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<ミャンマーで今、何が?> Vol.13
2012.10.2
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■テインセイン大統領が国連デビュー
・01:テインセイン大統領の国連演説
・02:アメリカ政府の対応
・03:テインセイン大統領の戦略
・04:スーチー議員の対応
・05:その他ミャンマー国内の動き
・06:スーチー議員の米国内での動き
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・ミャンマーで今、何が?
■テインセイン大統領が国連デビュー
<テインセイン大統領の国連演説>
9月27日(水)テインセイン大統領が国連年次総会で世界の首脳たちを前にミャンマー語で演説した。実に異例というよりも、ビルマ・ミャンマーの歴史を通じて初めての出来ごととなるが、この演説はミャンマーの国営テレビでライブ放送された。ということは、ミャンマーの議会内外でハードライナーといわれる急激な民主化を快く思わない強硬派も国際舞台でのテインセイン大統領の各国首脳による評価を直接目にする機会があったということである。
同国を代表する首脳の米国訪問は1966年のネーウィン首相以来のことで、46年振りとなる。当時は同国の正式名称は“バーマ”であった。テインセインは2009年にも国連総会に出席しているが、これはタンシュエ議長時代の首相としてで国家元首としての出席ではなかった。それだけに、テインセイン大統領の今年の年次総会における演説は画期的なこととして分析せねばならない。
テインセイン大統領はミャンマー政府がこれまでに推し進めてきた民主化改革、すなわち総選挙の実施、スーチー女史の自宅軟禁解除、ネイピードの大統領府におけるスーチー女史の会見、数回にわたって行ってきた大量の政治犯釈放、マスコミ規制およびインターネットへの接続緩和、多数政党による全国補欠選挙の実施、結果としてのNLDの台頭およびスーチー党首の議員当選、少数民族と政府軍との和解協定、ラカイン州におけるロヒンジャー問題に対する独立した調査団の結成および現地調査の状況などを総括したうえで国際社会のミャンマーに対する経済制裁解除を訴え、今後政治改革・経済改革を成し遂げる上で、国際社会の支援が絶対に必要だと強く求めた。
テインセイン大統領は旧軍事政権において2007年から2011年まで首相を務めたが、民政化を目指す2010年11月7日施行の総選挙に立候補するため2010年4月にゼネラル(将軍)を辞任し軍人職を離れた。しかし、2011年2月4日、タンシュエ議長から次期大統領として直接ピックアップされ、軍人(現職・元を含む)が約90%を占める議会の形式的な承認を得て2011年3月30日に正式にミャンマー連邦共和国の大統領に就任した。
このような経緯があるため、特に欧米のマスコミは、軍服を民間服に着替えただけのテインセイン大統領とか、見かけだけのテインセイン民間政府という警戒感に溢れた表現を現時点でも使用している。
その一方で、上記に総括したテインセイン大統領の民主化への諸政策は矢継ぎ早に繰り出され、しかもそのスピードを考慮すると、議会内で予想される多数派であるハードライナー(強硬派)の抵抗を巧妙に乗り切り、ここまでこれたことは欧米の政府、アセアンの各国政府からも“サプライズ”と言われるほど高い評価を受けてきた。その点においては、テインセイン大統領は改革主義者、あるいは民主化という政治改革・経済改革の旗頭として見なされており、この大統領がいなければミャンマーの民主化はここまでこれなかったというのは正当な評価と言えるだろう。一部の人権団体はミャンマーに対してまだ警戒感を解かず、欧米の経済制裁解除は時期尚早との警告を発していることも付け加えておきたい。
<アメリカ政府の対応>
今年8月末、オバマ大統領はテインセイン大統領の国連年次総会出席に合わせて米国が科している同大統領への米国ビザ発給禁止を同期間中特例として解除すると発表した。これは同大統領が国内で推し進めている民主化推進の改革を高く評価したためで、それに報いて同期間中は米国内での行動は無制限にOKとなった。
その少し前に、ミャンマー側も、ラカイン州でロヒンジャー問題を巡って逮捕され、収監判決を受けた3名のUN現地職員を大統領特赦令で釈放している。
このテインセイン大統領の国連出席と相前後する形で、スーチー議員がすでに米国入りしているが、オバマ政権の両者に対する取り扱いは神経質なほどの配慮が見られた。そしてスーチー議員とオバマ大統領の極秘会談はあくまでもプライベートで非公式なものとしてマスコミにもほとんど情報を流していない。
数奇な運命にもてあそばれたスーチーさんは国父として慕われる自分の父親、そして英国人の夫までも悲痛の悲しみの中に失う。非人間的な軍事政府が彼女の家庭を分断し、彼女の命まで危ういものに曝してきた。この長く続いた苦難の中で、ガンジー式非暴力の思想を体現しながら彼女自身は反体制派の闘士に成長していく。その不屈の勇気に対してノーベル平和賞をはじめ、世界中の著名人、政府、団体からの支援の声が殺到する。
したがって、6月のバンコク訪問および欧州訪問を見てもスーチーさんに対する賞賛は鳴り止まないスタンディング・オベーションとなり、人々に勇気を与える現代の生きたアイコンとして最高の栄誉礼で迎えられたきた。
今回の米国訪問はその締めくくりのようなもので、米国上院下院の合同議会からは民間人として最高のゴールドメダルが授与され、米国の主要大学・主要都市からも最高の栄誉で迎えられている。17日間の米国滞在中に約100件の公式日程が組まれていることからその人気の高さが想像できるだろう。こうなるともうミャンマーのスーチーではなく、世界のスーチー人気である。それに対して、テインセイン大統領は今回国連で演説するとはいえ、国内の民主化を推進してきたパイオニアとはいえ、国際舞台ではほとんど知られていないミャンマーの首脳である。
そのあまりの人気の落差に、オバマ政権はテインセイン大統領自身が、あるいはその取巻きが、あるいはミャンマーの国内で海外ニュースを目にするハードライナーたちが面目を傷つけられたとか、スーチーさんに一種のジェラシーを抱いてはこれまで順調に推移してきた民主化の動きに支障が出ないとも限らない。これはオバマ政権や議会に強い影響力をもつ米国の幾つかのシンクタンクが実際に警告を鳴らしている。ここでオバマ政権がテインセイン大統領を不当に扱った場合には米国の国益は損なわれてしまうという警告である。
しかも、テインセイン大統領は国連に出席する直前、9月12日から15日まで、中国政府の招きで中国を訪問している。そして、「中国は長い期間ミャンマーが最も困難な時期に誠心誠意で多大な支援の手を差し伸べ、そしてミャンマーの側に立ってくれた。ミャンマーの人々はこのことは決して忘れない」と9月21日に発表した声明文で同大統領は述べている。
これは中国カードと米国カードという2枚の切り札を手にしたテインセイン大統領が巧妙なゲームを仕掛けたと見ることもできるし、ミャンマーという宝の山を独り占めしようとする米国に対して中国が徐々に巻き返しを図っているネバーギブアップ戦略とも読み取れる。
最近の米国と中国の対ミャンマー戦略は非常に似通ったところがあり、両国ともにミャンマーに対しては“総力戦”で仕掛けてくるところがある。例えば、ミャンマーが鎖国を解く前の段階で米国がミャンマーに送り込んだ大物は民主党・共和党それぞれに上院・下院の議長を送り込んだり、元大統領候補だの、東南アジア政策委員会のボス、国防省・国務省それぞれのミャンマー問題担当官、これを地道にリストアップすると米国の“総力戦”が見えてくる。そのお返しが今回の米国におけるスーチー議員の接待役、または音頭とりの顔ぶれで確認できる。
同様に、中国からミャンマーへの訪問団も国境を接する雲南省のみならず、四川省、広東省、北京地区、上海地区などなど、多くの地区の省幹部、商工会議所、農業団体、人民解放軍、そして中国共産党の主要人物など実に“総力戦”のオンパレードである。そして、昨年9月30日にテインセイン大統領が工事中止を発表したミッゾーンダムにしても中国共産党主席のレベルから中堅レベルそれぞれでミャンマー側のカウンターパートナーに対してチクリチクリと工事再開を迫っている。
<テインセイン大統領の戦略>
今回の大統領演説がミャンマーの国営テレビで同時中継されたことは最初に書いた。
ということは、大統領は国連の年次総会に出席した世界の首脳たちに訴えかけると同時に、強硬派を含めたミャンマー国内の視聴者を意識して話をしたと取ることができないだろうか。テインセイン大統領には政治・経済・法律の3分野に3名ずつ合計9名の大統領顧問がいる。そして彼らが大統領の実質的なブレーンで大統領演説も起草している。したがって、大統領の演説は思いつきのアドリブではなく、練りに練り推敲を重ねた、格調の高い文章となっている。その双方の視聴者に配慮しながら、今回、大統領は一歩も二歩も踏み出した発言を行った。
それはスーチー議員に関する発言である。
テインセイン大統領は公の席でスーチー議員を賞賛することは一度もなかったし、これまでノーベル賞受賞者と呼んだこともなかった。しかし、今回その前例を破ったのである。大きな第一歩と見なすべきではないのか。世界のリーダーを前に、テインセイン大統領は“今週スーチー議員もニューヨークにいる、民主化に努力したとして米国議会最高のゴールドメダルを彼女が受賞したことは、ミャンマーの一市民としてスーチー議員の栄誉を祝福したい”と語った。
そしてもうひとつ大きな第二歩は「もし人々がスーチー議員を選択するなら私も彼女を受け入れねばならない。前にも言ったとおり、我々は今一緒に民主化を進めている。しかし、2015年の総選挙に向けてスーチー議員が大統領になる障壁を私一人では撤去することはできない。憲法の改正は国民がそれを望むかどうかで、議会の承認を必要とする」とBBCの単独インタビューでテインセイン大統領が語っていることである。
現行の憲法では、外国人に近しい家族関係があれば大統領職に就任できず、スーチー議員には英国人の夫(1999年没)と英国人の息子二人がいる。
この発言は改革派のテインセイン大統領が保守強硬派が大勢いる国内に向けて大問題を投げかけたと見たほうが良いのでは?
大統領はスーチー議員が国民に選挙されて大統領になるのなら、テインセイン大統領は同意する。但し、現行の憲法ではそれができない仕組みになっている。私一人ではこの憲法を改正できないが、国民にその意思があり、議会が承認すれば可能であるとの改革派を鼓舞する発言となっている。
ここでもうひとつ異例の出来事は、マスコミ解禁前までは政府はBBC、VOAを名指しでミャンマー国民を不安に陥れる元凶であるとほぼ毎日国営新聞で非難していたのが、今回BBCからの単独インタビューに丁寧に応答していることである。そして米国の代表的日刊紙・ニューヨークタイムズの単独インタビューにも応じている。このように、大統領自身も、大統領府も確実に変化して新たな状況を学習しているものと思われる。
<スーチー議員の対応>
テインセイン大統領よりも約一週間先に米国入りしたスーチー議員はヒラリー国務長官を始め、影響力のある米国議会の大物に、雇用を確保するためには“経済制裁の大幅緩和(輸入禁止の解除)”が必要だと根回ししている。それと同時に、ミャンマーの民主化達成にはテインセイン大統領とスーチー議員の二人三脚が不可欠であることを演説の度にスーチー議員は強調している。そしてその成果が、米国のミャンマー製品輸入禁止解除の発言につながったものと思われる。テインセイン大統領の今回の最大の目的はそれを勝ち取ることであった。その意味で、今回はスーチー議員とテインセイン大統領の 共同作業が上手くシンクロナイズし、これはまたミャンマー国内へのメッセージとして非常に大きな影響力を持つものであると思われる。
そして9月25日には、スーチー議員がNY滞在中のテインセイン大統領をその宿舎に訪問している。これは誰のシナリオか不明だが、ミャンマー人の心情からして、そして大統領と一議員ということからして、スーチー議員が海外ではスーパーカリスマであるだけに、スーチー議員が謙って大統領の宿舎に訪ねるということは、テインセイン大統領の面子を十分に満足させる肌理細やかな配慮である。
今回の大統領とスーチー議員の米国における行動は逐一ミャンマーでモニターされている。そのことを思えば、二人が世界のヒノキ舞台でエールを交換できたということは今後のミャンマー国内でのテインセイン大統領の仕事がやりやすくなることを意味する。
<その他ミャンマー国内の動き>
テインセイン大統領は保守強硬派と見られる大臣を遠ざけ、民主化に積極的に協力する大臣を自分の周りに配す内閣改造を最近完了したが、その目玉の一人であるアウン・チー元労働・福祉大臣は新情報大臣となった。このポストは約10年間保守強硬派と見られたキョー・サン大臣が強面で牛耳っていたが、今回の改造で風通しが良くなるだろうとマスコミ界では高く評価されている。
そのアウン・チー新情報大臣が近い将来ミャンマーのメディアを国際基準並みにすると語った。そして国営のミャンマーラジオテレビ局 (MRTV)にはすでに英国放送協会(BBC)の協力を得て公共放送としての特徴を備えたサービスに切替中であると語った。
前述したとおり、旧軍事政権とBBCは犬猿の仲であったが、ミャンマーの改革はいたるところで胎動始めたようだ。
<スーチー議員の米国内での動き>
スーチー議員の歓迎式および演説・質疑応答は花形スター並みでどこでも大入り満員だが、今週は実質的なミャンマーの舵取りを担う大統領を追いかけてみた。大統領の真摯で一つ一つ淡々と答えるその人柄にもよるのだろうが、その誠実さは高く評価されており、かってスーチーさんも、ヒラリー国務長官も口にした“この大統領は誠実で信用できる”という評価は今回の国連デビューで定着したものと思われる。スーチー議員はあと一週間米国でのスケジュールが残されているが、仕事師のテインセイン大統領のミャンマーでの仕事は山積みの筈だ。今後もそれを見守っていきたい。
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