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<ミャンマーで今、何が?> Vol.389
2020.11.04
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━

■忘れ去られたビルマの王家 その2

 ・01: 2020年11月01日(日)午後8時発表

 ・02: もうひとりの女主人公デビ・タンシン!

 ・03: デビ・タンシンのもうひとつの顔

 ・04: Pardawmuとは?

 ・05: 姉妹の溝が深まる、DTCとUSW!

 ・06: 余談ですが!

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)

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・01:2020年11月01日(日)午後8時発表

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陽性感染者数合計:53,405名
新感染者数合計:699名
死者数合計:1,258名
退院者数合計:34,189名
現在検査中:17,958名
出典:保健スポーツ省



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・02:もうひとりの女主人公デビ・タンシン!

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このドラマは回想シーンが入り組み、物語が錯綜する。ドラマがあちこちと前後し、複雑だ。
前回はThibow王のひ孫であるU Sow Winを主人公としてドラマを進めてきた。ここにもうひとりの女主人公Devi Thant Cin(*デビ・タンシン)が登場する。非常に重要な役だ。

Deviとはヒンズー教の女神で、特にSiva神の配偶者を指す。高貴な女性のみに許された称号である。ビルマもインドの影響を受け、私の知人でシャン州のサオボア(*藩王=マハラジャに相当)のプリンセスがこの称号をもつ。驚いたことにこの知人も親族集合の場面に参加していた。

バラエティ番組でお馴染みのハイソ夫人も、“Devi何とか”と名乗らないと個人を特定できない。それをひと括りにデビ夫人としてしまうのが、TV業界のいい加減なところである。インドネシアも国名が示すとおり、ヒンズー文化の影響を受けている。東南アジア一帯は多様なインド文化の影響圏でもある。

U Soe WinはDevi Thant Cinの甥に当たるが、ビデオではお互いに弟、姉と呼び合っている。日本では民主平等と自由が尊ばれるが、ミャンマーでは年長者を敬う仕来りが厳しく残っている。だからDTCはUSWをブラザーと呼び捨てにするが、USWはDTCをエルダー・シスターと敬意をもって遇する。

余談だが、アウンサン将軍の命日に、スーチーは高僧のサンガ集団と国防軍最高司令官を初めて自宅に招待した。高僧が二人は姉と弟のようなものだ。これからは仲良く、と説教したことがある。

気の強いスーチーはそれを受けて「アナタは私より10歳も齢下ヨ、ミャンマーの仕来りに従い、姉の言うことは良く聴くのですヨ!」と釘を刺した。地元マスコミ注視の中で、誰からも恐れられる最高司令官はただ苦笑せざるをえなかったとエピソードは伝える。

このDTCとUSWの意見は、両極端に対立している。姉弟二人の会話は、ミャンマー人一般の究極の人生観を代表しているかもしれない。外国人には理解しがたい老獪な哲学である。Stay-At-Homeだからこそ、二人の会話は反芻しながら考えてみたい。



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・03:デビ・タンシンのもうひとつの顔

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DTCが外国人の一行を案内して国内の上ビルマを訪れる。インレー湖や水田耕作地すべてが彼女の曽祖父が所有し、支配していた領土である。だがそんな様子は微塵も見せない。彼女はいま専門職のEnvironmentalist(*環境問題研究家で保護論者)である。ビラを配布しながら環境問題について皆に説明する。

最後の王家末裔のプリンセスDTCも、マンダレー居住を許されなかった。だがマンダレーまで飛行機で来るのは許される時代となった。自宅はあくまでもヤンゴンである。ごくごく普段着の家に住んでいる。王族のプリンセスとはご近所からも一顧だにされない。
だが室内にはロイヤル・ファミリー所縁の額縁写真があちこちに飾ってある。

そして月に一回、シュエダゴンパゴダ南門近くの不思議な一画を一人で訪ねる。ときには親族の男女の若者を連れて詣で、曾祖母スパヤラット王妃の墓を清掃したり、花を飾り、その墳墓に手を合わせる。この回想シーンも何度も出てくる。その都度DTCのひとり言を確認する。

友人に教えてもらったキーボードの“K”一文字。停止そして再スタート。それに巻き戻しを繰り返す。もう一度巻き戻す。まるでシシュフォスの岩である。時間を無駄にしてきた天罰は受けねばならない。だがシシュフォスの苦役も現代兵器のお陰で手抜きが出来る。

“K”のお陰で仕事が捗る。繰り返す頻度が増える。スピードが速くなる。リスニング能力に変化が現れる。現代の武器は学生たちに効果がありそうだ。コピー&ペーストしか知らなかったが、その他のショートカット・キーも教えてもらった。OKブーマーにはオサラバだ。ガラパゴスから脱出できる。自信がついてきた。COVID-19も悪くない。シナジー効果大である。

話を王女デビ・タンシンに戻そう。
DTCとUSWのひとり語りを聴くうち、アッと膝を打った。これはひとり語りではない。二人を映すビデオの後にカメラマンのイギリス人がいる。DTCとUSWの二人ともそのイギリス人に向かって喋っている。

二人の表情をもう一度見直す。
二人は確かに老獪だ。USWもDTCもビデオの視聴者に向かって演技をし、語っている。ハッと気がついた。

二人の老獪さは並大抵ではない、筋金入りである。確かに王家の血筋が流れている。常人が味わえない艱難辛苦に耐え、民主化が芽生えた時代にまで生き延びた。だがそこには世襲終身制の君主国家と民主国家という相容れないものが対峙する時代でもある。

それだけにデビ・タンシンの深謀遠慮は弟のU Soe Winよりもはるかに奥深く潜行する。




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・04:Pardawmuとは?

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「私たちは王族です。この体内を流れる王族の血は人々のため、国のために役立てねばならない。その義務がある。Princess(*王女)として自由に語らせてもらえば、私は一介の環境保護論者です。いつかはグリーン・プリンセスと呼ばれるかもしれない」。
ひとり言は続く・・・

「ひとりひとりはHuman beings(*人間)です。人はHome(*家)を守らねばなりません。私たちの家とはEarth Planet(*地球)のことです。環境を守るとは吸殻を拾ったり、森を守るだけではありません。これは私たちの国と人々にとって非常に重要な問題です。これこそ全世界にとって最も大切な問題です」。

「若い人は歴史を知らない。ラストキングを知らない」、と寂しそうに笑う。
「隣国タイではKing(*当時は先代の王)は愛されている。英国、日本などの君主国でも王は敬愛されている。これが歴史で、われわれは歴史とともに生まれた。それが正しかろうと悪かろうと、現実を受け入れなければ・・」と、デビ・タンシンは現実の世界を見回して、ニコリと笑う。70歳のUSWよりいくつか年上だが、頭はシッカリし、知的なひとり言がほとばしる。

2015年11月8日国民投票。今年ではない、念のため。スーチーが雪崩現象を起こして大勝利した総選挙日である。町内の投票所に早朝から長い長い列がどこまでも続く。USWが晴れやかな顔で行列と軽口を交わし、ビデオに語る。

「いつもは怠惰に、やることもなしに遅くまで寝ている連中だ。今日は特別に早く起きて、投票開始前から、こんなに長い列をつくって並んでいる」と、ミャンマーが変わるのを期待するかのようにほがらかに解説してくれる。そして投票を済ませた証拠に紫色の消えないインクがついた小指が大写しとなる。

このビデオを真剣に巻き戻して何回も観察するとビックリさせられることが大小溢れている。2015年の総選挙もU Soe Winのひとり言でビデオは廻っている。

そしてSUDHA SHAH女史の原作『The King in Exile - The Fall of the Royal Familyof Burma』(*仮題:「追放された王 - 落魄したビルマの王家」)は初版が2012年に出版された。7年間かけて調査を行い、数多くの関係者にアポを取り付け、インタビューを重ね膨大な資料をそろえた。そしてこの秘話にはフィクションが入り込む余地がないと確信し、一気に書き上げたという。

実父ミンドン王は聡明で、王家を潰したその息子ティボウ王は最低であったとヤンゴンのウワサでは耳にしていた。だが、スダー・シャー女史のこの名著でそれは事実でないと学ばせてもらった。

さらにミンドン王には69名の王妃が正式な妻として記録されていることも女史の緻密な調査で明らかにされている。このような裏付けのある事実曝露こそミャンマーの“オクトーバー・サプライズ”であった。

今度はUSWが語る。「2016年11月、マンダレーのGolden Palace(*お濠に囲まれたマンダレーの旧王宮)内でティボウ王の特別の供養を行う儀式が、初めて政府より許可された。最初は英国政府から拒否され、独立後は軍事政権から拒否され続けてきた」。多くの地元TVのマイクに囲まれUSWの顔が紅潮する。MRTV、mntv、SKYNETなどのマイクである。

「1885年、われわれはすべてを失った。好戦的な英国は武力で奪った。明日は第131回目のPardawmu Dayである。王の追放を胸に刻むこのような儀式は一度も行われなかった。
これこそ忍んで待った初めての儀式である」。地元TVに安心したのか、イギリス非難に力が入る。だがこの場面もイギリスのビデオカメラがシッカリと捉えている。

「Pardawmuとは国家とすべてを失うという意味だ。その失った威厳を取り戻したい」。
USWが僧侶の長老に英語で語りかける。「以前だったら、Pardawmuの許可を願い出るなど想像もできなかった」。長老が笑っている。

「父の望みは長い長い秘められた野望だった。これは歴史的なマイルストーンです」。
USWの娘SANDIと息子MINOOがビデオにきれいな英語で答える。ここでも気付かされた。
王族のほとんど全員がビデオの質問に英語で答えている。貧しいとはいいながら、正式な英語教育を受けてきたことが判る。さすがに王族だ。和訳すると「腐っても鯛」である。

まったく同じ日、同じ時間にヤンゴンでもDTC(*デビ・タンシン)が地元の報道陣に囲まれていた。その様子もビデオに撮られている。場所は明示されていないが、シュエダゴンパゴダの境内のホールと思われる。

Q&Aで、どうしてこの儀式を挙行するのか?「今年は例年とはまったく違う。密かに行ってきたが、軍事政権は密偵を送り込み観察していた。情報を集めるためです。母が云いました。それだったら、密偵のみなさんを正式にお呼びしたら・・」と、深刻な状況でも冗談を言えるか否かが教養の差だと教えてくれる。

「邪魔が入ったにもかかわらず、Pardawmuは密かに挙行してきました。1962年クーデタで権力を握ったとき、すべての儀式は禁止されました。どうしてPardawmuを消そうとしたのでしょう?」DTCのマスコミに対する説明にも力が入る。

「わたしたちは国家の日と独立記念日を祝います。これら原点はPardawmu Dayから来ているのですヨ。Pardawmuを消してはいけません」、DTCはTV局の若きレポーターに諭す教師のようだ。だがDTCの寸鉄はマスコミにとどまらない。

親族がびっしりと床に座っている。その前方に椅子に座った僧侶が並んでいる。DTCが王族を代表して挨拶する。最後列には報道陣がずらりとビデオやカメラをセットしている。ミャンマーではお馴染みの光景だ。

DTCはマイクを握り僧侶たちの端に立ち全員に語りかける。静かだが一語一語が力強い。

「今日のイベントは、ビルマが属国化されて131回目の記念日です。マンダレーではもうひとつの式典が挙行されてます。メディアから質問攻めに合いました。どうして加わらないのか?一緒に執り行わないのかと。マスコミの関心はこのことでした。」

「私はひとりの環境保護論者です。私は地球全体のために働き、全人類のために働いています。王家のことは、わたしたち僅かな人間の関心事です。私自身、この儀式を続ける時間は残されていません。一族の方にはご理解を頂きたいと願ってます。本日立ち会われた全員の前で、ご列席の高僧のご臨席を仰ぎ、正式にこれら儀式の責任を引き継ぎさせていただきます」と引退を宣言した。

ミャンマーの歴史を学ぶと、ビルマの王族とサンガ(*僧伽:サンスクリット語Samghaの音写)という出家者集団はもちつもたれつの特別な関係だと教わった。
この国は、僧侶の平和行進を銃で虐殺したことで、その関係は崩れた。

サンガは仏教王である国王が、仏教発展のために努力を怠らず、財政的支援をしているかをチェックし、国王としての正当性を付与する役割があった。国王は出家者たちが戒律を守り、腐敗することなく修行に専念しているかを観察した。両者は対等な立場にある。

イギリス同様に無慈悲な軍事政権の時代から今、民主主義という曙光が射してきた。虐げられてきた王族の代表を務めるDTCが、今、サンガの一団にすべての責任を引き継ごうとしている。
僧侶の一人は頭を下げ、僧侶のひとりは目をカット開き、黙想している僧侶もいる。



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・05:姉妹の溝が深まる、DTCとUSW!

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2016年という年は、4月1日にスーチーが政権を引き継いだばかりである。その新政権から特別許可が下りた。USWは憑かれたように、ラトナギリに眠る無念のティボウ王、そして王妃およびプリンセスたちの遺骸を祖国にもち帰るべく多方面に働きかけ奔走する。


その前段階として、2016年11月マンダレー旧王宮内僧院に王家ゆかりの親族がしめやかに着飾って続々と集まった。同日・同時刻デビ・タンシンはひっそりとヤンゴン某所でPardawmuの儀式を密かに行った。密かとはいっても、共に地元マスコミおよびイギリスのビデオが取材する時代になった。

ふたりは姉・弟呼び合う仲である。弟は旧王宮のマンダレーで、姉はひっそりとヤンゴンで挙行した。この二人の間にはマンダレーのお濠よりも難攻不落な溝が掘られてしまった。
その溝は深くなるばかりである。



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・06:余談ですが!

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とここまで書いたところで締め切り時間ギリギリだ。
ただいま11月2日(月)午後1時を過ぎた。これから原稿発信の準備に入りたい。
アップロードはもちろんプロバイダー殿にお任せです。

それでも余裕をもって明日11月3日の米大統領選挙を占いたい。
ノンポリ方式はどちらが相応しいなどとは、まったく考えない。
学習中のYouTube分析を活用するだけである。

YouTubeのありとあらゆる番組をサーフし、有り金すべてを勝者にぶち込む。出来るだけ多くのデータを統計学をもちいて、アルゴリズム処理する。当研究所独自の人工知能が動き始める。

スクリーン画面にはこう出てきた。
ドナルド・トランプの勝利。ペンシルベニア州の集計が遅れ、即日結果は出ない。共和党・民主党ともに選挙対策本部が最後の汚い手を使い。通常は敗北宣言をする大統領候補がマスコミに顔を出さない。しばらくはカオス状態が続く。



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