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<ミャンマーで今、何が?> Vol.123
2014.12.03

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■ダラー物語

 ・01:気になっていた白い船

 ・02:ダラーで考えたこと

 ・03:日本本土への応援団

 ・04:チェリーI、II,III三隻の寄贈式

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本日は1ドル=1,100チャットの換算で、4ドルx1,100チャット=4,400チャットになると卓上計算機の数字を示してくれた。 11月最後の土曜日のことである。
といっても今回はUSダラーの話ではない。

大都会のヤンゴンから最も手短に田舎を満喫できる、ヤンゴン川対岸の“ダラー物語”である。


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01:気になっていた白い船

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船を見るのが好きで、早朝川べりを散歩する。学者先生に教えてもらった独特のマングローブがヤンゴン川のあちこちに自生している。ここは清水と海水が入り混じる南国の汽水地帯である。桟橋を渡り先端のジェティに立つとロープが交差しさまざまな小型船が舫われている。

中国人のグループだろうか、地面にマットを敷き、老いも若きも、女性も男性も、ラジカセに合わせて手をブラブラ、そして腰をフラフープのように回している。中には、インド系の太った女性も混じっている。

ここから眺めると対岸のダラーは手の届くところにある。幾つにも連結した艀が行き交う。この歴史ある河川水路を見ていると、経済的な活気がヤンゴンに戻ってきたのがよく分かる。

その中でも朝の陽光を受け、真っ白にまぶしく輝いているのが、ウワサのフェリーに違いない。ジェティで係船用ボラードに腰掛けていたヒゲ面の男が、船の舫綱を巻いた別のボラードを指差し座ったらと目で促す。朝の礼拝を終え、ここへ来るのが好きだと語る。帽子は被っていないが明らかにムスレムの青年だ。海外へ行ったことはないが、インドのマドラスが祖国で、叔父と従兄弟はシンガポールとマラッカに住んでいる。アウンサン市場で宝石商をやっていると語る。

探るような巧みな英語だ。「サラーム・アリクム」と挨拶すると、ニッコリ笑って日本人かと聞いてくる。あれは日本政府が寄贈したフェリーだと社交辞令が飛び出す。向かいのダラー桟橋に一隻、こちらのパンソダン桟橋に一隻、そして上手の桟橋にもう一隻、真っ白な同型船が三隻視野に入る。名前はそれぞれ“チェリーI、II、III”となっている。サクラの響きがワタシは好きだが、ミャンマーにはすでにサクラ・グループが幾つかある。それとの混同を避けたのかもしれない。

ダラーには何度か渡ったが、この真新しい日本製フェリーを目にして、是非乗船してみたいと思った。それから数日も立たないうちにKL在住の日本人二人から久しぶりに連絡が入った。「ミャンマーで今、何が?」の前からの読者である。土曜日の昼下がり、彼らを誘ってのミャンマー・ビールも悪くない。



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02: ダラーで考えたこと

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フェリー料金は往復4ドル。これは外国人料金。そして地元の人たちは、往復200チャット。約20倍もの料金だと文句をいう外国人もいる。日本人を含めての話である。日本円でたった約400円の話だ。日本だとタクシーの初乗りもできないだろう。

ビルマの歴史を覗けば、イギリス軍も日本軍もビルマ全土を軍靴で踏みにじった。ほんのチョット前の話である。それだけではない。英国統治時代には英国の圧制に抗議する多数の農民が、そして反体制派学生が英国の官憲によって銃殺された。日本は日本で、軍政時代に無慈悲な殺戮を幾つも犯している。

だが、今の時代、心優しきミャンマー人はイギリス人にも、そして日本人にも分け隔てなく優しく接してくれる。なぜなのだろう?

日本の軍政時代、大量に印刷しビルマで我が物顔で支払った軍票が、敗戦で紙くずとなってしまった。殺戮だけでなく、恥ずべき日本である。

英国は英国で、ビルマ産の宝石・財宝類、そしてチーク材や米を、我が物顔で根こそぎ持ち去ってしまった。銃殺だけでなく、恥ずべき英国である。

そして今、ミャンマーは世界で最貧国だとレッテルを張る。ミャンマーの貧困はネーウィンのビルマ式社会主義が失敗し、その後の軍事政権が略奪したからだと、問題をすりかえて、日本を含めた西欧社会は説明する。すべてを軍事政権のせいだと攻撃する。それはその次の問題として指弾するなら理解できる。だが、根本的な自分たちの悪事を歴史のかなたに葬り去り、その二次的な軍事政権だけを非難するのは騎士道精神に、そして武士道精神にもとる、悪賢く、巧妙な言い逃れではないだろうか。

それでも、この国の人々はイギリス人を、そして日本人を温かく迎えてくれる。どうしてなのだろう? そのあたりに昔の日本兵がビルマを再訪し、ビルキチやビルメロになった秘密がありそうだ。

フェリーはものの10分で対岸のダラーに到着する。サイカーの運転手がダラー村を案内すると争って声をかける。まだ幼い少女が、さらに幼い弟を抱きながら絵葉書を買ってくれと、英語でそして日本語でせがむ。ここはイラワジ地区の玄関口で、トワンテやボーガレーなど遠乗りの客を探すタクシーの運チャンも必死だ。この雑踏で待ち構える地元の人たちすべてが貧しい。その誰かと友達になり、自宅に連れて行ってもらうと、吹けば飛ぶような粗末な掘っ立て小屋だ。本当に貧しい。でも家族一同が、大人も、子供も屈託のない笑顔を見せてくれる。

ミャンマーで換金すると、日本では経験したことがない分厚い札束に化ける。アナタもインスタント成金だ。それをバックパックにずっしり詰めて、ダラーに渡る。そこで、このありふれた絵葉書を買い求め、用意した色鉛筆を子供たちにプレゼントし、自分たちの母親・父親の顔をこの絵葉書に描いてもらう。弟の顔でもよいだろう。名前を書いてもらえばもっと良い。出来上がったら一人ひとりに何がしかを包み“ありがとう”と感謝の気持ちを伝える。そして軽くなったバックパックに絵葉書の束をずっしりと詰めて、ヤンゴンのホテルに戻る。一枚一枚に知人の宛名を書き、ミャンマーの切手を貼って、来年の年賀状としてヤンゴンから発送する。薩摩治郎八のお大尽遊びはできずとも、ここヤンゴンでは、わずかな金額で品格のある日本人を夢見ることもできる。欧米人の税金逃れの宣伝臭いフィランソロフィーとは一線を隠し(?)、日本式陰徳に徹する。これでアナタも21世紀の立派なビルキチとなれる。

イギリスの伝統ある栄華も、日本経済の戦後の繁栄も、すべてはミャンマーの廃墟を基盤として成り立っていると考えれば、子供たちに感謝の気持ちを示すことなど、実にちっぽけな行為ではないだろうか?
  
こちらの子供たちは、手にしたばかりのお札をいとも簡単に弟たちや母親に、そしてさらに貧しい人たちに分け与えることを知っている。お坊さんももちろんそうだ。集めた浄財を、貧しい人たちに分け与える。日本の坊主のように私腹を肥やすのではなく、一時的に預かるのだ。そして貧しい人たちに配分する。だから、施主に対して感謝の態度はとらない。それを小銭しか寄進しないくせに、あの坊主は態度がでかいと小ばかにする日本人も偶に見かける。



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03:日本本土への応援団

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今回おやっと思ったのだが、絵葉書の少女までが、関心を引こうと日本からのプレゼントだと教えてくれる。このフェリーのことである。顔の見えない日本のODAと言われるが、今回の“チェリーI、II、III”の寄贈は大ヒットでヤンゴン中の人たちがこの事実を知っている。そして日本人への好意を笑顔で示してくれる。

その一方で、伝統的なODAスタイルは古式ゆかしい陰徳の作法に則っていたのではないかと考えこんでしまった。つまらないものですがと高級品を贈る日本人の細胞に共通なあのDNAである。あのチープな西洋式フィランソロフィーに対して、えもいわれぬ奥ゆかしさが、そこにあるような気がする。

もうひとつ気がついたことがある。ここでは大勢の人たちが片言の日本語を喋ってくれる。観光客狙いだろうが、これだけ多くのミャンマー人が、特に若者たちが、片言とはいえ日本語を喋るのに驚いた。

もしもだが、ここで無料日本語学校を開けば、大勢の子供たちが、そして青年たちが、いっぱい集まってくるのではなかろうか。ダラーは奥行きの深い広大なイラワジデルタへの玄関口で、デルタの人たちからすれば、ヤンゴンへの玄関口でもある。そしてもし、彼らが夢を描くことができれば、あるいは彼らに夢を見させることができれば、ダラーの先に日本がある。

ヤンゴンの南に位置するダラーは、ヤンゴンの開発から常に取り残されてきた。そして今、日本連合企業を主体に東のティラワに発展しようとしている。一方、韓国政府の肝いりで、ヤンゴン川に架橋しダラー工業団地を中心とした開発を行うと大々的に発表した計画案は、その後何一つ進展が聞こえてこない。そこにチャンスが見えてこないだろうか。箱モノの乱造には各国政府も、NGOも興味を示す。だが、ダラーには立派な校舎は似つかわしくない。むしろ、ニッパ椰子でおおった風通しのよい簡易校舎で十分だ。灼熱の太陽光線と、篠突く雨を凌げればよい。嵐で壊されたらまた建てればよい。箱モノではなく、ソフトで勝負するのだ。チープなフィランソロフィーを逆手にとって、コストのかからない本当にチープな校舎を建て、ソフトで勝負するのだ。

ヤリ方次第では、ティラワ開発だけではなく、日本本土への有望な助っ人となる可能性が潜んでいるような気がする。



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04:チェリーI、II,III三隻の寄贈式

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2012年4月の日緬首脳会談にて経済協力方針が示され、「ヤンゴン渡河船整備計画」がJICAを中心に進められた。広島県江田島市にある中谷造船で建造、今年8月には完工したが、南シナ海の気象状況が悪く、輸送方法が検討され、川崎汽船子会社の重量物船社SAL社が広島港外貿埠頭にて10月中旬にPAULA号に三隻を積み込み、広島からヤンゴンに輸送。合計700トンのクレーン能力を利用してティラワ港で10月31日に荷揚げを完了した。

各船のデザインはレーダーとGPSを装備し、客席フロアは二層で、全長41m、幅9m、深さ7m、総トン数290トン、旅客定員1200名だが、マスコミ公表は1000名となっている。

これらフェリーは日本政府から内陸水運公社(運輸相管轄のIWT=Inland Water Transport)に寄贈され、2014年11月15日に就航式がパンソダン桟橋で行われ、最初の三日間はダラー桟橋間で無料運行となり、地域住民に大いにアピールした。

なお、船長など乗組員に対する訓練は2週間、日本で行われた。しかし、ヤンゴン川は川上から川下へだけ流れるのではない。上げ潮になると下流から上流へと逆流し始める。しかも、それぞれの流れは速い。世界でも珍しい河川港である。だから、舳先をまっすぐにダラーに向けて航行することは、上げ潮と下げ潮の中間時のほんの短い時間帯だけである。いつもは流れに舳先を向けて横泳ぎをしている。しかも10分間隔で、よーいドンでパンソダン桟橋とダラー桟橋を同時に二隻が出発するから、川の中央で両船は行き交うことになる。それ以外にもこのヤンゴン川は出船・入船で混雑している。小船や艀も多い。晴天ならよいが、天候が崩れると、船長・乗組員にとっては緊張を強いられ、神経をすり減らすことになる。

運行は朝の5時から夜の9時半まで、二隻で一日52航海をこなす。そしてローテーションを組み、2日ごとに一隻を休ませメンテを行う。海上(河川)には常に危険が潜んでいる。

ルーフトップにはオレンジ色のライフボートが相当数装備されている。多分、自動で膨張する最新式なのだろう。だが、ヤンゴン川は平水ではない。流れはきつい。IWT公社の万全の安全航行を祈願したい。余計なお世話だが、韓国のフェリー海難を他山の石として、流れの早い時間帯に休航中の一隻からライフボートを発射する訓練をやってみてはどうだろう。本当に乗船客がライフボートに乗り移る余裕があるのかどうか。それともライフボートが流れ去るのか。ミャンマーは内陸水運が発達した国でもある。IWT公社の安全対策が一気にアップグレードするチャンスとなるだろう。


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