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<ミャンマーで今、何が?> Vol.207
2017.01.05

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■THE WEST WING

 ・01: チェインジの始まり

 ・02: 「ウエスト・ウイング」

 ・03:ここで登場するシュエマンとは?

 ・04: 与党USDP内部の政変劇

 ・05: マスゴミ(マスごみ)

 ・06: 不満を抱いて、なぜミャンマーに留まる?

 ・07: A skeleton in the cupboard

 ・08: 賢明な選択

 ・09: 最後に

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01: チェインジの始まり

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レイモンド・チャンドラーの言葉を借用し、年越しの「ロング・グッドバイ」をお詫びします。
日本とヤンゴンを往復するうちに、両国間のギャップ(すなわち、モノの見方)の大きさに衝撃を受け、精神的なバランスを失い、メルマガ原稿に着手する気力も失せ、呆然と日々を過ごしておりました。

明らかに鬱病、精神異常の兆候である。

道に迷った時は始発駅に戻るのが常道のようだ。
4年前にスタートしたメルマガのバックナンバーを辿ってみた。ミャンマーの現在を書き留めるつもりが、奇しくも激動の瞬間に立ち会っていたようだ。

気晴らしとしてDVDショップにも久しぶりに顔を出した。古典の名作映画、ドキュメンタリーの棚と順番に巡るうちに"THE WEST WING"のタイトルを見つけた。一瞬、後頭部をバットでぶちのめされたようなショックを受けた。

あれは紛れもなくこの店で、4年前の2012年のことであった。
言葉が通じず、"THE WEST WING"とメモ書きした紙片を店員に示してみた。応えは"ムシーブー"(無い)の一言。諦めきれずカウンターの店主に尋ねたが、同じく無愛想な対応だった。

その後この店主は、本人も気づかぬうちに、東西南北研究所の優秀な調査員に育ったようだ。4年の歳月をかけてもこの大量のシリーズDVDを探し出してくれた。



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02: 「ウエスト・ウイング」

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2012年9月20日付WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)の記事・・・。
ヒラリー・クリントンが前年の歴史的なミャンマー訪問(2011年11/12月)について語っている。

「どうしたらミャンマーに民主的な議会を導入できるか教えて欲しい、と当時、下院議長であったシュエマンから、真摯に問いかけられた」というエピソードだ。
下院議長は懸命に「自分は"THE WEST WING"で勉強している」と語ったという。

ヒラリーは、あまりにもナイーブな、かと言って非常に率直な、当時、誕生したばかりのミャンマー国会の下院議長であったシュエマンの打明け話を懐かしむように紹介している。 

WSJの記事を目にするや、当時あちこちのDVDショップを駆け回った。だが、ヤンゴンにはこのDVDは一枚もないことが判明した。当時想像したのは、米国に派遣された英語の達者な武官が、米国で大ヒットしたTVドラマをビデオに撮り、シュエマンが気に入るだろうと、外交官ルートで献上したという筋書きだ。多分そんなところだろう。

"THE WEST WING"とは1999年から2006年までアメリカで大ヒットしたTV連続ドラマのタイトル名で、マーチン・シーン演じる米国大統領の側近たちが、大統領執務室(オーバル・オフィス)を初め、副大統領、首席補佐官、報道官、法律顧問など上級スタッフのオフィスを舞台に活躍する政治ドラマだ。彼らの執務室が存在するのがホワイトハウスの西棟、すなわち「ウエスト・ウイング」である。世界最高の権力者はホワイトハウス内の居住区から職場まで徒歩で通勤しているということが、遅まきながら、当研究所も今学習できた。シュエマンより4年も遅れている。お恥ずかしい。

奇才アーロン・ソーキンが脚本の大半を書き上げ、政治ドラマはヒットしないというジンクスを破り、ゴールデン・グローブ賞3回、エミー賞26回をも獲得し、商業的に大ヒットし、大化けしたTV番組シリーズである。まさに英語で言うブロックバスターである。

その成功の陰には、大統領府のスタッフが力を合わせて大統領を盛り立て、時には内部での権力抗争もあり、議会工作の陰謀が渦巻き、時には内部スキャンダルの揉み消しもある。そして米国の優位性を維持して世界をもコントロールしようとする、とにかく政治的にきわどい内容が盛り沢山なのである。

特に見ものは、各オフィス間を早足で歩きながら、上司とスタッフの間で、あるいはライバル間で、機関銃のような早口会話が飛び交うことだ。とくにアメリカの一流大学でMBAや博士課程を取得した超インテリたちの早口会話の応酬が凄い。高学歴のアメリカ人ですら耳で追いかけるのに、アドレナリンが噴き出すくらい中味の濃い高レベルの早口である。

世界の頂点に君臨する最高権力者を影武者のように献身的にサポートするエリート集団の内幕物ドラマである。舞台はアメリカのワシントン、コロンビア特別区、ホワイトハウスの居住区に直結するウェスト・ウイング。しかも過去の大事件をヒントにしたドラマ構成が迫真に迫り、一時も目が離せない。自信家ぞろいの鼻を明かす寸鉄を食らわす知的な会話が炸裂する。その自信家が自室に戻ると、突然敗北感に襲われる。強烈な酒についつい手が伸びる。

シュエマン下院議長でなくとも、政治の仕組み、政治家の心理、そして大統領権限の大きさが、分かったような気にさせられるドラマである。

そして、2017年年初めの時点でこれを鑑賞すると、今月20日からドナルド・トランプがここの主人になることを想像し、興味が一段と高まる。



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03: ここで登場するシュエマンとは?

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軍人の位で言えば、国家元首という頂点にいた上級将軍のタンシュエ、そしてNo.2のマウンエイ、その次の3番手につけていたミャンマー国軍の大権力者であった。ミャンマーの民主化という大変貌で、自分より下位のテインセインが大統領に抜擢され、シュエマンは国会の下院議長に甘んじた。

だが、下院議長とは言え、民主主義の「み」の字も知らない政治家であったことはヒラリー・クリントンが暴露した通りである。ミャンマーの民主化は、そのレベルから始まった。下院議長ですらそのレベルだから、普通の国会議員のレベルも想像がつく。しかも、あれからまだ5年も経っていない。

ラカイン州出身のある議員は初登院の日、ひょっとして逮捕されるかもしれないと、その恐怖をレポーターに語っている。上院議長も下院議長もそれぞれ、議場内では自由闊達に討議を行ってほしいと、沈黙を続ける議員たちに何度も発言を促した。繰り返すが、ミャンマーの民主化は、そのレベルから出発したのである。制度として熟成し確立した民主党と共和党との政権交代と勘違いしたら、「ミャンマーで今、何が?」は出発点からボタンの掛け違いだ。だが、勘違いした非難記事ばかりが目につく。

当時のテインセイン大統領ですら、硬派の軍人仲間からは孤立無援だった。難攻不落の軍人部落を切り崩し一人一人を味方につけ、ネイピードの「ウエスト・ウイング」、すなわち大統領府を構築していった。内外の誰もが信用しない中、危なげな民主化への挑戦が開始した。その努力が見直され、軍人部落からは軽視されていた大統領が、海外の外交団からは好評を博し、海外のマスコミから注目されるようになるには、もう少し時間がかかる。テインセインの地道な努力が徐々に実を結び、その写真がマスコミに頻繁に登場するようになった。

これによって、大統領職の権力の偉大さ、そして民主化の威力を、思い知らされたのがシュエマンその人である。テインセインには大統領職を続投させず、一期で退任させる陰謀が動き始める。そして、次期大統領には自分が就任するとシュエマンは公言するようになった。

この時期、軍部ヒエラルキーNo.1のタンシュエ、No.2のマウンエイは正式に政治の舞台から引退していた。No.3のシュエマンが与党USDPの党首として、そして議会に睨みを利かす下院議長として、軍人部落を抑えられる実力者は俺一人との凄みがあった。憲法上は国家最高権力者のテインセイン大統領も、何一つ実権のない野党党首のスーチーも、そう思っていた。それがこの当時のシュエマンの実力であった。

さすがに軍部のトップに登り詰めた人物である。民主化と海外、特にアメリカのバックアップがミャンマーにとり、どれほど重要かということを見抜いていた。そのためにはスーチーが活用できる。スーチーを活用しない手はない。そこで、スーチーと極秘同盟が結ばれた。

シュエマンが「ウエスト・ウイング」から、どれほどアメリカ流陰謀術を学習したか、お分りいただけるだろう。



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04: 与党USDP内部の政変劇

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メルマガ「ミャンマーで今、何が?」のバックナンバーNo.158/No.159をご参照願いたい。
そこで2015年8月12/13日の政変劇について2回にわたって詳述した。

シュエマンの計算では、スーチーと手を組んでミャンマーの民主化を徹底的に推進する。これがやがて国際的評価につながり、欧米諸国それに追随する国からの制裁を解除する唯一の道と信じた。
だが、スーチーの国民的人気で、11月8日に控えた国民総選挙では、自分が党首を務める与党USDPの惜敗、野党NLDの勝利もありうる。だから、シュエマンは選挙後USDPとNLDの連携もありうると発言している。

これはスーチーを最大の敵とするUSDPにとって最大の危険思想であった。
軍部内の頑迷固陋な保守派たちが立ち上がり、大統領のテインセインそして陸海空三軍の最高司令官ミンアウンラインの二人を担いで、2015年8月12日の深夜、シュエマン率いるネイピードの与党USDP本部を急襲させた。与党内部のクーデターである。

これまでミャンマー民主化の希望の星と、国民からも海外からも見做されてきたテインセインが不名誉な担がれ方をしたものだ。この時点で、馬脚を現した。歴史に「もしも」はない。だが、テインセインがこのクーデター劇から孤高を保っていたら、アウンサン将軍に次ぐ第二の国民的英雄としてその名前を燦然と歴史に輝かせた筈だ。だが、テインセインはこの瞬間、民主化に敵対する軍人部落の悪玉に成り下がってしまった。

テインセインが与党USDPの党首に返り咲き、シュエマンは党首の座から蹴落とされてしまった。

シュエマンは自分自身が大統領の座に就き、憲法上大統領資格のないスーチーを首相に任命しようとする野望ははかなくも消え飛んでしまった。この与党内部のクーデター当時、スーチーの動きを検証すると、スーチーもシュエマンの野望、すなわち大統領職をシュエマンに任せ、自分は首相職に甘んじることを容認していた節がある。シュエマンを一旦大統領にして、軍部と話をつけた上で、憲法改正に持ち込み、その上でスーチーが最終的に大統領を目指すという三段構えである。

2017年の正月からプレイバックして、これはたった一年五ヶ月前の出来事である。繰り返すと、混沌とした先行きの見えない、あの当時からまだ一年半も経っていない。もう一歩踏み込んで言うと、スーチーが軍部切り崩しの頼みの綱としたシュエマンが、あの時点で彼女の構想から消えてしまったのである。シュエマンは実権のないただの下院議長になり下ってしまった。

だが運命の神はスーチーを見捨てなかった。あの事件から四ヶ月後の2015年11月8日、ミャンマーにコペルニクス的展開が訪れた。スーチー率いる野党NLDが総選挙で大勝利を手にしたのである。ということは、国民のマジョリティがスーチーを選択したのである。内外のマスコミは大狂喜した。テインセインも、軍人部落の巣窟であるUSDPもふっ飛んでしまった。

その一方で、軍部はそう簡単に政権を渡さないと無責任なマスコミは書きたてる。1991年の前例があるからだ。そして運命の政権交代は2016年3月31日に決まり、民主政治の発足は翌4月1日からとなった。この日までは、軍部のやりたい放題の残務処理が続く。利権が絡む許認可は閉店セールの大盤振る舞い。だが国庫にはほとんど納められず、歳末セールはギリギリの年度末のカウントダウンまで続いた。全ては軍部のルールで執り行われ、次期政権を担うNLDは何一つ手が出せない。薄氷を踏む思いで軍部の乱暴狼藉を見つめるだけである。4月1日までの秒読みが永遠と思えるほどに続く。



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05: マスゴミ(マスごみ)

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ミャンマーは資源豊富な国で、潤沢な資金が国庫に眠っている、と誰もが錯覚している。2016年4月の引き継ぎ時点で国庫の中はほぼカラッポだった。そして説明責任は無いとほざいた。交通行政など無視した無制限の外車輸入で、市街地の道路は至る所で異常な交通渋滞を引き起こしている。環境問題を一顧だにせず外資系のホテルに、あるいは外国資本の工場に、建設許可を与えて、その莫大な認可料がどこかに消えてしまう。

すなわち、何一つ法整備ができていないのだ。軍事政権の優秀な頭脳は六法全書の骨格をなす憲法制定のみに注力して、その他の法律などどうにでもなるとタカをくくっていた。

ありとあらゆる分野の法規制はデタラメで、機能マヒに陥っている。すべてが軍事政権の残した残滓である。どこから手をつけたら良いか、新政権が戸惑うような罠を仕掛けたうえでの引き継ぎである。軍事政権の優秀な頭脳は、新政権がつまずけばつまずくほど、旧政権は良かったと愚民が憤る計算を施した。

尻馬に乗った無節操なマスコミが新政権のつまずきを愉快犯のように煽りたてる。ある友人がマスゴミ(マスごみ)と定義したが、言い得て妙である。



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06: 不満を抱いて、なぜミャンマーに留まる?

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今度の新政権は有権者の大多数が賛成票を投じて選択した政権である。ミャンマー国民が選んだ新政権である。経済が停滞しようが、土地が値上がりしようが、キンマの赤い唾を吐き散らそうが、交通渋滞がさらに深刻化しようが、それはミャンマー人の勝手である。

それを、すべて新政権が悪いとばかりに口角泡を飛ばして非難する外国人がいる。このメルマガでは、巨大タンカーはすぐには止まらない。軍事政権が築いた惰性・悪性で遥か彼方まで進まざるを得ないと指摘した。
繰り返すが、新政権が発足して、まだたったの9ヶ月である。ミャンマー人は時間の遅れなど一向に気にしない。この国は資源だけでなく、時間もリッチである。半世紀以上も待たされたのである。何をそんなに急ぐ。

そこのところを斟酌せずに、居候させてもらっている外国人たちが、あの法律はけしからんとか、屁の放り方が気に食わんとか、時間がかかりすぎるとか、ミャンマー料理は油っぽいとか、ケチをつける筋合いはないのではないか? これが東西南北研究所の公式見解である。

それでも不満なら、投票権の無い外国人は自国向けの帰国便に飛び乗れば、すべて解決することである。



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07: A skeleton in the cupboard

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という諺が英国にある。
"他人に知られたくない家庭の秘密", あるいは"隠蔽すべき恥ずかしい過去"という意味だそうだ。
どこの家庭にもあり、どこの国家にもありそうな話だ。

ロヒンジャー問題がとっくの昔に秘密でも無い、すでにオープンになったミャンマーの大問題である。このメルマガでも初歩的なレベルから、歴史的な経緯を含めて、何度か取り上げた。そこに東パキスタンとかバングラデッシュが出現して話をさらに複雑にしている。

その元凶は大英帝国にあるのだが、東洋と西洋の価値観の違いである人権問題という厄介モノを屋上屋を重ねるように持ち出して、問題をさらに複雑怪奇にしている。独立後の、そして1962年のクーデター後のミャンマー軍事政権の方が屁理屈としては欧米のメディアよりも少しは筋が通っている。ラカイン州に違法流入したベンガリ族は民族的にも、言語的にも、ミャンマーが認める135の少数民族には属さない。彼らは経済難民である。国連難民高等弁務官事務所が彼らの落ち着き先を確保しろ。これが軍事政権テインセイン大統領の主張であった。

その歴史的な経緯も斟酌せずに、マスゴミは新政権にその責任を一斉に押し付け、早くなんとかしろと対応を迫る。
何かおかしくないだろうか?
しかも問題を単純化して、お前は仏教徒を支持するのか、ロヒンジャーを見殺しにするのかとたたみかけてくる。

単純な欧米文化では、安易に黒白をつけたがるが、東洋の英知ではグレイゾーンを設け、どっちつかずの避難場所としてきた。村八分にしても二分の思いやりがあった。東洋にはアソビの文化があったような気がする。ところが欧米から直輸入した効率性を追求する結果、過労死などという疫病が発生するようになり、心の中にも、家族の中にもアソビのゆとりがなくなってしまった。そして対話がほとんど消えてしまった。大事な人を前にして、ひたすらケータイとやりとりしている。人生とは何なのだろう。



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08: 賢明な選択

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確かにマスゴミからは評判悪いが、新政権の対策は、過去の大英帝国、そして軍事政権に比較して決して悪くない。ただし、彼ら両者がこれほどまでに問題を複雑化させただけに、その事実認定までには時間がかかりそうだ。それをわずかな風評だけで、鮮明度の悪い写真やビデオだけで、現場に足を踏み入れずに、マスゴミが非難するのは無責任ではないだろうか。

例えばの例だが、イスラエルの領土拡大とパレスチナの問題はホワイトハウスや国連が介入しようが、一向に解決しない。この地球上には国境沿いの領土問題を含めて、何世紀にわたって未解決の問題が満載だ。それをマスゴミが火に油を注ぐように煽る。マスゴミは何ひとつ解決策を示さず、ただ単に紙面を埋めるため、あるいは特別番組編成のためだけに、ニュース種を大きくしようと努力しているように思えてならない。

尖閣諸島、竹島、北方四島、どれひとつ自国の歴代政府は解決できぬくせに、遠い他国の"食器棚の中に骸骨"を見つけて騒ぐマスゴミは問題なのではないだろうか。真のジャーナリストたらんとすれば、本当の解決策に通じる英知を検討すべきでは。

そういう意味では、新政権がマスゴミに対してとった"沈黙"は賢明な策だった、とこのメルマガでは評価してきた。あの時点では、なんと答えても蜂の巣を突き、マスゴミの期待するゴシップ紙上での騒乱状態に陥るだけだからだ。事実、新政権は何ひとつ軍事政権から情報を引き継いでいなかった。情報がないのである。そこで新政権はどんな戦略をとるのだろう?

もう一度おさらいをしてみよう。
全くゼロから新政権が発足しても、軍事政権は憲法を盾に、国防相・内務相・国境問題担当相という重要3閣僚は国軍が指名・監督するとして最高司令官ミンアウンライン上級将軍の指揮下に置いた。
これらは民主的に選ばれた新大統領の指揮下に入らないということである。
これに加えて、上級副大統領のミエンスエも憲法に従い軍部が指名している。ということは、新政権下でも合計5名が軍部を代表する最高位と言える。

新政権はもちろん不服だが、軍部が制定した憲法の枠内で、軍部と対立するのではなく、彼らと共存する道を選択をした。

従って新政権がとるラカイン問題解決策は、軍部と協議の上、進めているものと思われる。これが大前提である。

まず新政権は、自分たちが当事者となるのではなく、完全に利害関係のない第三者である、しかも難民問題・宗教紛争などの国際的な専門家である、前国連事務総長コフィ・アナンを担ぎだした。ミャンマー政府が指名したその肩書きは、ラカイン問題助言委員会の議長となっている。すでに2度現地入りしている調査団の調査報告は約1年をかけてまとめ、必要に応じ訪緬は繰り返されるであろう。政府はその助言を参考に決定を下すことにしている。マスゴミは1年とは悠長なと無責任に憤るが、この手の問題は時間をかけても千日手に陥る例は、歴史がいくつも示している。

だが、内部レポートについては二ヶ月以内に政府に提出する予定と助言委員会の一人は語っている。

同時に新政権は、軍部代表とみなされる上級副大統領ミエンスエをラカイン州調査団の委員長に指名し、2016年10月9日、11月12日/13日にラカイン州マウントウでの襲撃・暴動に関する調査を実施させた。そしてその調査結果を記者会見を開き見聞した事実を詳細に発表させている。しかも質疑応答も行っている。

ここで見逃してならないのが、新政権の透明性、そして説明責任という、軍政時代になかった新ポリシーである。噂の段階では沈黙を守る、そして事実が確認でき、報告書がまとまれば記者会見を開き発表する。発足後一年も経っていない新政権である。それを「ウエスト・ウイング」の報道官のようにカッコよく期待するのが無理ではないだろうか?
今時のマスゴミは、待つという忍耐力もなく、勉強不足でもあるようだ。

これらの新政権の政策の結果、まだ全地域とはいかないが、内外のジャーナリストの取材が許可され、内外からの人道的支援物資の配送が許可されるようになった。新たな暴動が発生しない限り、これらの許可地域はさらに拡大していくものと思われる。

2016年12月4日(日)、マレーシアのナジブ・ラザク首相が地元クアラルンプールでラカイン州ムスレム同胞の人権擁護を求めて大規模なデモ活動を行った。自国内のしかも自分の"食器棚に秘密にしておきたい骸骨"を抱えながらである。ミャンマーのムスレム連盟は、ラカインの問題は宗教的な弾圧ではなく、論議の定まらない少数民族問題であるとして、ラザクの主張を退けている。ラザクの発言はエキセントリックで、その矛先をスーチーに持っていき、スーチーからノーベル賞を取り上げろと大衆を煽っている。一国の、しかも隣国の政府トップとしては異常である。このレベルになるとマスゴミと同じで、議論の対象にもならない。

だが、マスゴミの怖いところは、ラザクの発言のみを取り上げて、自分で事実を見極めようともせず、逆にスーチー攻撃の材料としていることにある。

これ以外にも、英国のデーリーメール紙が12月7日付けオンライン版で、「ロヒンジャーのよちよち歩きの子供を笑いながらスタンガンで虐待するビルマの兵士」と説明を付け、その責をスーチーに負わしたビデオを流したが、これはカンボジアでの出来事と判明し、同紙は釈明も謝罪もせずに、同ビデオを削除している。

同様にBBC、CNN、アルジェジーラもバングラデッシュで取材した一方的にミャンマーを非難するニュースを流しているが、ミャンマー当局は捏造であると反論している。

これが極東の風土であれば、未熟な外交政策によって大使館や領事館の真ん前に何らかのシンボル像を建設されて手をこまねくことになりそうだが、東南アジアの民主国家ピカピカの一年生は全く違う。

このようにセンシティブで複雑な諸要素がいくつも絡み合うなか、ティンチョウ大統領は2016年12月5日午前中に、ネイピードの大統領府においてミンアウンライン最高司令官を交えて、マレーシア国軍最高司令官を招き、ラカイン州問題について話し合いを持ち、ミャンマー政府が現在実施している調査についての理解を求めている。そして両国国軍最高司令官は、別個に会談を行った。

国家相談役のスーチーは、ヤンゴンのセドナホテルで2016年12月19日開催されたアセアン外務大臣会議において、ミャンマー政府が行ってきたラカイン州問題に関する方針及び現状を説明し、複雑怪奇な背景からして、その解決には時間とスペース(難民が最終的に落ち着く場所を示すものと思われる)が必要だと強調し、アセアン加盟国の了解と理解を求め、その賛同を得ている。

決してスーチーは逃げていない。むしろ、これまでの軍事政権が示し得なかった解決策を提示し、説明データーが揃い次第、進捗状況を公に開示している。軍事政権よりもはるかに賢明と思われる。

さらには、2017年1月3日付GNLM紙上で、2016年10月9日以降ミャンマーを意図的に陥れるビデオクリップがソーシャル・ネットワーク上で流されているが、それらは国際的なメディア団体、国際的な人権団体、海外の政府機関に組織的に送りつけられたもので、捏造されたものであるとの検証結果を発表した。

たとえば、仏教徒によって虐殺されたムスレムの死体の山の写真は、「2010年4月のチベット地震で死亡した大量の死体の焼却準備を進める大勢のチベット僧たち」が事実とし、言われてみると僧衣が若干異なるように見える。もう一枚は、うつ伏せになり両腕を地面にまっすぐ伸ばした整列した児童たちの手先の上を、真っ黒な顔をした男が大型バイクで走る写真。この写真説明はラカイン州となっているが、事実は「南インドの武術学校で訓練に参加した子供たち」、そう言われてみると、取り巻いて見学している母親・女の子たちは白い歯を出して笑っている。

他にも、捏造写真説明は"ラカイン州で全身に火をつけられ走り回る男"、事実は「2012年4月インドのデリーで、中国総書記の訪問に抗議して、自分で焼身したチベットの活動家」、それから"ラカイン州で家屋に放火するミャンマー兵士"が事実は「11月13日、ラカイン州の村で消火活動に従事するミャンマーの保安隊」となっている。

ミエンスエ上級副大統領の発表によれば、逮捕された騒乱容疑者たちは海外のムスレム過激組織から反乱テロ活動の訓練を受け、資金も供給された上で、ラカイン州に乗り込んだとしている。この発表によると、昨年10月9日のラカイン州国境地帯警備砦が何カ所か一斉に組織的に襲撃され、銃撃戦の結果、武器弾薬を大量に略奪されたとなっているが、これは組織的なもので、しかも軍事プロの集団であると納得させられる説明である。

これからすると、今日のテロ活動は、完全にサイバーテロの時代に入っており、時代から取り残されたと思われたミャンマーも、時代の最先端を行っていることになる。それにしても、マレーシアの首相も、マスごみたちも、サイバーテロに踊らされ、その一端をかつがされていることにならないだろうか? 報道の鉄則は、他人情報を鵜呑みにすることではなく、どの情報に合理性があるか見抜くことではないだろうか。



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09: 最後に

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このメルマガの読者も、今の時代、どこに落とし穴が仕掛けられているかも分からない。
常に疑惑の眼差しで「ミャンマーで今、何が?」をお読みいただきたい。決して信用などしては大怪我をしますぞ。

このメルマガではロヒンギャーではなく、"ロヒンジャー"で通してきた。
前にも書いたと思うが、現地のベンガリ語の発音ではロヒンギャーが正確に近い。この地の情勢に疎い欧米のマスコミたちが"ロヒンジャー"を使用するので、あえて棹をささずに流されてきたまでだ。このまま惰性で流されるのでご承知置き下さい。

ミャンマーとビルマも、最初は意地の張り合いだったが、今は落ち着くところに落ち着いたようだ。

もう一つ見逃せない大きな留意点は、2015年11月9日の総選挙でUSDPから公認を受けられなかったシュエマンは本当にただの人になってしまった。だが、今は、大統領の上に君臨する国家相談役のおかげで、ミャンマー議会の法務関係特別問題判定委員会の委員長に任命されている。
一時は飛ぶ鳥を落とす勢いの人物で、大統領の座に最も近く、自分の配下としてスーチーを首相に任命しようと構想を練っていた人物である。

シュエマンは、「おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。」を悟ったであろうか、それとも「ウエスト・ウイング」の陰謀に走り過ぎたと見るのか?

ミャンマーは東洋と西洋の交差点である。
西洋の目で見ている限り、この国は多分理解できないだろう。

前にも書いたが、ロヒンジャーはボートピープル問題でもある。それが地球の裏側の地中海でも大量に発生している。ボートピープルが陸上に上がってからの通過国のヨーロッパ人は高い壁を築いて、自国への侵入を防ごうと必死だ。人権あるいは人道的な処置と口にしながら、やっていることはダブルスタンダードである。彼らにラカイン州のロヒンジャーを語る資格はない。せいぜい自宅の食器棚に隠されている骸骨と相談してみることだ。

電気のこない田舎で夜空を仰げば、人間などちっぽけな存在だ。どうしてこの世にのさばっているのだろう。健康食品やサプリメントで長生きしても、人様の迷惑になるだけだ。
アウンサン将軍や坂本龍馬の32歳までとは言わないが、織田信長が好んだ幸若の人生わずか50年がちょうど良い潮時ではないだろうか。そうすれば、少しばかり遠慮した人生を送れるのでは、とまたつまらぬ最後になってしまった。





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