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<ミャンマーで今、何が?> Vol.242
2018.1.23
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■たかがカレー、されどカレー
・01: カレーは辛さだけで味合うモノではない
・02: インドの媚薬
・03: ところで、そのレシピは?
・04: プロフェッショナル
・公式ツイッター(@magmyanmar1)
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01: カレーは辛さだけで味合うモノではない
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この訪問客ならと気合いを入れて、準備するときがある。それも気分次第だが…
近くのボーガレ・ゼイの朝市で材料を仕込む。買い出しは数日前に始まる。
カレーだけは一晩越すと、味に深みが出る。味が化けてくれるのだ。
カレー料理には東西文化の長い歴史が煮詰まっている。一帯一路よりもはるかに奥行きの深い馥郁な香りが混じり合っている。
ボンベイのインド料理店だったと思う。(R)"カイバー峠"でえも言われぬカレーの、これが"醍醐味"という味を経験した。ミャンマーではソレに匹敵する美味に、まだ出会えない。
スーダンとエジプトの若者からは指で食すマナーを学んだ。ヨルダン人も混じっていた。むき出しのコンクリに新聞紙を敷き詰め、アラブの連中が手作りカレーの幾種類かを馳走してくれた。ライスとカレーを指でまぶし、親指の背で口に放り込む。その技は、粋でイナセに見えた。
最近は日本人もスシを箸でつまむ。食い物はソモソモ指で食うのが原点である。欧州では、フランスもイギリスも気取ってシルバーウエアだが銀食器ほど味気ないものはない。木でも竹でも, 箸の方がまだマシだ。英国に歯向かって独立したアメリカに、手で摘むホットドッグとハンバーグが出現したのは歴史的必然かもしれない。ミャンマーでは、この指フォークの文化が立派に残されている。友人にもよるが、シャン州ではこの伝統をタップリと味あうことができる。 ここにはグルカ兵の子孫も共存している。
日本のカレーはインドを征服した英国海軍から、あるいはロンドン経由でやって来た。すなわち、西廻りでやって来た。例外は新宿中村屋(ここにはインド独立の秘話が隠されているが、今回は省略)のカレーで、これは地球を東廻りでやって来た。本場インドからの直輸入である。この二つが日本では独自に発達して、日本味のカレーができあがった。だが、辛さだけでカレーを評価する最近の日本文化だと、イギリス同様にインドを理解する目が曇り、世界史を読み解く判断が、狂うことになる。
本場ものカレーと言っても、雪を戴く山岳地帯の北部と椰子林の連なる海岸線の南部では、風味が大きく異なる。気候が違えば、当然だろう。さらに細分化すると、インドは東西の横方向にも広大で、ミャンマー同様に多民族国家で成り立ち、カレーも多種多様である。
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02: インドの媚薬
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アナタが本当にカレー好きならば、芳醇な香りから、あるいはアナタの味蕾(みらい)を通して、ターメリック、ブラックペッパー、サフラン、クローブ、シナモン、チリパウダー、ナツメッグ、アーモンド、レッドペパー、カシューナッツ、カルダモン、コリアンダーパウダー、マスタードシード、ガーリック、ココナッツパウダー、クミン、ジンジャー、カレーリーフ、陳皮、フェンネル、パプリカ、ローレル、メース、タマリンド、レモングラス、バジル、スターアニスなどが、時には慎ましく、時には大胆に、アナタを誘惑してくれる。気分次第でミルク、チーズ、ヨーグルトなどで、風味を添えたくなる時もある。それにプラスしてレモンの若葉は生で口に含み、採りたてのライムのひと絞りが食卓をさらに豊かにしてくれる。ここミャンマーでは、その全てが手に入る。
これらは植物の種子、果実、花、つぼみ、葉茎、木皮、根塊などで、刺激性の香味を発し、飲食物に風味や着色を施すのみならず、食欲増進や消化吸収を助けてくれる媚薬である。これら植物が、インドからインドネシア一帯にかけて自然の野原に自生していた。インドネシア東部、スラウェシ島とニューギニア島の間に散在するモルッカ諸島を?発見?したヨーロッパ人はこの辺り一帯を香料諸島(Spice Islands)と名付けた。
だが、食の貧しいヨーロッパ人が世界で初めて?発見?したのではない。この辺り一帯は紀元前からすでにインド人の生活圏で、インド人は豊かな食生活をエンジョイしていた。シンドバッドのようなインド商人は商圏を広げ、このカレーと言う芳醇なグルメをインド洋から紅海・地中海、そしてモロッコの端まで、あるいはアラビア海を通じて、ペルシャ・トルコの小アジアにまで広げていった。 アラビアン・ナイトの物語とともに…
ここは壮大さに劣る、食生活も貧しい、白人社会のキリスト教国が手を出せない領域であった。
科学的にも、軍事的にも、文化的にも…
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03: ところで、そのレシピは?
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カレーの秘儀はギー(ghee)に始まる。インドで常用されるバターオイルのことである。
古来食用、薬用に供され、灯明や祭壇の供物、火中に投じ炎とする宗教祭儀にも用いられ、宗教を厳守する菜食主義者が食用にできる唯一の動物性脂肪である。水牛、牛、ヤギ、ヒツジ、ヤクの乳を精製したものである。
中国唐代に言う、乳製品の醍醐(だいご)とは、このギーのこととは、ほぼ定説化されつつある。
ところで、大さじ1/3とか、ひとツマミ、?g、?mlなどのマニュアル・レシピは素人の料理で、最も大切なのは料理人の味見ではないだろうか? それによって、塩と砂糖の分量が逆転しても一向に構わない。シバレル北海道と、沖縄の真夏では、レシピは参考になるとしてもバイブルではない。実際は有って無きがごとしである。そこにプロへの出発点があるのでは? プロは何度も、何度も、味見する。そして自分の舌で手心を加える。職人の舌である。
料理そして酒というものは、それを味合う場所、季節、時間帯、温度などの環境によって、それぞれ異なる。断定はしないが、そうだと思う。ましてやそれを味わう人の体調次第で大いに異なる。そうではないだろうか?
それを一緒くたにして、マニュアルブックのレシピで提供する和食レストランが、ここヤンゴンには溢れかえっているような気がする。料理長自身、味見しているのだろうか?
和食だけではない、数日前にも開店したばかりのインド・レストランを試してみた。
立派なメニューで、扉裏の文句が良い。奥行きの深いインドの、そしてペルシャ王朝を偲ぶような流麗な文句が踊っている。ビールを飲みながら、デリーのムガール王朝に、そしてパンジャブの山岳地帯に想いを馳せる。正統なインド料理店では酒類は出さないが、時代の流れで、これは許そう。
試しに注文したビリヤーニの味は悪くなかったが、給仕がまるでなってなかった。料金だけはマハラジャの代金を要求された。この店には二度とこないだろう。そして思った。
レストランも今の時代、戦争と一緒で、総力戦であるとツクヅク実感した。
何を言いたいかというと、マニュアル通りに作っても、客が満足して、しかもリピーターの顧客にならないと、レストラン戦争には勝ち抜けないということである。総合力である。
顧客が満足したかどうかは客の顔で分かる。それを見分けず、お客にアンケートを求めるホテル・レストランは多い。その時点でビジネス失格ではなかろうか?
白状すると、私のカレーのお客は実はモルモットになっていただいている。
どの日本人客も、不味かった、とは決して口にしない。
それ以上にミャンマー人はネガティブな発言は避ける。
歴史的に、地政学的に、揉まれてきたミャンマー人は、実に外交的である。その延長線上にスーチーは存在する。国境を接する隣国との外交関係を一時的にも遮断するような愚策はとらない。
モルモットの顔色次第で自分のカレーが失敗かどうかが分かる。
そして宴の後の残飯処理作業で、客人の好みが分かる。だから、客人が帰宅した後の皿洗いはシェフにとって貴重なアンケート作業となる。これが次回に生かされる。
チキンカレー、マトンカレー、エビカレー、野菜カレー、フィッシュヘッド・カレーなど、メニューは幾種類もある。だが、それは単に材料による仕分けで、カレー味の醍醐味はギーをベースにしてスパイスの配合とグレービー・ソースの煮詰まり具合による。
例えば、鶏肉をギーで炒めるのだが、気分次第でガーリック・タマネギも用いる、鶏肉には塩・コショウをまぶし、サフラン・ターメリックも加える。隠し味的に醤油を少々(mgでは表せない)垂らすと日緬合作の味覚が引き立ってくる。鶏肉に焦げ目がついたところで、熱湯を少量づつ注ぎトロミを付けていく。メリケン粉などのつなぎは使わない。そして用意してある20〜30種類のスパイスの宝庫から芳香性、辛味性を試しながら、それらを加えていく。
そこに、日本独自に発達したジャガイモとニンジンの混入は、評判が良かった。
別途にギーで炒めたこれらを途中で混入させる。これでボリュームが大きく増える。大人数のパーティーにはこれだけで十分な量となる。チキンカレーと野菜カレーのフュージョンが出来上がった。
Parson's Noseという部位がある。鶏肉の部位で筋肉が最も発達し、しかも軟骨を含んでいる。
この部分が大好きだという友人がいる。これをカレーに試してみた。仲間内でこれが評判となった。調子に乗って、次からは鶏のレバー、鶏の皮、脚部、臓物と試してみた。ひと口にチキンカレーと言っても、ムネ肉・モモ肉・コシ肉だけではない。利用する部位は多様で、予算に幅が出てきた。
ちなみに、このパーソンズ・ノーズとは鶏の肛門周りの尻肉である。収縮と弛緩を繰り返してきた括約筋である。シティマートでも充分に洗ってあるので、衛生上問題はない。しかも鶏肉部位では、鶏の皮と共に価格が最も安い。鶏ガラはもっと安いが、これはスープ用である。
もちろん高級スーパーなどでは手に入るだろうが、福神漬け、ラッキョウ、紅ショウガなどは使用しない。ここはヤンゴンだからだ。地球上どこに行っても現地調達できるもので代用するのが、プロのアジ付けである。直行便の就航で、日本直送と銘打ったレストランは数多い。お気づきだと思うが、日本とヤンゴンの温度と湿気は全く異なる。それで日本のアジを食え、と言うのはシェフの傲慢ではなかろうか?
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04: プロフェッショナル
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伝説的な料理人がシンオーダン通りというヤンゴンの港町にいた。
健康を害してというより大病を患い、家作と農場はそのままに、日本へ戻った。そして、かなりの年月が経った。久方ぶりにヤンゴンに戻ってきた。本当に久しぶりだ。この人物の経歴は多彩だが、それを決してひけらかさない。
味覚の探索が人生だった。今でも、その土地の、その季節の、客人のアジを探求している。だから、自分の試作品を天性の笑顔で客人に勧める。だが、その目は鋭い。客人の反応を決して見逃さない。プロの目で表情を読み取る。そして次の試作品にはさらに手が加わる。エンドレスのチャレンジに生きている。
ベンガル湾の海岸線を歩き、漁師村の魚貝類を吟味する。一年12ヶ月で、そして遠洋もの近海もの、地引網と、それぞれに獲モノは異なる。海が荒れ、漁に出れない季節もある。この料理人は頭の中でああでもない、こうでもないとミャンマー・ビジネスを組み立てていく。ヤンゴンから西海岸のベンガル湾までは通い慣れた道程で、冷凍・保冷などの物流作戦にも独自のアイデアが閃めく。
その懐かしの友人が冷凍した"ママカリ"をパックで持参してくれた。味わってくれという。しかも久しぶりと、冷えたビールまで持ってきてくれた。地元ベンガル産で、安易で高価な直行便ではない。
この"ママカリ"はニシン科の海水魚サッパの酢漬けで、あまりの美味さに自宅の米びつを食い尽くし、隣家にまでママ(飯)を借りに行くほど美味だと、"ママカリ"と命名された。
ミャンマー人の光モノはゴールドに限られる。だが、ワタシの大好物はサバ・サンマ・イワシなどの光モノで、日本での第一歩は寿司屋から始まる。
今回の手作りは甘酢が絶妙に効き、ライムの薄切りがトロピカルの風味をさらに盛り立ててくれる。今回はすべて御持たせで、この純ミャンマー国産はヤンゴンで味わうワタシの臓腑を完璧に満足させてくれた。だが、本人に言わすと、この気候風土だと、もう少し甘みに手心を加える必要があり、まだ実験段階とのこと。そして、もうじき新製品が出来上がるという。それにしても、この海水魚サッパは小骨が多いと聞く。それだからこそ、その処理も含めて、ミャンマー独自の事業化が可能だと、このプロフェッショナルは話してくれた。
この友人のストーリーは、ミャンマーの西海岸ベンガル湾にズームインしたかと思うと、グーグルアースを宇宙から眺め、今度はヤンゴンの和食料理屋にフォーカスし、続いてタイ・バンコクの日本料理屋に飛んでいく。そしてASEAN残り8カ国も視野に入れ、逆に直行便を利用して日本をも商圏に取り込もうとしている。マニュアル連中とは全く逆の発想をするプロフェッショナルには、大いに惹かれるものがある。
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