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<ミャンマーで今、何が?> Vol.10
2012.9.11
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■ミャンマー劇団がニューヨーク公演
・世界のヒノキ舞台
・ヒラリー国務長官の凄さ
・テインセイン大統領を米国に迎える
・第3幕から空気が変わる
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・ミャンマーで今、何が?
■ミャンマー劇団がニューヨーク公演
<世界のヒノキ舞台>
ニューヨーク公演というと、誰もが世界のヒノキ舞台ブロードウェーのヒット・ミュージカルを思い浮かべることだろう。だが、今回はそれとはまったく異なる特別のヒノキ舞台が用意されている。
総合プロデューサーはヒラリー・ローダム・クリントンその人である。主役は今世界で最も注目を浴びている人気スター、テインセイン大統領とスーチー議員である。
読者の皆さんは、今年7月10日(火)に創刊した週刊メルマガ第1回の主題<ミャンマーで今、何が?>を憶えておいでだろうか?
衛星中継でつながったスーチーさん湖畔の自宅とニューヨークの“クリントン・グローバル・イニシャチブ”会場の大スクリーンが舞台となり、それは2011年9月21日の出来事であった。今からほぼ一年前のことである。自宅軟禁は解かれたものの、政府が口にする民主化が果たして本物なのかどうか、特に自国人民を銃で制圧した残虐非道なミャンマー軍事政権の過去に、そして軍服を市民服に着替えただけの見せ掛けの新政府に、欧米政府および欧米マスコミが非難と疑いの目を厳しく投げかけていた時期である。
スーチーさんはその3日前にテインセイン大統領とネイピードで劇的な極秘会談を行っている。そして誠実な人柄で民主化を真剣に考えているとスーチーさんがテインセイン大統領に信頼を置くコメントを発表した。雪解けが始まった瞬間である。だが、今回はそれがテーマではない。
スーチーさんが大画面上で語りかけた。「とうとう動き始めました。私たちは変革の開始を、今まさに目の当たりにしているところです」と。一年前というと、スーチーさん本人が自分の海外出国が叶うなど想像だにできない時点での話であった。
この週刊メルマガは火曜日発行で、今回の原稿締め切り直前ではまだ何一つ発表されていないが、あれから一年後の今年の“クリントン・グローバル・イニシャチブ”のヒノキ舞台では、スーチー議員の特別ゲスト・スピーカー出席は間違いなしと東西南北研究所は読んでいる。今年はスーチー議員本人がこのヒノキ舞台に登場するのである。そして世界のメディアに向けてニューヨークから衛星ライブが流される。今、ミャンマーを取巻く環境は地球がスピンする速度よりも高速度で回転していると思えるのだが、読者の皆さんはいかが予測されることだろうか。
総合プロデューサーがヒラリー国務長官ということであれば、どのような演出を考え出すかまるで想像がつかない。だが、彼女自身が今活用できる権力辺りから様子を探ってみよう。多分、第42代元米国大統領のビル・クリントンを動かすことぐらい朝飯前の仕事だろう。もちろん晩飯後でも構わないのだが。
<ヒラリー国務長官の凄さ>
国務長官というポストは米国連邦政府内において米国大統領・副大統領に次ぐ第3位という高順位の重要閣僚で、大統領職の継承権においても副大統領・下院議長に次ぐ第3位の高順位と米国憲法で規定されている。もし彼女が女性ということでナメた見方をしている男性諸氏がいたら、厳重に警告するが、彼女の手にしている権力はアメリカ国内では中途半端ではないのである。そして今の時勢、アメリカ国内でということは、世界の舞台でも中途半端でないということである。
彼女であれば、自分のボスのオバマ大統領を動かすことも容易なはずだ。彼女に強敵がいるとすればファースト・レディーのミッシェル・オバマ位だ。今年は4年に一度の米国大統領選の年に当たり、現職のオバマ大統領に対して共和党のロムニー候補が11月6日に挑むが、これは恒例のお祭り騒ぎのようなものだ。民主主義のチャンピオンとして、共和党にも民主党にも尊敬されているスーチーさんカードをひらひらさせて、ヒラリー国務長官であれば超党派の威厳のある歓迎式典を画策することだろう。
スーチー議員はオスロでノーベル平和賞を受賞したあと、今年6月21日、11世紀に建造された格式の高い英国議会ウェストミンスター・ホールでの上院下院両議院による合同議会で外国人著名人としては異例のスピーチを行った。女性としてこの待遇を受けたのはエリザベス女王2世を除いていない。そして全出席者のスタンディング・オベイションを受け、その一部始終が世界中の衛星テレビでライブ放送された。
この華々しいスーチー効果をあの強気のヒラリー国務長官が黙って見ていたと思いますか。多分嫉妬にも似た激しい怒りで煮えたぎっていたはずです。世界中から見放されていた鎖国同様のアジアの一国をこじ開けたのは、このワタシ・ヒラリーで、民主主義の旗頭・米国なんだと。ワタシの特別機がネイビードに降り立たず、このワタシがスーチー女史とハグしなかったら、ミャンマーの民主化は絶対にありえなかったんだと。その美味しい果実のみを横取りする英国は相も変わらず老獪で、他の欧州諸国も同じようなものとこのセレモニーを苦々しく見ていたと想像すれば、発表されていない今回のニューヨーク公演が見えてくるような気がする。
そこで、オバマ大統領および新駐ミャンマーのデレック・ミッチェル大使と文殊の知恵をひねってヒラリー国務長官は徹底的な秘策を練っているはずだ。テインセイン大統領とスーチー議員という2枚のワイルド・カードをもてあそびながら。
本来ならてきぱきと情報開示を行う国務省が今回に限って多くを語らず沈黙を保っている。それならばと、我々東西南北研究所は総動員をかけ、独自に開発した行間を読み解くシステムをフルに活用することにした。
その分析に従えば、このヒラリー国務長官の準備段階から、ミャンマー劇場はすでに第3幕に入ったものと現状を位置付けることにした。これは決してお祭り騒ぎではなく、オバマ政権の命運を賭けた米国にとって重要なシナリオで、21世紀の屋台骨となる世界大戦略である。
そしてミャンマー劇場の人気スター、テインセイン大統領とスーチー議員をまったく同じ時期に米国へ呼び寄せる布石は打たれた。この米国発信のヒラリー演出でもっともイライラするのが中国である。
8月29日(水)オバマ大統領が声明を発表した。「来月開催される国連総会に出席できるようテインセイン大統領に対する米国のビザ規制を撤廃する。これはミャンマーの改革を支持するためのものである」と。米国とミャンマーが蜜月状態に入っているものと思っていたのに、今さら何をと思われる読者もいるかもしれないが、米国のミャンマーに対する経済制裁はシンプルでなく、複雑に幾重もの規制の網をかぶせています。ですから、ここでああまだこのような経済制裁が残っていたのだと、マスコミを含め大半の人たちは再認識するわけです。
2008年、米国はミャンマーのかっての軍事政権幹部および軍事政権に経済協力した取巻き連中およびその家族への米国ビザ発給を禁止しています。
もう少し細かい法律規制を説明すると、1945年に米国議会が米国領土内での国連本部の設置を招聘し、1952年NYマンハッタンのイーストリバー沿いに国連本部が完工します。そして米国との合意によって、国連本部敷地内では米国法の適用は受けないとなっています。ですが、実際には国連本部に行くために通常はニューヨークの飛行場に到着せねばなりません。そこで米国移民法の適用を受けることになり、このオバマ大統領の声明が生きてくることになります。
そしてオバマ大統領は特定個人に対するビザ発給禁止の解除に関してはヒラリー国務長官にそのすべての権限を付与しています。
今回のビザ解除は当然のことながら、テインセイン大統領一人だけでなく、大統領が連れてくる各大臣・副大臣・その他随行団全員ということになります。そして国連年次総会の期間中、一行には米国内を自由に行動する機会が保証されました。
ホワイトハウスの担当官は、「これは米国政府がテインセイン大統領およびそのミャンマー政府と緊密な関係を築きたいとする意思表示である。我々は信頼を築き、更なる改革を推進することが出来るはずだ。改革派の大臣たちが米国高官と自由に話し合い、民主主義と米国の政策をさらに理解してもらうよう期待している」と語っています。
<テインセイン大統領を米国に迎える>
テインセイン大統領は今年6月のラカイン州暴動で逮捕され、同州マウンドーの法廷でそれぞれに2年・3年・6年の禁固刑判決を受けた3名の国連現地職員に対し大統領特赦を8月末に発表した。(注:国連職員という名前で通常の読者は一定のイメージを抱かれると思うが、公平を期すために付け加えると、この3名は現地で採用されたムスレム社会に属する人間である)
これがテインセイン大統領の国連総会出席、およびオバマ大統領の声明と何らかの関係があるのかどうか今のところは不明だが、バンコクのドタキャンという前例もあるが、今回テインセイン大統領が国連総会に出席することは上記情報から先ず間違いないと見てよいだろう。
というのも、スーチー議員が自宅軟禁解除後、初の海外訪問先に最終的に隣国タイを選択し、バンコクでの“Economic World Forum”を彼女の国際舞台として発表した、そのときのことである。おかしなことに、その直後、当初決定していたバンコクでの“Economic World Forum”への出席はもちろん、国内事情のためにタイ訪問そのものを突如延期すると大統領府は発表した。そして、この辺りからスーチー議員とテインセイン大統領の間に何らかの不協和音が流れたのは事実である。その解明は置くとして、ヒラリー国務長官が海外でのテインセイン大統領とスーチー議員の競演というビッグ・チャンスを活かす演出を考え出すことも可能である。
当然すぎるほどヒラリー国務長官は、マスコミの活用法を十分に熟知している。場合によっては手玉にとることも可能だろう。
彼女の権力が国連にまでは及ばないとしても、それ以外に“クリントン・グローバル・イニシャチブ”、上院・下院合同議会、あるいは米国大統領の住まいであるホワイトハウスという晴れ舞台を用意するなどヒラリー国務長官にとって容易い仕事だ。そこでのミャンマーの主役二人の揃い踏みをヒラリー国務長官が振り付けするのだ。
もう一度繰り返すが、第1回の主題<ミャンマーで今、何が?>で描写した、大統領専用機“エア・フォース・ワン”の機上からスーチーさんにオバマ大統領が確約を求めたのは、「ミャンマーの民主化推進に米国が介入した場合、スーチーさんはゆるぎない態度で我々を最後まで支援してくれるね!」であった。これこそが、オバマ大統領の政治戦略の核となる21世紀のドクトリンであったのだと東西南北研究所は改めて確信を得た。そしてそれをニューヨークのヒノキ舞台で演じるのが、テインセイン大統領とスーチー議員の競演である。外国のメディアが漢字で表題を付けるなら、その派手さからいって、多分“競艶”と書き直すだろう。
すべてはオバマ大統領とヒラリー国務長官がデレック・ミッチェルの意見を斟酌しながら練りに練った世界大戦略である。このニューヨーク公演、そしてワシントンDC公演が成功すれば、北朝鮮へ対するモデルケースどころか、イランに対しても、シリアに対しても、米国が21世紀の地球を制覇する大きなステップとなる。
総合プロデューサー=ヒラリー・ローダム・クリントンであれば、本当に“サプライズ”といわれる派手派手な演出が可能なのではあるまいか。
繰り返すが、9月は世界の大物が国連を主体にニューヨークへ勢ぞろいする。ヒラリー国務長官にとっては選択肢が幾らでも広がる大きなチャンスだ。そしてこれらのリストから自分の指で直接ピックアップした世界の超セレブをオバマ第44代米国大統領の名前でホワイトハウスの晩餐会に招待する。押し掛ける客はいても、断る客はいないはずだ。当日、大統領を囲む主賓のテーブルに座るメインゲストは当然ミャンマーのテインセイン大統領とスーチー議員で、この二人だけにスポットライトが照射する。
その舞台で、オバマ大統領がテインセイン大統領のこれまでに成し遂げてきた民主化への努力を最大限に評価し、配慮に溢れた賛辞を述べ、現代のミラクルであると持ち上げる。前回のバンコクにおける揃い踏みは流れてしまったが、これはアメリカの陰謀との憶測も後日流れるかもしれない。デレック・ミッチェル駐緬大使はそのチャンスを米国のものとして取込もうとしている。そこでミャンマーの大統領に対して最高の栄誉礼を演出する。スーチーさんの過去の海外旅行がくすんで見えるほどのプレゼンテーションだ。ヒラリー演出であればこれは可能であろう。アジア通の、そしてミャンマー内部に通じた男としてデレック・ミッチェルは自分のボスであるヒラリー国務長官に助言しているはずである。テインセイン大統領の国際的評価を、スーチーさんと同レベルにまで引上げバランスをとるべきだと。そうすればミャンマーは動き、ミャンマーは変わると。
そして同じテーブルでスーチー議員の紹介である。男女平等を標榜する西洋人には分かりづらいだろうが、このテーブルで実に微妙な空気が流れる。世界で最も進んだ先進国家を自認する米国だが、皮肉なことに女性大統領の一人すらまだ輩出していないのも事実である。ミャンマーの女性にとっては同席するミャンマーの男性に対するチョットした仕草が大きくモノをいう。すべてはテインセイン大統領の面子をどれほど斟酌したものであるかにかかっている。ここでじっくりとシチュエーションを見て欲しい。舞台はアメリカ公演だが、演出家がターゲットとしている真の観客はネイピードにいる将軍たちである。このあたりの機微をシナリオ・ライターであるデレック・ミッチェルがどれほどまでに理解して、ヒラリー国務長官に指南しているかお手並み拝見と行きたい。
<第3幕から空気が変わる>
このヒラリー演出による米国公演が成功すれば、この二人はミャンマーに戻ってミャンマーでの民主化作業がやり易くなる。そして頑迷な将軍たち、特にハードライナーと呼ばれる強硬派、あるいは若いエリートの士官たちに対して民主化に対するシンパを増やす布石ともなりうると考えている。
今年8月、スーチー議員は9月21日NYで大西洋審議会(Atlantic Council)が授与する世界市民賞(Global Citizen Award)を受けるために米国を訪問すると発表した。この大西洋審議会(Atlantic Council)は米国のワシントンDVのシンクタンクと簡単に紹介されている。疑り深い人にとってはなんとも胡散臭い、しかもシンクタンクなどというスーチーさんとの接点を疑問視するような団体名である。
ウィキペディアによれば、「21世紀の国際的挑戦に応答して大西洋地域社会が中心的役割を果たすため米国が国際関係に関与し建設的なリーダーシップをとること」が使命とされている。2009年2月、大西洋審議会の前会長がオバマ政権の国内安全顧問として参画したり、同審議会メンバーのスーザン・ライスが米国の国連大使として起用されている。国際的な知名度はないが外交戦略に関する多くの知的ブレーンが米国の国内外の多方面で活躍している。東洋でなく、西洋主導というところに東西南北研究所は引っかかりを憶えるが、これは今回の主題ではないので先を急ごう。
1961年の設立当初から、共和党・民主党を離れた超党派のポリシーを貫き、その憲章によれば、米国政府にもNATOとも距離を置いた独立したNGOであるとして登録されている。
そして年間行事として世界市民賞(Global Citizen Award)晩餐会が毎年NYで開催される。この世界市民賞を今年9月21日に受賞するのがスーチー議員である。今年7月12日に彼女は海外のマスコミに対して米国訪問の予定を初めて電話インタビューで明らかにしている。
米国議会は米国最高の栄誉である議会ゴールドメダルを9月19日にスーチー議員に付与することにしている。
ミャンマー議会においては外国資本の乱入で国内資本が潰されてしまうとする保護派と、ミャンマーの発展には外国資本が絶対に必要だとする外資導入賛成派との間で“外国人投資法案”を巡る議論が激しく対立していたが、数日前に両議院を通過して、大統領の最終的な採決を待つばかりとなっている。テインセイン大統領にとっては、勤皇か佐幕かの苦しい決断を迫られている。
米国は、最近、ミャンマーに対し米国企業の投資を禁止していた制裁を15年ぶりに解除した。
テインセイン大統領は最近大々的な内閣改造を行い、自分に忠誠を尽す大臣を大統領府の内部に配置した。これまで周囲では改革派か保守強硬派かの綱引きが執拗に繰り返されたが、徐々に強硬派を排除し、プロ改革派で身辺を固めているようだ。テインセイン大統領の自信が窺える。
最近、ミャンマー政府はミャンマーへの入国、またはミャンマーからの出国を禁止する外国人・ミャンマー人の6,000名以上に及ぶブラックリストを解除すると発表した。これにはスーチー議員の二人の息子も含まれている。
その一方で、今だに収監されている政治犯問題、民族問題、北朝鮮との不透明な関係がまだ解決されていないとして、米国のミャンマーからの輸入禁止はまだ解除されていない。
スーチー議員はこれとは別個に、インディアナ州のフォートウェーンのAllen County War Memorial Coliseum で9月25日午前スピーチを行う。この地域には約4千名のミャンマー人が住み着いており、米国内では最も大きなミャンマー人非難キャンプとなっている。
前後するが、ヒラリー・クリントン国務長官の北京を見据えた、環太平洋諸国訪問は明らかに21世紀の米国のプレゼンスを強調する以外の何モノでもない。そして北京そのものとロシアの極東の要ウラジオストックでのAPECに参加している。
今回はそこまで言及する時間はないが、米国の21世紀構想という中心線を見誤らなければ、すべてがその線に沿っていることが見て取れるはずだ。
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