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<ミャンマーで今、何が?> Vol.83
2014.02.26

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar


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■きな臭い話―政界の動き

・01:2015年の大統領選挙

・02:スーチーの弱み

・03:2013年10月19日

・04:闇将軍不満の真意とは

・05:テインセイン大統領の豹変

・06:テインセイン大統領の葛藤

・07:シュエマン下院議長は歴史を変えられるか?

・08:闇将軍への誓い

・09:改革派か、保守派か?

・10:世代交代もオプションのひとつ

・11:闇将軍の目の黒いうち

・12;もう一つのオプション
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今回はミャンマー政界のきな臭い話をしてみたい。華々しい経済界の動きとは別に、政界は2015年の大統領選挙に向けて一気に動き出したようだ。特に、国営日刊英字新聞(以下NLM紙と省略)に注目しながらミャンマーの動きを読み取ってみたい。

ニューヨークタイムズ紙やワシントンポスト紙など欧米の一流紙がミャンマー情報をかなり詳細に取り上げるようになった。が、そのニュース源をたどるとその発端はこのNLM紙であることが最近は多い。このNLM紙は国営であるだけに、国としての意向が見事に反映されている。間違えてはいけない。政府の意向ではなく、あくまでも国の意向である。だが、字面だけを追っていたら本質は見えてこないだろう。行間を読み取る必要がある。



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01:2015年の大統領選挙

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2015年の大統領選挙といえば、まずはスーチーNLD党首に誰もが注目する。だが、憲法改正という巧妙な罠を仕掛けて、スーチーの情熱とエネルギーを2015年の大統領選挙までに消耗させるという戦術に追い込まれてしまったようだ。大統領に就任後はどういう政策で、ミャンマー連邦をどの方向に導くかという、スーチーの将来を見据えたビジョンが争点となるはずだが、大統領選に出馬する資格さえ危ぶまれる現状だ。その突破口を見出せないまま彼女のエネルギーは無駄に消費されていく。

2015年の大統領選挙で彼女の最大のライバルと見なされるシュエマン下院議長は、「彼女が大統領に当選したら、自分が党首を務める現在の与党USDPは彼女に協力する」とメディアに語っている。が、これは実におかしな話だ。2008年憲法は彼女本人をターゲットにして大統領選出馬を阻止し、数の論理でその憲法改正を事実上不可能にしているからだ。憲法改正ができるとしたら、その最短距離にいるUSDP党首がこの問題をクリアにした上で、上記の発言をするのであれば納得できる。したがって、後世の歴史は憲法改正のキャスティングボートを握る与党のトップとして、フェアな発言ではないと断定することだろう。


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02:スーチーの弱み

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そして、スーチーにはもうひとつ泣き所がある。大統領資格は棚上げにして、仮にスーチーが大統領に選出されたと仮定しよう。その場合に、改革を最も嫌うお役所仕事が身に染み付いた官僚および下っ端役人を果たしてスーチーがコントロールできるかという大問題である。これまでは、将校および兵隊を管理する術を徹底的に学んできたテインセイン大統領ゆえに、それが可能だった。しかし、彼女にはその実績はなく、彼女を補佐すべきNLDの人材の中にもそういう訓練を受けてきた人物は不足している。したがって、テインセイン大統領を見習って大統領府を設けても人材不足は明白だし、NLD党内から各省庁の大臣・副大臣を任命しても、彼らが省庁内の官僚を統率できるかがスーチーのアキレス腱となるだろう。



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03:2013年10月19日

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さあそこで、もう一度、昨年10月19日の火祭り事件を振り返ってみたい。

この日は、ミャンマーのいたるところで、昔の恩師、上司を自宅に訪れ、今日自分があるのはこの先達のお陰と帰依の心を表明する行事が行われる。この日、ネイピードの闇将軍の自宅も大勢の訪問者で賑わった。2011年3月に軍服を脱いだ新政府に権力を引き渡すまで、この国の頂点に君臨してきた最高権力者である。

テインセイン大統領を含めて、この闇将軍には競って忠誠を誓った訪問客ばかりである。元将軍もいれば、現将軍もいる。新政府に変わろうが、民主化がいかに進展しようが、その忠誠心に変わりはない。その忠誠心は生涯もち続けるであろう。そこで闇将軍が現在の民主化に不満だと漏らせば、どうなるだろう。さらにはテインセイン大統領の二期目出馬断念の情報をレポーターに漏らしたのがシュエマン下院議長である。



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04:闇将軍不満の真意とは

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闇将軍の不満は明らかにされていないが、民主化の速度が速すぎることと、過去の行為を免責することで元最高権力者とその家族を護る2008年憲法の改正が、逆鱗に触れた模様である。

と前にお伝えしたが、東西南北研究所が見落とした事実がある。

この闇将軍が徹底的に憎んでいたのがスーチー個人で、一時はその生命さえ危険に曝されたほどだ。それを別の形で明文化したのが大統領選出馬を阻止する2008年憲法第59条(f項)である。それを闇将軍が簡単に放棄するだろうか。闇将軍の体力・精神力が衰えないうちは、すなわち目の黒いうちは、2008年憲法に固執するのではないだろうか。それが現在の民主化に不満だと漏らした真意ではないだろうか。これが最大の疑問点である。
権力者の周りには忠誠心を誓うものが続々と集まってくる。

テインセイン大統領もそうであった。そしてシュエマンUSDP党首もそうであった。



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05:テインセイン大統領の豹変

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だが、テインセインは自分が大統領職に就任して、四面楚歌に置かれたとき、大統領の職権をじっくりと見つめ直した。そして憲法上、自分がこの国の最高権力者であることを自覚した上で、新政府発足時から国民に対しては“My Fellow Citizens”、そして国内の各民族に対しては “Esteemed National Brethren”と敬意を表して語りかけている。

これは大統領が国民一人ひとりと同じ目線にまで降りてきての発言だけに、ミャンマーの歴史上かってないことである。それだけに、国民はテインセイン大統領に驚き、これまでとは明らかに違うと敏感に感じ取ったに違いない。この瞬間にテインセインは大きく豹変したのだろう。



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06:テインセイン大統領の葛藤

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だが、内面での闇将軍に対する忠誠心との葛藤は克服できたのかどうかは誰にも分からない。自分を大統領という最高権力者の座につけてくれたのはあくまでも闇将軍であるからだ。豹変するに至るまで、断腸の決意を要したことであろう。ある識者はテインセインは責任を取る覚悟をしたと語った。サムライに例えれば、切腹を覚悟しての尽忠報国だ。



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07:シュエマン下院議長は歴史を変えられるか?

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シュエマンUSDP党首の立場は職権からしても重責からしてもまったく異なる。テインセイン大統領はミャンマーの歴史を切り開いた。しかし、シュエマン下院議長は改革に賛成しても、その改革を牽引するまでに至っていない。彼の置かれた重要なポジションを考えると、テインセイン大統領に次ぐミャンマーの中興の祖となれるかどうかが、彼に求められる運命である。テインセイン大統領はミャンマーの歴史を変えた。だが、シュエマン下院議長が歴史を変えられるかどうかは未知数だ。改革派と称しているが、すべてに慎重に対応し、率先して改革の実績がないからだ。



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08:闇将軍への誓い

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だが、2013年10月19日の火祭り事件以降、これまでの保守派といわれるグループの動きが顕在化し始めた。これまでのテインセイン大統領のサプライジングな改革、およびそのスピードに不快感を抱いていた保守派が勢いづいたのだ。闇将軍からお墨付きを貰ったようなものだ。そして闇将軍への忠誠を競い合って表明する。



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09:改革派か、保守派か?

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テインセイン大統領の改革派とこの保守派の鬩ぎ合いが、今後しばらくは続くものと想像される。そしてサプライジングの改革スピードが減速するものと思われる。

この保守派の台頭は立法権をもつ議会内で最も顕著となるだろう。すると、法律の整備がスピードダウンし、諸改革が後退したように映るかもしれない。

改革派と保守派の鬩ぎ合いはどういう結果になるかはまったく読めない。



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10:世代交代もオプションのひとつ

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しかし、2015年の大統領選挙をということを考えれば、テインセイン大統領は1945年生まれの68歳。国防大学第9期生卒業である。シュエマンUSDP党首は1947年生まれの66歳。国防大学第11期卒業。年齢にしてわずか2年の差しかない。

闇将軍にすれば、2年後の大統領選にはもう少し若い世代と考えても不思議ではない。しかも、闇将軍に対して絶対の服従・忠誠を誓うのであれば、世代交代を考慮するオプションもあるだろう。その切り札がミンアウンライン上級将軍ではないのか、というのがNLM紙から読み取れる文脈である。

国防大学第19期生、1956年生まれの57歳。しかも、闇将軍に対する忠誠度は筋金入りである。しかも、闇将軍がテインセイン大統領をピックアップしたときの性格にそっくりで、目立たず、オレがオレがという性格とは対極に位置するものがある。

これから2年間、じっくりとこの最高司令官の事務処理能力と性格を観察して、その直前に最後のピックアップを闇将軍は判断すればよい。テインセイン大統領を選別したときと同じように。多分そう考えているのではないだろうか。



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11:闇将軍の目の黒いうち

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闇将軍にとっての唯一の気がかりは自身の健康である。

健康に自信が持てる限り、自分の目の黒いうちは、闇将軍としてこの国を牛耳ることができる。今、ミャンマーはその方向で動いているように見える。



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12;もう一つのオプション

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テインセイン大統領の手腕で闇将軍が望んでいた欧米の経済制裁は解除された。経済制裁の解除と民主化の行き過ぎは、ブレーキとアクセルのバランスのようなものだ。民主化の進展に不満を表明したとはいえ、闇将軍はテインセインの国際感覚を身につけた実力は評価しているだろう。

そこで、対中国、対欧米、対日本を含めた関係改善に減速状態が発生すれば、テインセイン大統領の続投も除外されるオプションではない。

すべては闇将軍の健康と引き換えだが、闇将軍はそのオプションを表明しないまま、しばらくは様子見をするのではないだろうか。

それが、この国の意向ではないのかというのが、東西南北研究所の見方である。





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