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<ミャンマーで今、何が?> Vol.80
2014.02.05

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar


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■ナーギス台風ニモマケズ その3

・01:現地調査は基本の基本だ

・02:プロの仕事ぶり

・03:日本のKenjiから、ミャンマーのAhhmyaまで

・04:無償の愛

・05:シェルター・ハウス

・06:無用の長物

・07:‘ヘルプ・ミー!事件’

・08:次回予告

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時計を10年ほど昔に戻そう。それは2004年12月26日、クリスマス翌日の朝であった。インド洋に突き出たスマトラ島最北端のバンダーアチェで大地震が起きた。ジェット機のスピードでツナミは海上を増幅しスリランカ・インド両国の沿岸で大量の人命を飲み込み、あっという間にアフリカ東海岸まで大ツナミは達した。ツナミの威力恐るべしである。震源地の真北に当たるイラワジのデルタ地帯にも大ツナミは襲い掛かり相当数の死者が出た。
そのときだったか、ナーギス台風のときだったか、記憶は定かでない。時のタンシュエ上級将軍がイラワジデルタを襲った高波は10mの高さだったとの報道に対し、それなら20mの高さのコンクリート道路を作ればよいと豪語した。



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01:現地調査は基本の基本だ

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理屈はおっしゃるとおりだ。海外の大半のNGOも同様の間違いを犯している。現場を調査せずに机上の空論だけでコトを進めているからである。文化人類学でもフィールドワーク(現地調査)は基本の基本だ。世界的な名著「菊と刀」を書いた文化人類学者ルース・ベネディクト女史の唯一の欠点は日本の領土を踏まずにこの書を世に出したことにあるとされている。戦時下だけに、現地調査ができなかった。同様に、ドイツ文学者・竹山道雄も「ビルマの竪琴」をビルマを訪れずに書いた。これは物語だから許されてもと思うが、事情通は竪琴などの歌舞音曲に戯れる僧侶はビルマにはいないと難癖をつける。



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02:プロの仕事ぶり

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何が言いたいかというと、このミャンマー人の連隊長、そしてこの地域活動の総指揮を執る日本人代表は地元の事情に精通しているということである。今日の大半の人が敬遠する地道なフィールドワークを毎日、毎月、毎年と10年以上に亘って、そして今でも、ひたすらに続けているのである。彼らの仕事ぶりは宮大工の棟梁にも似たプロの切れ味がある。
宮沢賢治は「・・・そういうヒトになりたい」と詩を結んでいるが、このリーダーたちはひたすらにその心境になりきっている。しかも失敗を恐れない勇気を持ち、地元の人たちの内部から出てくるアイデアを尊重し、地元農夫たちの納得を得て実行する。失敗があれば、それを克服する努力に没頭する。成功例は、そのモデルを近隣の農家たちとシェアする。そしてそのスキルが彼らの血肉となるまで気の遠くなるようなリピートを繰り返す。
派手さなど何一つない。ひたすらに地道な努力だ。だが、それが過去に前例のないナーギスという巨大暴風雨に打ち勝ったのである。それは自然を科学の力で克服しようとする西洋のコンセプトとは対極をなすもので、「愚公山を移す」にも似た、東洋に生まれた、東洋独自のコンセプトである。



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03:日本のKenjiから、ミャンマーのAhhmyaまで

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西洋人の眼には、そして現代の日本人にも、愚かで無駄な効率の悪い行為と映るかもしれない。だが、OPK村で活動を続けるミャンマーと日本のリーダーたちが、雨ではない失敗ニモマケズ、地元の人たちと同じ目線で考えに考え、試行錯誤を繰り返して、到達したコンセプトが宮沢賢治のアメニモマケズで、ミャンマーで唱える念仏のありきたりの文句“Ahhmya(アーミャ)”にあることを発見したのだろう。驚くべき悟りである。

下手な翻訳だが許していただきたい。Ahhmya from Myanmarに挑戦してみたい。

「動物のみならず、すべての生きとし生けるものたちよ! 声が聞こえる範囲で、私の至福を分かち合おう=Ahhmya。そうだ、幸せは分かち合わねばならない=Thadu. 」この“Ahhmya(アーミャ)”とThadu(タードゥ)は三度繰り返して唱えられる。

たったこれだけの短い念仏だ。

釈迦が苦行の末に到達した、いかなる恐怖からも解放された悟りの境地、すなわち至福を、この世のありとあらゆる生物たちに、いとも簡単に分かち合おうというのだ。

欧米のコンセプトなら、この“至福” というものを特許登録し、分かち合うたびに著作権料を貪欲に懐に入れたことだろう。

今ミャンマーに金儲けのチャンス到来と群がる人たちも、大量の雇用を創設とかキレイごとを言っているが、所詮は低賃金の労働力を活用するだけで、莫大な利益は国外に持ち出そうとしている。

同様のことは、国連機関、国際的なNGO団体、人権団体、各国政府の出先機関も行っている。自分たちは冷房の効いた高級ホテルの事務所で、あるいは貴族の館のような豪邸に事務所を構え、現地の人たちとの接触は低賃金のローカルの人間に任せ、自分たちは本部から大物が来緬したときだけランドクルーザーを連ねて現地入りする。

繰り返すが、この連中がナーギス台風のときに世界中から集めた善意の義捐金を、迂闊にも当時のFECと米ドル為替のトリックに騙されて四分の一も目減りさせているのである。

収支報告書の説明も十分に出来ず、うやむやにしてしまった。これは軍事政権と責める前に、ヤンゴン駐在員の犯罪といっても良いものだ。しかも、各国ともにヤンゴン駐在の大使館という強力なアドバイザーを持ちながらにしてである。それだけにこのマングローブの植林活動に従事している連隊長と日本人グループの陰徳活動は実にすがすがしい。

怒りがとんでもない方向に行ってしまった。



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04:無償の愛

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宮沢賢治の世界に戻ろう。感激的なのは至福ともいえるこの無償の善行を近隣の農家にひたすらに分け与えているのである。その至福を山分けするのではない。決して自分を勘定に入れないのだ。まさにKenjiワールドである。野外学習の子供たちの、自分はいいからと遠来の日本の客人にキャンディを差し出すあの自然な行為。古いオジサンだと‘ボロは着てても〜心は〜錦’という歌詞が出てくる。誰の母親でも同じだろう。何日も口にしていなくても、おかあちゃんは腹いっぱいだからと、やっと手に入ったわずかな食料を子供たちに食べさせる、あの無償の愛。昔は日本のあちこちにあったあの無償の愛。それをこの人たちは10年間、そして今もひたすらに地道に続けているのだ。



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05:シェルター・ハウス

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いろんな経験をした。いやさせて頂いた。網の目のようなこの地域をボートで巡って、広大なデルタ地帯のなかに、コンクリートで作られた自然の風景にそぐわない立派な避難所がボツンと散在して立てられている。周りを何度も見渡すが近くには農夫の姿はほとんど見かけない。人影がまったく見えないのだ。これらは海外のNGO団体、または友好国が競うように建築したシェルター・ハウスというものだ。その避難所にはしっかりとその団体の名前を誇らしく記したプレートが間違いなく貼り付けてある。

徳を隠す、善行をひっそりと行う。本当に品格のある東洋人は密かにソレを行ったものだ。今の国連機関やNGOの超エリートに必要なのは一流大学のMBA資格ではなく、陰徳を積み、惻隠の情を養うことではないだろうか。それを教えてくれるのがこの村の子供たちの瞳である。

ツナミが海面を渡るスピードはジェット機と同じといわれている。そのツナミがこの農村一帯を襲うとき、村人はどうやってこの立派な避難所に辿り着けるのだろう。デルタ地帯はボートを使用せねばほんの数百メートル移動するにも難儀する。実際は程遠い話だが、仮に日本やハワイのようにツナミ警戒注意報が即座に村人に伝わるシステムがあったとして、ボートで避難所に駆けつけられるかどうかの実態調査をNGO団体はしたのだろうか。

ツナミが来襲したときにボートで避難する危険をNGO団体は考えたのだろうか。ツナミの前兆は潮が一気に遥か沖合いまで引いてしまうことにある。そして待ったなしの状態で、今までに見たことのない巨大な大波が海水の壁となって襲ってくるのはCNNニュースで何度も見たはずである。

NGOが寄贈した立派なコンクリート施設は賢明な野ネズミたちの避難所としては見事に機能するかもしれない。仮に避難所の見える範囲内で農作業をするお百姓さんがいてもその足下は泥土である。子供たちと同じように早足で歩いても、緊急時に避難所まで辿り着けるのは何人いるだろうかと疑問が沸き、終いにはなんと言う無駄金を費やしたのかと怒りに変わる。それを国連機関をはじめとして世界の超エリートたちが莫大な予算を獲得して営々と続けているのだ。



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06:無用の長物

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怒りついでに、八つ当たりさせていただく。
諸外国の政府やNGO団体はコンクリート建築の学校も寄贈している。そしてマニュアルで決まっているかのようにコンクリートのトイレが別棟で建てられている。中に入ると真っ暗だ。臭いもこもることだろう。国連機関のお偉方はここでパンツを下ろしたことがあるのだろうか? 日本の座頭市なら難なく用を済ませるかもしれない。だが、ここは電気が通じていない村だ。

そして、当地で唯一の産業がニッパ椰子である。あの屋根を葺き、掘っ立て小屋の壁として立派に機能しているニッパ椰子である。網の目のように張り巡らされた水路に面してところどころに配置されているのが、地元のニッパ椰子トイレである。外の明かりが編んだ椰子の葉陰から幾らでも採光できる。満月の夜もOKだ。しかも、川っ風がスースーと抜けていき、臭いもこもらず、室内気温も涼しい優れモノだ。それだけではない。これこそ水洗トイレの元祖である。あまりも快適で‘利根の川原に川風受けて’と鼻歌まで出てくるほどだ。国連やNGO団体のお偉方に是非ともご注進したい。大金を投入する前に、せめてパンツぐらい下ろしなさいと。



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07:‘ヘルプ・ミー!事件’

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今回、OPK村のベースキャンプにはプロ中のプロが集合した。それぞれがプロとしての一家言を持っている。話し始めたら止まらない。そしてここは電気のないOPK村だ。だが、自分たちで設置した発電機はある。燃料費がもったいないので、朝晩の食事時間と夜の座学のみに作動することにしている。困ったことに朝3時ごろに眼覚める世代のメンバーが大半だ。真っ暗な中で頭だけが冴える。3-4部屋ほどの壁越しに一家言居士たちが会話を始める。夏目漱石ではないが、隣でひった屁の数を勘定することも出来る。

このベースキャンプに到着したばかりの真夜中、突然‘ヘルプ・ミー!’と切羽詰ったような声がした。皆熟睡している丑三つ時である。懐中電灯の明かりが各部屋で次々に点灯される。その明かりが突き抜けの天井に反射する。そこで‘助かった’と安堵の声が聞こえた。この頻尿オヤジは懐中電灯を枕元に用意しておらず、蚊帳から抜け出すと真っ暗闇の中でベッドの角と部屋の隅に追い込まれて出られなくなったと分けの分からない釈明をしている。その後の取調べで、外国の密室に閉じ込められて、尿意も我慢の限界にきていたと供述している。半分、寝ぼけていたのだろう。これは仲間内で‘ヘルプ・ミー!事件’として酒の肴のアペリティフとなっていった。



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08:次回予告

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本来は、こんなつまらない話ではなく、OPK村から世界制覇を狙うコンニャク・プロジェクトをお伝えするつもりだったが、話が脱線してしまった。次の機会にまじめにお伝えしたい。


参考文献:
その一:「TEN YEARS IN PYINDAYE」RESTORATION OF MANGROVE ECOSYSTEMS AND COMMUNITY DEVELOPMENT, Ayeyarwady Delta, Myanmar (1999-2008) FREDA/ACTMANG編集
その二:「緑の冒険」-砂漠にマングローブを育てる- 向後元彦著 岩波新書





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