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<ミャンマーで今、何が?> Vol.192
2016.05.02

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■イラワジ慕情No.2

 ・06:ミャンマーのジョン万次郎OR福沢諭吉?

 ・07:カレン族は大家族

 ・08:優しい村人たち

 ・09:結婚式

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06:ミャンマーのジョン万次郎OR福沢諭吉?

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予約してあったエアコンの効くゲストハウスにチェックインした。まだ陽は高い。花嫁の家に行くにはまだ早い。友人が気を利かせて、6マイル先にあるヒンタダの町見学に連れて行ってくれた。さらに気を利かせて、ビア・ステーションを探し出してくれた。ありがたいことに電気も通じている。ありがたいことに冷えたCビールが飲める。

幼い子供たちが、ビアホールで機敏に働いている。友人がメニューを聞くと、利発そうな子供がお経を唱えるように“チキン・チャーハンあるよ!”“ポーク・チャーハンあるよ!”“エビ・チャーハンもあるよ!”と元気に答える。

少年が冷えたビールを一人分持ってきた。酒の好きな友人に問うと、カレン族はクリスチャンだが結婚式の日にはアルコールは口にしないという。彼の配慮に感謝しつつ、一気に飲み干し、甘えてもう一杯所望した。友人はポーク・チャーハンを取り、ツマミも注文してくれた。

利発そうな少年は、ワレワレの英会話に興味をもち、好奇心の眼で見ている。友人を介して少年に話しかけた。夏休み期間中この店で働いているそうだ。今年11歳。学校では英語も習ったという。そこで試してみた。名前を聞くと、スペルアウトしてくれた。日本式発音だと理解してくれる。話が通じる。自分は日本人だと自己紹介した。

驚いたことに、「ボー・モウジョウか?」と即座に反応する。この少年は、鈴木敬司大佐の別名「雷将軍」を知っていた。非常に賢明な11歳だ。調理場から呼び出しがかかると飛んでいき、ここはオレの担当とばかりに、すぐさま戻ってくる。このオンボロ日本人に興味が沸いたようだ。

いまヤンゴンには、人材を日本に派遣し、研修という名目で手数料を稼ぐブローカーはゴロゴロいる。もし、この目端の利く少年にチャンスを与え、日本で修業させたら、将来ミャンマーのジョン万次郎に、あるいはミャンマーの福沢諭吉に、あるいはミャンマーの関孝和に、なるかもと予感が走った。ヤンゴンで乞食坊主のマネ事をしている身に、足長おじさんは、夢のまた夢である。最後に“お勘定!”というと、ビール2杯、ポーク・チャーハン、ツマミ・・と頭の中で計算し、即座に答えが返ってきた。もちろん、将来の関孝和からだ。

欧米人の取材記者が、この少年に出会えば、ミャンマーの酒場では少年の強制労働が横行していると、得意のワンパターン記事を書いてくれることだろう。



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07:カレン族は大家族

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陽はまだ沈まない。車がやっと通れる一本道をゆっくり進む。さらに小道に入ると竹で庭囲いした家が何軒か続く。そのひとつ、こんもりとした竹やぶの中に花嫁の家はあった。たっぷりと広い庭先に防水ビニールで日陰用の天幕が張られている。近くの村、遠くの村から、大勢の人たちが耕運機に、あるは小型トラックに鈴なりとなって、集まってくる。なぜか懐かしい鎮守の村祭りを思い出す。

明日の花嫁は化粧もせずに、何百人もの参列者たちの応対に汗だくだ。天幕の下の、テーブルごとに、笑顔を振りまき、来客をテキパキと捌いている。そして隣近所から集まった助っ人たちに、お茶、茶菓子、フルーツなど、きびきびと指図をしている。子供扱いも手馴れたものだ。日本では占領軍に破壊された長幼の序が、このミャンマーの小村では息づいている。年長者に敬意を払い、年長者は未来の後継者を暖かく見守る。それは日本人の目にも態度で分かる。

花嫁が一息ついたところで、友人が紹介してくれた。英語が達者なのに驚かされた。日本製ブランドの炊飯器と手書きしたグリーティング・カードを手渡した。電気の乏しいこの村で、電気製品を贈ってよかったものか?後々、この疑問に悩まされた。友人のように現金を包んだほうが新婚生活に役立ったかもと。

花嫁の父親はパスター(神父)だった。花婿も現在は助手だが、将来は神父になるという。父親は笑顔で来客と談笑している。みな普段着だ。イラワジ地区カレン族のコミュニティから駆けつけた長老たちだそうだ。大勢が父親を取り囲み、お茶を飲んでいる。その中でも、この父親は若い方だ。ここでも、年配者に対する配慮がその言葉、態度に表れている。感心させられたのだが、日本人が闖入した途端、この集団の会話すべてが英語に切り替わった。外務官僚家族でも中々こなせないオモテナシではないだろうか。

ひととおり握手・挨拶を終えると、オマエの宗教はと問われた。仏教の家庭に生まれたが、いつの間にか、“フリー・シンカー”になったようだと応える。ありがたいことに、全員が温かく迎え入れてくれた。日本人だと知ると、質問攻めにあった。だが、こちらもいろんな情報を収集でき、話が弾んだ。

オランダ人のNGO組織で働く長老の娘が、ヤンゴンから地元に戻り、結婚式に出席している。ここの村人全員は身内みたいなものだ。紹介されたが、感心するほど英語が達者だった。彼女との話の内容も大きな収穫だった。村人は多分、彼女などを通じて、世の中の動きを察知するのだろう。出島の通詞みたいな娘さんだった。

翌朝、ゲストハウス近くの朝市やバイクタクシーの運転手に話しかけたが、99%英語が通じなかった。残りの1%を探したが、どうもその1%はあのクリスチャンの小村に集中していたようだ。

カレン族は女子誕生から小豚を育てあげる伝統があるという。そして結婚式の祝宴で、屠殺して来客に振舞う。昔は14・15歳で嫁にいったそうだ。中国の紹興酒物語と似ている。この豚は“ブライダル・ピッグ”と呼ばれている。そして婚期が遅れると、豚肉が硬く不味くなり、両親が心配するとジョークが飛び交う。

竹やぶの中のこの庭も、放し飼いの子豚たちがあちこち鼻を突っ込んでいる。そして、ヒヨコも、少し育った小鶏たちも、テーブルの下を歩き回り、何かをついばんでいる。薄暗くなると鶏たちは頭上の横枝に飛び上がり就寝する。鶏もワイルドな野鳥だ。ブロイラー育ちではない。

この村の子供たちは何かマツリゴトがあると、身内同然に育った小動物たちを屠殺し、客人の胃袋に献上することを学んでいる。KFCで育った都会の子供たちは、この生命の偉大な神秘を知らない。

このヒンタダ近辺に、キリスト教教会が120もあると聞いた。ウィキペディアには、ミャンマーに住むカレン族の人口は約7百万人とある。隣の敷地には築後100年を越える木造教会がひっそりと建っていた。この教会も地域のために友人の祖父が建造したという。

友人の祖父の敷地には吹き抜けの実に簡素な記念会堂が建てられていた。銘板が掲げられている。ここが明日の結婚式場で、今晩は、ここでコンサートが行われる。ドラム・キーボード・ギターなど、すべて若者たちが準備したものだ。星空でのコンサートを予想したが、月明かりで星はよく見えない。もうじき満月が近い。

夕方7時前後、蒸し暑かった日中を吹き払うように、風がどこからともなく吹きはじめる。教会の鐘が村人に呼びかける。三々五々、村人たちが、集まってくる。年輩の人も子供たちも。テレビもほとんどない村人にとって、結婚式前夜のコンサートは、特別の大イベントなのだろう。十三夜の月が、ココナッツの葉陰から顔を見せる。

明日午前10時から、ここで結婚式は行われる。ピンクと白の風船で飾りつけはすっかり整っている。会堂の内部には木造長椅子が設えてあり、会堂の周囲には臨時のプラスチック製椅子が多数用意されていた。

ここには木造二階建て邸宅があったが、大戦中、日本軍の爆撃ですべて破壊され、入口のコンクリート階段三段だけが焼失せずに残ったと友人は語る。恨みつらみを語るのではなく、歴史の一端を耽々と紹介してくれた。彼だけでなく、神父たちも、飛び入りの日本人に対して実に優しくしてくれた。

明日の結婚を祝うフォルクローレなのだろう。初めて聞く旋律だが、カレン族の女性の澄んだ歌声が、人類の遠く昔に経験した未知の世界に導いてくれる。塾通いで神経をすり減らした無表情な子供たちの顔はここにはない。ここには自然が与えてくれる豊かな子供時代が今もたっぷりとある。



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08:優しい村人たち

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昨夜の夕飯も、今朝の朝食も、そして結婚式のあとの昼食も、すべて同じものだった。決して豊かではない。例の花嫁の豚肉、身のしまった鶏肉、小エビとチリをまぶしたフリカケ、木の枝葉の若芽、そしてたっぷりのご飯である。日本だって正月には、変わり映えのしないお節料理だ。このカレン・スタイルは、何百人もの来客には、十分の振る舞いで、しかも合理的である。

それよりも、感激したのが、若い子供のような女性たちが、食事中、何人も、後ろからウチワであおいでくれたことだ。確かに、朝・昼・晩、ジットしていても汗がにじんでくる。実にありがたい。もういいよ、と言っても、まだあおいでくれる。そしておかずの盛り付けが少なくなり、ご飯が少なくなり、お茶が空になると、気を利かして、注ぎ足してくれる。言われてそうするのではなく、代々、そういう風にしつけられているようだ。

言葉は通じない。だが、身振り手振りで話は通じる。この近所に住む十四歳から二十歳前後の女性たちが、食事の世話をしているようだ。記念に写真をとカメラを向けると、この娘たちは一斉にウチワで顔を隠したり、必死に逃げていく。そして数分すると戻ってきて、ウチワで風を送る。日本ではとっくに姿を消した恥らう乙女たちの美しさを垣間見させてもらった。カメラをしまうと、きちんと応対してくれた。恥ずかしさだけでない。写真は魂を奪うとの迷信がこの村ではまだ生きている。



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09:結婚式

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昨夜の前夜祭は野良着で参加したが、今朝、記念会堂に集まったカレン族は全員白と赤を基調とした鮮やかな民族衣装に変身していた。子供たちも可憐な伝統衣装だ。それぞれにブーケや花かごを持っている。その子供たちに先導され、父親と一歩一歩進む花嫁が、正面ステージで待つ花婿に引き渡される。

ステージ中央には、新郎新婦を中心に子供たちが付添い人と横一列に並んで着席する。何人かいる神父の司会で厳かに式は始まる。神父の真っ白な民族服と十字架が印象的だ。代わる代わる神父の言葉に、新郎新婦が起立する。

若い男女の混成コーラスが舞台前に並び、見事なハーモニーで式次第ははじまった。クリスマス・ソングをはじめとして、グレゴリオ聖歌、ゴスペル・ソング、ウィーン少年合唱団、キリスト教は音楽を演出して布教に成功してきた。だから、ワタシはこれを「歌う宗教」と命名している。それだけに、彼らは歌が実に上手い。

式の途中でも、何度か音楽が演奏され歌が歌われた。賛美歌かもしれない。ひとつオヤッと思ったのが、子供たちが歌う一曲だ。昔聴いたことがある、何とも懐かしい曲だ。だがカレン語なので、思い出せない。小さく鼻歌で唱和するうちに、「結〜んで、開いて〜♪、開いて〜、結んで〜♪」が浮かんできた。記憶に間違いなければ、JJルソーの作詞作曲のはずだ。フランスの啓蒙思想家を通じて、カレン族の子供たちと日本人の遠い記憶が、いまイラワジの小村で、結ばれた。不思議な気持ちだ。

ステージの上に設けられた机の上で、衆人環視の中、最長老の祭司の前で、新郎新婦が書面に署名をする。友人の説明だと、このために省(イラワジ地区)の偉い人が立会い署名し、結婚証明書がその場で作成されると言う。はっきりとは見届けることはできなかったが、多分二枚作成し、その一部がその場で新郎新婦に手渡されたようだ。この瞬間、二人は夫婦として村人の前で認められたのだ。

その後も、神父たちの抑揚のあるスピーチが延々と続く。もちろんカレン語である。記念会堂の廻りはバナナ林で、灼熱の太陽が照り付けている。ジット座っているだけで汗がシャツの下を流れ落ちる。壇上でも花嫁以外の誰もがウチワを手にしている。言葉が分からないせいもあるが、そのうちに瞼が重たくなり、ウトウトと居眠りをはじめた。永遠の時間が流れる。はるか遠くで神父が子守唄を歌っているようだ。空耳かもしれないが、ジャパン、ジャパンとも聞こえる。

突然肩を揺すられ、目を覚ますと、ビデオを撮影していた友人が、日本人として今日の結婚式をどう思いますかと神父の質問を通訳してくれた。

寝ぼけ眼で、マイクを握り、新郎新婦にあいさつして、大勢の参列者に向き直る。頭が回転しない。暑さのせいにしておこう。日本での形式的な結婚式と異なり、村人の一人ひとり、友人たちの一人ひとり、そして親戚の一人ひとりが、自分たちの伝統に従って、新しいカップルを祝福する。こんな素晴らしい結婚式に参加させてもらったことに、感謝します。

とは言ったものの、ユーモアひとつない、日本人特有のあまりにも形式的なスピーチに嫌気がさしてしまった。ヤンゴンへの帰りの道中、そのことばかり気になって仕方がなかった。

6月の雨季が始まると、乾ききった田畑は水を湛えた緑緑した水田に一変し、気温もぐっと下がってくる。友人には、今回の手配に感謝すると同時に、もういちど挽回のチャンスを与えてくれと懇願した。

神父の主催する日曜学校で、あるいは同じ記念会堂で、スピーチとはおこがましいが、老いも若きも村の人たちと時間を掛けて、ゆっくりと話し合ってみたい。次回は、寝ぼけた頭ではなく、できるものなら、少しはマシな話をしてみたい。

 



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