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<ミャンマーで今、何が?> Vol.63
2013.9.25
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■ロヒンジャーをもう一度考えてみよう
・01:ロヒンジャー問題を覚えていますか?
・02:海外の反響、特にイスラム諸国からの
・03:テインセイン大統領の明確な分析
・04:歴史から学んだミャンマー政府
・05:インド帝国を、ビルマ王朝を、殺した犯人は
・06:ミャンマーの民主化
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■ロヒンジャーをもう一度考えてみよう
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スーチーNLD党首は9月12日訪問中のポーランドの首都ワルシャワで、外国人としてはダライ・ラマに次ぐ二人目の名誉市民称号を授与された。
ポーランドで反共・反政府労働組合「連帯」の初代委員長として1983年ノーベル平和賞を受賞、第2次世界大戦後初の自由選挙で「連帯」を勝利に導き、1990年民主化されたポーランドの初代大統領に選ばれたワレサ氏(69歳)とスーチー党首(68歳)は同日昼食を共にした。
同年代にそれぞれ自国の反政府運動の闘士として、共にノーベル平和賞の栄誉に輝き、 ワレサ氏は民主化実現後の母国の初代大統領に選ばれ、スーチー議員はこれからそれに挑戦する。共産主義あるいは軍事政権の抑圧下で境遇がオーバーラップする二人だが、今回はそれはさておき、スーチー党首が現地で欧米のレポーターから再度突き上げを食った宗教戦争(ロヒンジャー問題)について掘り下げてみたい。
ワレサ元大統領との昼食の後、スーチー党首には執拗な質問が遠慮なくレポーターから飛んできた。海外では英語の達者なスーチー党首には逃げ場が無い。
そこでスーチー党首は「ミャンマーを揺るがした反ムスレム暴動に関しては自分ひとりでは何一つできない、唯一の解決策はきちんとした法律の制定で、その根本である憲法を改正することが重要である」と発言した。これは、あなたの影響力を駆使して個人的にでもこの宗教暴動を食い止めることはできないのかと言う無茶なレポーターからの質問に答えたものである。
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01:ロヒンジャー問題を覚えていますか?
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昨年ミャンマー西部のラカイン州で発生した宗教暴動で約200名の人々が殺され、その大半は市民権の取得を拒否されたロヒンジャーであった。そしてその殺戮者たちは反ムスレム(イスラム教徒)の狂信的仏教徒とされている。ミャンマーの90%は仏教徒で、イスラム国のバングラデシュと国境を分かつラカイン州ではバングラデシュからの非合法な侵入者であるロヒンジャーは虐待されていると欧米のマスコミは繰り返しレポートしている。
そして、何世代にもわたってラカイン州に定着したこれらのロヒンジャーをミャンマー政府は自国市民として認定せよとの無責任な論調も多い。欧米のマスコミの大半はクリスチャンで、仏教徒とイスラム教徒の問題に関しては部外者という気楽さがあるのだろう。
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02:海外の反響、特にイスラム諸国からの
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これらの報道に刺激されたイスラム諸国からは、トルコの外務大臣夫妻がミャンマー政府の了解を得て現地入りを果たし、帰国後同様の見解を流布した。イスラム教の宗主国とみなされるサウジ・アラビアや、パキスタン、インドネシア、マレーシアなどの近隣イスラム教国の宗教団体などからは暴動が発生したラカイン州のムスレム同胞に対して多額の義捐金が続々と送られてきた。あるはヤンゴン駐在の大使が持参したケースもある。
反軍事政権の活動家として、ミャンマーの次期大統領戦に挑戦する野党第一党の党首として、スーチー党首の意見が聞きたいと海外のメディアが彼女に群がった。だが、上座部仏教国に育ち、仏教界の指導者には多数の知己がおり、英国人と結婚しても仏教を捨てずに改宗しなかったスーチーである。自国内での仏教とイスラム教の宗教戦争となると、政治家になりたてのスーチーにとって、問題はそう簡単ではない。軽々に白黒付けられる問題ではない。この問題に対する回答はまだ熟していないのであろう。結果的にこの問題に関する質問には逃避する態度をとってきた。
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03:テインセイン大統領の明確な分析
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一方のテインセイン大統領ははるかにスマートで、しかも大統領府には碩学のブレーンがずらりと並んでいる。多分、その英知を結集したのであろう。大統領の声明文は実に明確で巧妙でもある。
ロヒンジャーはミャンマー固有の少数民族ではない。非合法に隣国から侵入したのであればバングラデシュに送り返すのがミャンマー政府として最善の方策である。
もうひとつの解決方法としては、国連(国連難民高等弁務官事務所)が責任を持ってミャンマー国外にロヒンジャーの受入れ先を設置し、ミャンマー政府はその避難民キャンプへの移送に協力するという方法である。
ミャンマー政府としては、この問題を解決するために、暴動の発生したラカイン州調査委員会を国会内に設置し、その委員長にスーチー議員を指名した。国内外で人気者のスーチー議員に問題解決の権限を委託し、その腕前を計測しようとする腹である。テインセイン大統領のしたたかさが見え隠れするアイデアである。
以上三点がポイントを押さえた大統領声明である。
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04:歴史から学んだミャンマー政府
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すなわち、ロヒンジャーは136の民族から構成されるミャンマー固有の民族ではないということ。それは顔つき、人種、言語、宗教、文化風習からも歴然としている。
源をたどれば旧宗主国である英国がビルマの労働力を補うために隣国から送り込んだベンガル族の子孫で、両国家独立後も人口過剰で仕事も無い世界最貧国のバングラデシュでサバイバルできない人たちが国境を越えてラカイン州に非合法に定住した難民である。
であるからロヒンジャーはミャンマー国籍を認められておらず、ミャンマー政府は見つけ次第これらの難民をバングラデシュに送り返す政策を採ってきた。だが、バングラデシュ政府は人口密度過剰の我が国はロヒンジャーを受け入れる余裕はないと宣言し、その受入れを拒否するようになった。無責任極まりない、開き直りのポリシーである。そこでイスラム教の宗主国であるサウジアラビアが国家建設に必要な安い労働力としてロヒンジャーを受入れる妙案を発表した。だが、国籍の無いロヒンジャーを引き受けることはできない。そこで、ロヒンジャーに国籍を持たせる手段としてパスポートを発給するようバングラデシュ政府に対して申し入れた。これはしばらく有効に機能したが、前政府の役人がパスポートの発給に絡み申請者に賄賂を要求するようになり、これがバングラデシュ国内の政党間で大問題となり、サウジアラビア向け人材派遣業務はストップしてしまった。貧にして窮した国の実にお粗末な話である。こういう経緯もあり、ロヒンジャーは、いまだもって国籍無き民族である。なぜロヒンジャーと呼ばれるかの定義はないが、民族的にはベンガル人で、宗教的にはイスラム教徒である。
そこでバングラデシュとミャンマーの現状はというと、ラカイン州における仏教徒によるロヒンジャー迫害(殺戮、放火など)によって、ラカイン州からバングラデシュへの大脱走が大量に発生しており、バングラデシュの外務大臣は「ミャンマーからの違法なロヒンジャー侵入を阻止するためにミャンマーとの国境線に沿って有刺鉄線を巡らす」と発表した。
バングラにしてもミャンマーにしてもあまり興味のない人たちにとっては、国境問題なんてそんなものかと見過ごしてしまう記事で、外務大臣の発表だが、オイオイちょっと待ってくれよ、ロヒンジャーの出所はもともとオマエの国なんだぞと注意したくなる。
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05:インド帝国を、ビルマ王朝を、殺した犯人は
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理屈っぽくなるが、もう少し詳しく説明しよう。
大英帝国は上部ビルマを武力で鎮圧し、すでに大英帝国の植民地となっていたインドにビルマ全土を1886年に編入した。
そしてビルマのマンダレー王朝は廃絶され、その王族は大英帝国が支配下に置いていたインドのデリーに移送され、ビルマ最後の王家の悲劇はこの地に眠っている。そしてラスト・キングの血を引く子女は異国のインドで乞食同然の末路をたどる。新政府発足後インドを訪問したテインセイン大統領は異国に眠るこの王家の墓に花輪をささげた。だが、これは別の機会に物語ろう。
時代はもう少しさかのぼる。1857-59年にセポイの乱と呼称される大反乱が圧政者イギリス人を相手にインドで発生した。読者の皆さんもこれは歴史で学習されたはずだ。これによって、ムガル帝国最後のエンペラーも廃絶され、ビルマのラングーンに移送され、そのロイヤルファミリーはシュエダゴン・パゴダ近くの霊廟に静かに眠っている。ここはビルマ・ミャンマー在住のインド人の魂の拠り所で、インドの元首・首相・高官、パキスタン・バングラデシュの元首・首相・高官が訪緬のたびにひっそりと訪れ黙祷をささげている。一般の日本人はインドはヒンドゥー教徒の国と教えられてきたが、ガンジーが苦悩したとおり、もともとはヒンドゥー教徒とイスラム教徒が混在する国であった。それが、混乱を経てパキスタンとバングラデシュに分裂したのが、南アジアの悲劇の始まりでもあった。あの壮麗なタージ・マハルを生んだのはムガル帝国で、これはインド人の誇りでもある。そしてそれはヒンドゥー教徒・イスラム教徒にかかわらず魂の拠り所でもある。その王朝の最後の王家が大英帝国によって廃絶され、異国のヤンゴンに静かに眠っているのである。これも別の機会に物語ろう。
繰り返すと、大英帝国はインドとビルマという二つの国の歴史を崩壊させ、二つの国の運命を狂わせた張本人である。
今欧米のマスコミが、もっとはっきり言うと、英国のマスコミが、あるいは人権団体が「ヒューマンライト=人権」などと声高にミャンマーの軍事政権を非難するが、英国のインド・ビルマに対する歴史は「人道」に反する悪道の積み重ねで、アンチ人権の典型的な見本でもある。大英帝国が蹂躙した後には、混乱と貧困しか残っていない。
機会があれば、そのあたりもこのメルマガで物語っていきたい。
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06:ミャンマーの民主化
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ヒラリー・クリントンが孤立化したミャンマーの壁をブレークスルーしたとき、彼女はすべての問題点をテインセイン大統領に語ったと明言した。当然ロヒンジャーの問題も話し合われた。その後に訪れた、英国をはじめとする欧州の首脳も、ロヒンジャーの問題を早期に解決するようにテインセイン大統領に迫った。そして自国で数多くの問題を抱えたオバマ大統領までもがテインセイン大統領との会談でロヒンジャー問題を取り上げている。
これはミャンマーの仏教徒とイスラム教徒が話し合って解決できる問題ではない、根は深いのである。問題は歴史の中に病根が巣くった問題なのである。それを止せばよいのに、極東の国(日本のこと)までが、余計な口出しをしてロヒンジャー問題は民主化の妨げになると欧米の口真似でお節介を焼く。
論点を摺り替えるイギリスのやり方は汚いのではないか、あるいは姑息でしかも稚拙な手法ではないのか?
イギリスの諜報活動家で大文豪となったサマーセット・モームが同胞のイギリス人について語っている。
「英国人は、重要な問題を百ほども抱えている人たちに、その問題には何一つ触れずに、無関係な事柄の利点を並べ立てて、問題を摺り替える。そして、望まぬ人たちに望まぬ利益を与えて、最終的に自分自身を正当化する」
スーチーさん、問題を避けるだけでは解決しません。サマーセット・モームの言葉に難問を解決するヒントが隠されているような気がするのですが、いかがでしょうか?
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