け巡り、経済制裁を科している欧米諸国の首脳までがスーチー女史の真意を確認しようと必死に動き回った。

テインセイン大統領とスーチー女史の会談内容はその後の会談も含めて極秘扱いとなっており、決して外には漏れてこない。


●05:四面楚歌を抜け出す

北朝鮮と同等の扱いを受け、表面だけの民主化、一皮剥けば実態は軍事政権と非難され、本来は一枚岩であるべき軍事政権の中でも四面楚歌に置かれていたテインセイン大統領が碁盤の面上に最初に打った布石はスーチー女史との和解であった。大統領として誠心誠意を尽くしての一手である。並みの国家指導者では考えられない初手であった。しかも、その最初の一手が米国・EUの経済制裁解除につながるのである。

そして、今、世界中のビジネスマンがヤンゴンを目指し、ネイピードーを目指す。そして世界の首脳が自国の企業グループを後押しするためにテインセイン大統領とのアポ取り付けに必死である。


●06:大統領の自己革命

最初はアセアン10カ国の会議ですら気後れするような態度であったテインセイン大統領がNYに国連総会で演説したころから、積極姿勢に転じたように見受けられる。しかも、特に米国の主要メディアからの直撃質問を巧みに捌く各国首脳の記者会見から学んだのだろう。ミャンマーに戻るなり、大統領府の大統領顧問顧問と相談して、定期的な記者会見を行うとテインセイン大統領は発表した。

ミャンマーでは当たり前であった秘密主義から大きく脱皮して大統領自身が透明性および説明責任を自己に科したのである。大統領自身が自己革命を推進中である。それと前後して、ジャーナルなど印刷物に対する事前検閲を廃止し、インターネットへの介入も解除された。当然、内外のマスコミからは賞賛の声が上がり、これまでの大統領を見るマスコミの目も大きく変わってきた。大統領の改革が本物であるということを実感し始めたのである。


●07:改革派で身辺を固める

最大の難関であった米国の経済制裁を解除させ、欧米各国の経済制裁が解除されるころから、軍内部の強硬派あるいは保守派と言われたタカ派のテインセイン大統領に対する対応が目立って変わり始める。大統領はそのタイミングを捉え、その強硬派を自分の身辺から徐々に遠ざけ、改革を支持する大物元軍人および実力派民間人を大統領府の自分の身辺に配置した。そして閣僚の大幅改造を一気に行い、大臣・副大統領を選別していった。

繰り返すが、四面楚歌の状況からここまでの青図を描ける智謀の将がかって歴史上に登場したであろうか、少なくともビルマ・ミャンマーの歴史にはいない。大統領自身が大きく豹変したのである。その自信が海外の首脳との会談でも雰囲気に表れている。オバマ大統領との会見でも一歩も引けをとらない実に堂々たる対応である。

その後、国賓としてブルネイやインドに招かれるが、今や風格あふれる時の人となっていった。


●08:日本とミャンマーの関係

その大統領が日本という国を訪ねたのが2012年の初め。まだ今年のことである。そこでは積極的にそして精力的に各方面の人物・業界・団体と会談し仕事師テインセイン大統領の真価を十分に発揮した。

そして今、ダウェーの深海港および特別経済区(SEZ)プロジェクトではカウンターパートナーのタイ首相に対してテインセイン大統領が第三国からの投資参加の必要性を説き、そこで大統領は名指しで日本からの投資を呼びかけインラック・シナワットラ首相の賛意を取り付けている。

その前に、ヤンゴン郊外のティラワ深海港および特別経済区が最優先プロジェクトしてすでに進行中であるが、ここでも日本のコンソーシアムが49%の投資シェアを確保している。

もうひとつの計画として大商業都市ヤンゴンに目を向けると、ヤンゴン大経済圏の電気・上下水道・幹線道路・鉄道などのインフラはほとんどが英国植民地時代の代物で、これからの経済発展に対応できるものはない。その核心となるヤンゴン市庁舎の会議室で活躍しているのが日本のJICAなど専門家グループである。このヤンゴンのウー・ラーミエン市長は前の駐日ミャンマー大使である。

この3つのケースで見る限り日本との提携にはそれなりの理由があるような気がする。かっての“ルック・イースト!”がもっと具体的に“提携するなら日本と組め!”に変化してきたと見るのは甘すぎるだろうか。


●09:日本の信頼度

日本製品は確かに高い。だが、どれをとっても品質は確かで、故障は少なく、部品の品揃えは完備し、そのサービスには心憎いほどの配慮が行き届いている。これまで周辺諸国の販売政策は安いだけが唯一の武器であったが、長い目で見れば日本製品は決して高いのではなく、むしろ安心付の安い買い物だという評価をこのミャンマーはというよりも、この国の指導者が下したのではないのだろうか。

確かに欧米の巨大資本は超有名ブランドでミャンマー市場を席巻するかもしれないが、その大資本は6千万人以上の消費者がいるミャンマーをあくまでも草刈場としてしか見ておらず、植民地時代のわだかまりをトラウマとして持つミャンマーが、同じ東洋人としてのブランドに大統領自身が信頼を置く評価を下したのではないだろうか?

もちろん、これほどの智謀の人物であるテインセイン大統領であれば、日本べったりの態度で欧米の非難を浴びたマハティール首相の轍は踏むまい。むしろ、欧米にも配慮をした政策を採りながらミャンマーの国民がそれを望むか否かに判断基準を置き、真の民主主義国家を目指すかもしれない。実際には文民国家には程遠い現状ではあるが。だが、場合によってはスーパーパワー国である中国のミッゾーン水力発電所ダムを拒否したように、パワーバランスを利用した牽制策によってミャンマーの国際的優位性を狙うかもしれない。


●10:2013年は未知のゾーン

来る2013年を一言で占うのは不可能であろう。これまでがそうであったように、2013年は更なるサプライズがこの大統領によってもたらされることと思われる。

そのサプライズの証人となるために是非週刊メルマガ「ミャンマーで今、何が」を新年も継続してお見逃しなく。

最後になりましたが、2012年のご購読閲覧に心から御礼申し上げます。



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◆2012年の購読閲覧まことにありがとうございました。

2013年の引き続き有意義な情報をお届けしたいと思いますので、継続してのご購読をお願い申し上げます。

今回はミャンマーの民主化にはやはりテインセイン大統領の深謀遠慮があったことを少し掘り下げてご紹介したいと思います。

皆様のご健康と2013年のご活躍をヤンゴンより心から祈願申し上げます。

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