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<ミャンマーで今、何が?> Vol.86
2014.03.19
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■ミャンマーのスターバックス
・01:“コォピ・ザイン”入門編
・02:注文は“ラペッイエ!”と一言
・03:“コォピ・ザイン”は効率的なビジネス・センター
・04:コォピ・ザイン”の稼ぎ時
・05:コォピ・ザイン”の配置図
・06:あとがき
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それは“コォピ・ザイン”だ。
“コーヒーの店”という意味である。
日本語もそうだが、英語がそのままミャンマー語に採用された単語は多数ある。だが、耳をそばだてないと聞き逃してしまう言葉が多々ある。そのひとつが“コーヒー”である。
アメリカ人が早口で喋る“カフィー”を日本人は“コーヒー”と聞き取り、ミャンマー人は“コォピ”と聞き取った。だから日本人は“コォピ”が“コーヒー”だとは思わない。言葉のおもしろいところは、本場シアトルのスターバックスで、日本人が“コーヒー”と言ってもなかなか通用しないし、ミャンマー人が“コォピ”と発音しても通じない。逆は必ずしも真ならずというところだ。
この“コォピ・ザイン”は雨にも負けず、風にも負けず、そして夏の暑さにも負けずと、青空の下での完全な路上喫茶である。決してビルの内部に店舗を構えていない。
一時は都市の美化運動とかで大通りから追い出され、横丁の路地に移転させられたが、しぶとい商人根性で、あるいは取締りの下っ端役人を買収して、またまた大通りへ進出してきた。
旅行者であれ、駐在員であれ、この“コォピ・ザイン”を活用しなければ、本物のミャンマー通とは言えない。なんと言っても<ミャンマーのスターバックス>なのだから。
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01:“コォピ・ザイン”入門編
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あなた一人の場合と、友人連れの場合とで作法は異なるが、早朝なるべく一人での初体験をお勧めする。“らっさいませ〜!”の声は掛からないが、店長らしき人物とアイコンタクトした上で、自分の席を決めかねるフリをして辺りを見回す。あなたをミャンマー人でないと見た店長がテーブルに誘ってくれる場合もある。これはラッキーな場合だ。そうでないと気の利く小僧が前の客の茶碗を片付け、清潔そうでない布巾でテーブルを中途半端に拭いて、ここに座れと命令してくれる。
だが、道路間際のテーブルはお勧めしない。というのも、未熟な運転手がテーブル間近で切り返しを繰り返し無茶なUターンをしたり、途中であきらめたりする。その間、後続の運転手がテーブル近くでアクセルを吹かし黒煙を見舞ってくれる。
できれば“コォピ・ザイン”の全体が見渡せ、前方の道路も視野に入る最奥の椅子が理想的だ。
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02:注文は“ラペッイエ!”と一言
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着席すると、店長あるいは小僧とあなたとの間でほんの一瞬だが微妙な空気が流れる。敵は間合いを量っているのだ。あなたを外国人と見てビルマ語が通じるかを読み取ろうとする。この微妙な空気に躊躇すると別のテーブルのミャンマー人の注文が先となる。
ここで‘メニューを’などと言ったら、あなたは激動のミャンマーに乗り遅れるだろう。ではどうすればいいのか。店長あるいは小僧とのアイコンタクトが成立した瞬間、臍下丹田に気合を入れて大きな声で“ラペッイエ!”と言えばよい。できることなら、このバリスタたちとあなたの距離は少し離れていたほうがより効果的だ。
すると店長のみならず、店内のミャンマー人が皆あなたを振り向くはずだ。これであなたは店内全員の注目を引き付けたことになる。5カ国と国境を接しているミャンマーの人たちは外国人に非常に敏感だ。みんなそ知らぬ顔をしているが、外国人が近づいた瞬間からあなたに注目していると見てよい。小僧たちも、暇さえあれば用もないのに興味津津であなたの周りに寄ってくる。
店長自らが、あなたがラッキーならばの話だが、たっぷりと練乳を溶かした死ぬほど甘ったるい紅茶を運んでくれる。それが“ラペッイエ!”だ。
“コォピ・ザイン”だから、もちろんコーヒーもあるが、当地のコーヒーは砂糖と粉ミルクが最初からミックスされたスリー・イン・ワンで、砂糖抜きのコーヒーなどはない。これも死ぬほど甘ったるい。どうせ死ぬほどなら、大英帝国時代の伝統を残す紅茶の“ラペッイエ!”をトライしていただきたい。
あなたがラッキーなら、インド系のご老人が話し相手にその“ラペッイエ”を受け皿にこぼれぬ程度に注ぎ、自分は茶碗と、二人で一人前を啜り合うシーンを見学できるだろう。これこそジョージ・オーウェルの小説の挿絵にも出てくる、裏千家か表千家か忘れたが、当時ロンドンの上流社会で流行したオリエンタル風紅茶の正式なお点前である。
だが、“コォピ・ザイン”は紅茶とかコーヒーが目的ではなく、何杯でもお代わり自由なミャンマー茶が本来の機能を果たしている。こちらは無料である。だから一杯250チャット前後のコーヒーにしても紅茶にしても場所代と解釈したほうが適当だろう。
もう一度マニュアルをおさらいすると、早朝、“コォピ・ザイン”で店長と目で挨拶する。着席すると同時に大声で“ラペッイエ”である。
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03:“コォピ・ザイン”は効率的なビジネス・センター
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この店長というよりも、この茶店のオヤジは信じられないほどの世間通である。この週刊メルマガのネタのきっかけはほとんどこのオヤジの世話になっている。
だから、オヤジが近くによってきたら、最大限の笑顔を作って彼と友人になることだ。彼をあなたのビジネスの参謀にできたらこれは最高だ。
MH370が失踪してから、情報不足で中国がイライラしていること。ベトナム海域でその痕跡が見つからなかったこと。インド洋からアンダマン海に捜索が転じ、今はミャンマー領海が注目されていること。だが、可能性としてカザフスタンからトルクメニスタンもありうることなども解説してくれる。
それだけではない。今、目の前を通った外国人はオーストラリア人で、ヤンゴンのどこそこで英語を教えている。宿舎は何番街のなんと言うゲストハウスだと。当然、今日からはあなた自身のデータが彼のデータバンクにインプットされる。
どこかの国賓の車列(モーターケード)がこの大通りを通過するので、明日から三日間は当局の指示で“コォピ・ザイン”は強制休業だ。商売上がったりだ。何とか省の次官が汚職の疑いで取調べを受けている。大臣にまで手が伸びたら一網打尽だ。スーチーさんが滑ったの転んだのと話題は豊富だ。
ケータイの調子が悪いとの相談にも、チョット待てあと15分するとその道の専門家が来るといって紹介してくれる。この茶店のオヤジを介して友人の輪は次々に広がっていく。
この“コォピ・ザイン”は毎朝、日の出前にビルの軒先にテントを張って店舗を設営するが、夕方には椅子・テーブルなどすっかり片付けて、掃き掃除し、水をまいて、まるで何もなかったように、まっさらな状態にして、オヤジは帰宅する。
それにもかかわらず有線電話を設置して、ここから電話も掛けられるし、電話を受けることもできる。東西南北研究所もケータイのない時代には、ここを事務所としていた時期がある。発信電話代金は別としても事務所経費は一日25円のお茶代である。
近くで店開きしている新聞スタンドから数紙を拝借して“コォピ・ザイン”でじっくり読み込む猛者もいる。そしてミャンマーでのエチケットは、この数紙を元に戻して新たな一紙を購入して自宅に持ち帰って読むのである。
腹がすいたら各テーブルには菓子パンが幾つか用意されている。食べた分だけ清算すればよい。タバコが吸いたければ一本ずつのバラ売りをしている。ライターはテントの支柱に百円ライターがぶら下がっている。朝食がまだなら、向かいの屋台からモヒンガーを出前してもらえばよい。あるいは隣の屋台から焼き飯を取り寄せることもできる。別の屋台ではシュガーケーン・ジュースが飲める。客が引き上げると同時に、何匹かの雀が舞い降りてテーブルの上のパンくずを掃除してくれる。目の前のマンゴーの樹は青い果実をたわわにぶら下げている。あと一ヶ月もすると食べごろだろう。小型のカメレオンを思わせるトカゲがするすると木陰に隠れる。
あなたが物怖じしないタイプなら、ここで茶飲み仲間を増やすことも可能だ。会話の基本は笑顔からスタートする。時には信じられないほど達者な日本語を喋る若者にも出会う。僧院で勉強したそうだ。日本の寿司は食べたことがないという。それではと親分風を吹かせて日本帰りのミャンマー人が経営するミャンマーの寿司屋に連れて行く。彼の反応を見てみたい。こうやって“コォピ・ザイン”の常連になっていく。ここはミャンマーの社交場で、しかも五つ星ホテルほど金のかからないビジネスセンターでもある。
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04:コォピ・ザイン”の稼ぎ時
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常連になると分かってくるが、“コォピ・ザイン”のピークは三つある。
朝・昼・夕方である。
出勤前のサラリーマン、あるいは工事を開始する前の作業員、それとも学校へ付き添う親子が、ここで朝飯を済ませる。モヒンガーは基本的に朝の食事だ。だから、向かいの屋台はいつも超満員で猫の手も借りたいことだろう。そのモヒンガーを自分で“コォピ・ザイン”に運んできて、ここで食べ、その丼を自分で屋台に返しに行くのが通のやり方である。このことは池波正太郎先生のどのエッセーにも書いてない。
いまはネイピードに引っ越してこの光景はヤンゴンでは見られなくなったが、一昔前は朝飯のラッシュアワーの後で、というのは午前10時ごろ、その頃出勤してきたお役人がいったん私物を役所に置いて、というよりも出所したというアリバイを巧妙に匂わせて、おもむろに“コォピ・ザイン”でお茶するのである。そしてランチタイムまでの貴重な時間をここで新聞を読んだり、無駄話に花を咲かせるのである。そして昼飯前に役所に戻り、三段重ねのランチボックスを事務机で悠然と開くのである。
だから昨日今日来たような日本人ビジネスマンが役所で何時間待ってもキーパーソンは現れない。“コォピ・ザイン”で研修を積んだミャンマー通ならば、お役所の若い事務員に小銭を渡して、キーパーソンの行きつけの“コォピ・ザイン”を聞き出し、そこに赴いて仕事をこなすことができる。しかも役所内よりもオープンな“コォピ・ザイン”だからアンダーテーブルの包みも渡しやすいし受け取りやすい。
先週スーレーパゴダ近くで久しぶりに出会った旧友が言っていた。最近は、日本の本社もミャンマーに本腰を入れ始めたようで、ハーバードなど有名大学を卒業したMBAホルダーを次から次に送り込んでくる。だが、彼らが優秀なのはマニュアルの遂行だけだと。
まったくの同意見だ。ここミャンマーで必要なのは本物のMBAホルダーだ。本物とはMyanmar Business Academyの研修者である。この証書を習得できるのは“コォピ・ザイン”だけである。人生を左右するのは運・不運次第。あなたがラッキーなら、良いオヤジに出会えるだろう。幸運を祈りたい。
そしてランチタイムは“コォピ・ザイン”が超満席となる。日本人はほとんど知らないが、ミャンマーのテーブルマナーでは断りなしに他人の椅子を横取りすることが許されている。だから、遅れてくる同僚のために鞄でも上着でも構わない。まずは先取り特権を主張しておくことだ。このランチタイムが終わるとけだるい昼下がりとなる。“コォピ・ザイン”はガラガラとなる。逆にオヤジから特種情報を引き出すチャンスとなる。情報はタダではない。できれば、日本製の何かお土産を持参すればもっと効果的だ。これはハーバードのMBAコースでは勉強できない。Myanmar Business Academyだけの必須科目だ。
そして夕暮れ時がこの日最後のピークとなる。まだ5時前だ。日本であれば仕事時間中である。どうしてこの時間帯がお茶の時間となるのか良く分からない。だが、ここが彼らのビジネスセンターとすれば理解できる。この日一日の仕事の成果をここでまとめたり、打ち合わせするのだ。だから昨日今日ヤンゴンに赴任してきたばかりの日本人経営者がスタッフを探しても事務所にいないのがこの時間帯である。ケータイすると、今お客様と打ち合わせ中ですとかのもっともらしい答えが返ってくる。
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05:コォピ・ザイン”の配置図
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ここは少し気分をハイにして無理矢理、パラソルがお洒落な代官山のあるいはモンマルトルのオープン・カフェだと想像してほしい。ハエが飛び交っても、虫ではなかった無視していただきたい。ここヤンゴンの青空の下、路上の歩道を占拠して、プラスチック製の椅子とプラスチック製のテーブルがセットになって置いてある。この椅子の高さがせいぜい30cmで、本来は風呂場の腰掛ではないかと思わせるちっぽけな椅子だ。テーブルもそれに合わせてせいぜい50cmの高さで、特に大柄の欧米人が座ると、ガリバーのままごと遊びと映る。それがビジネス規模に合わせて10卓であったり、20卓であったりする。伸縮自在なのだ。
タイ製品か、中国製なのか不明だが、このプラスチックが赤・緑・青と色鮮やかで今やヤンゴンの風物詩となっている。しかも、夏場は強烈な日光を、雨季は土砂降りを避けるために、工夫して大型パラソルやキャンバスシートが頭上に張ってある。それだけではない、気の利いた店長は大きく枝を張ったベンガル・アーモンドやレインツリーなどの樹下に出店する。これが大木になると、いまの時季、日中は38度ほどだが、ここだけは涼しげな風が通り抜け、別天地となる。
おもしろいことに隣には必ず一膳飯屋や、モヒンガー屋が寄り集まってくる。それだけではない。駄菓子屋や例のキンマ屋(ビンロウ樹の実と石灰をキンマの葉で包んで噛み、口中を真っ赤にして唾を吐き出す例の噛みキンマ専門店)が出店している。どの国でもビジネス発展の歴史を勉強したければ、ハーバードのMBAならウォール街がケーススタディの対象となるだろうが、ミャンマーのMBAでは何と言っても“コォピ・ザイン”である。
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06:あとがき
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ミャンマーの現状は、保守派の盛り返しであまりおもしろくなくなってきた。目くそ鼻くそのせめぎ合いが続くことだろう。しかし、テインセイン大統領は粘り強く打開策を思考中と思われる。前にも書いたが。どちらにせよ改革派と保守強硬派との綱引きだ。スーチーさんも憲法改正で無駄にエネルギーを消耗させられている。欧米の外交筋も憲法改正に向けた圧力を中央政府に掛けているが、実際の強硬派およびその大元を説得できる段階にない。ロヒンジャーの問題も同様である。欧米のマスコミがひとつ間違えると、ジョージ・ブッシュ元大統領と同じように宗教対宗教という泥沼に追い込むことになるだろう。「ミャンマーで今、何が?」は死ぬほど甘ったるい話題でしばらくはお茶を濁すことになるだろう。
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