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<ミャンマーで今、何が?> Vol.327
2019.9.24
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━
■ヤンゴン川を対岸のダラーまで渡ってみた
・01: 好奇心をそそる話題が一杯
・02: たった4ドルで物笑いのタネ
・03: 対岸から“森”を眺める
・04: SAFETY-FIRSTはホントウに安全第一か?
・公式ツイッター(@magmyanmar1)
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・01:好奇心をそそる話題が一杯
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新しい友人との出遭いでも、飛び出す会話の断片にも、サーフィンするYouTubeの番組でも、新聞の小さな記事にも、生徒の思わぬ態度からも、驚きのサプライズに遭遇する。小さくともキラリと光るものがある。
モゴックの宝玉よりも貴重なレア・ストーリーである。
そのサプライズに出くわすと、メルマガでの約束をすっぽかし、話が横道に迷い込んでしまう。ヤンゴン歴史散歩と称しながら、今も横道を奥へ奥へと辿って行く。カントリー音楽の定番「Lost Highway」が聞こえてくる。♪I’m a rolling stone,… on a lost highway♪
いつも二人で通ってくる優秀な学生の一人が風邪で寝込んでしまった。
スマホの基本の基本は最初の授業で教えた。ゲームではない。
感心なことに、それを見事に励行し、今日は授業に出れない、体調を崩したと朝一番に断ってきた。欠席の理由がホントウでもウソでも構わない。事前に連絡する基本が重要なのだ。
充分休養するよう伝え、もう一人の生徒はどうするか本人から電話をくれるように依頼した。クタバリかけた老人の事務所でも若い娘が一人で出入りすることに、ミャンマーでは周囲の目が異常なほどウルサい。不必要なウワサの餌食になってはいけない。
直ぐに電話がかかってきた。基本が忠実に守られたことが分かる。
一人でもクラスに参加すると、健気に言ってきた。
ミャンマーでも時代は変わりつつある。だが、調子に乗ってはいけない。保守的なウワサが待ち構えている。事務所のビル前で待つように指示した。そして親しい友人がいたら、一緒に連れてきても良いと付け加えた。
本日は課外授業にしよう。いくつかの案を頭の中で準備した。
約束の1分前に屋根裏部屋を降りると、一階ですでに待っていた。長い髪の友人をキチンと紹介してくれた。このキチンと出来るか出来ないかがバロメーターとなる。生徒のソーシャル能力と家庭環境が測定できる。
朱に染まっているか墨に染まっているかは友人から判定できる。
英語の“Birds of a feather flock together”は西洋だけの格言ではない。
課外授業のオプションを幾つか提案した。
彼女たちに選択させた。そこでパンソダン・ジェティにタクシーを急がせた。
そこには日本政府が寄贈したフェリーボート“CHERRY号”が停泊している。
私のお気に入りの散策コースだ。2ヶ月前にも日本からの大事な友人をここに案内した。
街中をウロウロしていたのでは、全体の“森”が見えない。
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・02:たった4ドルで物笑いのタネ
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日本政府はヤンゴン川渡河に適した最新鋭の平底船を日本で建造し、JICAの名前で同型船3隻をミャンマーの内陸水運局に寄贈した。Bow Thrusterを装備しているので桟橋の離着岸にタグボートは不要だ。車庫入れの要領で操船できる優れモノである。
南北に貫くパンソダン大通りの最南端にパンソダン・ジェティがある。その向こう岸にダラー・ジェティが霞んで見える。その両岸からチェリー(1)号とチェリー(2)号が“ヨーイ、ドン!”で同時に出発する。広い川幅の中間地点で僚船は交差する。そして両船はほぼ同時に対岸のジェティーに着岸する。これを始発から最終便まで繰り返す。
もう一隻のチェリー(3)号は、点検整備のため本日は休航となる。常時1隻を休航させる3隻体制のローテーションには、“安全運航”に配慮した卓抜のセンスがキラリと輝る。コスト削減に無理をする他国の経済援助には、この“1隻を遊ばせる”という思想と哲学が無い。
一旦事故が発生すると残り1隻がフル稼働で過剰労働となる。これが次の事故の誘発要因となる。そのような事業プランで、折角の経済援助が廃業に追い込まれ、やがて廃船はスクラップとなり錆び付いていく。そのような無残な援助計画は低開発国にゴロゴロ転がっている。
そこに配慮したチェリー号3隻の一括寄贈は、真の援助計画はどうあるべきかを実証してくれる教科書である。援助計画だけではない。海上には危険が一杯である。真の“安全運航”のノウハウもプレゼンしてくれている。
2隻に比べ3隻のコストは当然割高で5割り増しとなる。だが“安全運航”が達成・維持できれば、結果的に安い投資となる。この思想と哲学がキチンと低開発国にも寄贈国にも理解されれば、この寄贈はミャンマーに対してだけでなく国際援助の鑑となるべきものである。
ヤンゴンのダラー地区では、ヤンゴン川大橋の基礎工事がやっとこさ開始したようである。韓国政府肝いりの長年の夢である。基礎工事は端緒についたばかりである。当然、チェリー号を利用して工事関係者がこれから大勢ダラー側に渡るはずである。コピー立国として成功した韓国が、果たして、この崇高な思想と哲学を理解し、コピーできるかどうか、これからじっくりと見学させてもらいたい。
これらチェリー号の活躍はヤンゴン川に臨むあちこちの場所から見学できる。多くの村人たちが大きな荷物を担ぎ、あるいはバイクごと、早朝から大都会のヤンゴンにやって来る。そして夕方あるいは日が沈むと川向こうに戻っていく。365日休むヒマがない。
地元の人たちは日本政府からの寄贈を本当に心から感謝している。就航当時は多くの地元友人からCHERRY号物語を何度も聞かされ、日本人として誇らしく思った。
試しに乗船した時のことだ。外国人用切符売り場で日本人と分かると、マネージャーの部屋に呼び込まれ、パスポートを提示し署名させられた。そして日本人は特例で無料だといわれた。部屋の外では欧米人グループが何組もガイドと共に屯していた。彼らは外国人値段を払わされる。
国際援助ではあるが、日本政府として脇が甘いことに気付き、ハッとした。
このメルマガでも何回か警告を発した。このメルマガには、大使館員、JICAの読者がいることを承知の上でのメッセージであった。だが、聞いてもらえなかった。
渡河する乗船運賃のことである。
ローカル価格は片道100チャットだが、外国人価格はドル表示で、チャット払いだと20-30倍の高額設定となっている。それに問題は全くない。
地元の人たちが安い料金で通勤できるのなら、それこそ寄贈の目的が叶えられたことになる。
内陸水運局は日本政府への感謝の気持を表明したのかもしれない。あるいは余計な忖度をしたのかもしれない。日本人はパスポートを提示すれば無料で乗船できる。
ゼニカネだけを口にする日本人に対する“マネー・トラップ”という危険な落とし穴が見えてこないだろうか?
経済大国と胸を張るのなら、設定された外国人運賃など、僅かな金額である。
どういう経緯で日本人だけ乗船費用免除という“特例”が設定されたのか、私は知らない。
だが、日本側の関係者に、何らかのお伺いがあったと見るのが自然ではなかろうか。
そうだとしたら、日本人としての誇りと矜持を捨ててしまったことになる。
感謝の気持であっても、キッパリと断るべきであった。それを当局はしなかった。恥ずべき行為である。
今からでも遅くない。改めるべきではなかろうか? もう一度提案したい。
「李下に冠りを質さず、瓜田に履を納れず」の配慮と気概が日本人の精神から欠落してしまった。
寄贈という誇り高き行為に泥を塗られた。
地元民よりも安いゼロ円で日本人だけが無賃乗船する。100チャットというなけなしの金を支払うミャンマー人の見ている前で、日本人のみが無賃乗船という“無様な特権”を行使する。
外国人専用の切符売り場には、観光ガイドに付き添われた欧米人たちが多数屯している。その脇をすり抜けるようにいかにも傲慢な日本人がパスポートの記入を済ませ、タダ乗り乗船に出発する。当然欧米人旅行客からは、あの連中は何モノだと疑問が観光ガイドに発せられる。船名の“チェリー”は日本国の象徴である。
訳知り顔の観光ガイドが興味津々のCHERRY号物語を欧米人たちに披露する。欧米人グループには英語の達者な中国人、韓国人が混じっているかもしれない。シンガポールの華僑なども含まれている。ウワサはサザナミのごとく伝染していく。
今ガリ勉中のYouTubeから、その危険を学んだ。
21世紀の今は、大統領や首相がTwitterやFBでツブヤク時代である。普通の一般人がスマホひとつで情報を世界の隅々まで配信する時代でもある。共産主義などの独裁国家でない限り、情報は押さえ込めない。
ミャンマーはTransparency=透明性を謳い文句として民主化を進めている。
情報の隠蔽ではなく、情報の公明正大な開示である。
そしてどの国に対しても等距離外交に徹し、ミャンマー訪問とミャンマー投資を歓迎している。
蟻の一穴が一瞬にして世界に拡がる危険を、このメルマガは危惧している。外務大臣がコロコロ変わり、外交政策は万全なのであろうか?
ご承知の通り、中国・韓国両政府はミャンマーをガンジガラメにするほど経済協力を推進し、そのプロジェクトは“ヤンゴン川大橋”を含めて目白押しである。それに加えてこの両国は日本のモノマネが実に上手い。
そこで想定問答である。
外国人価格を設定する公共機関が中国・韓国の援助で完成したとする。ケーススタディである。
このミャンマーに“中国人免除”“韓国人免除”の特例が雨後の竹の子のように出現する。
最初は中国人批判、韓国人批判がこのミャンマーで湧き起こる。
ニュースに敏感な欧米のジャーナリストも中国批判、韓国批判を開始する。
侮ってはいけない。
中国大使館や韓国政府の広報担当は、一枚も二枚も外交上手である。
誇り高き“チェリー号物語”を褒め上げる。褒め殺しという戦術も日本から輸入してコピー済みと見るべきだろう。このヤンゴンで、最初に免除特例システムを開発した日本式国際援助を槍玉に挙げ、問題を炎上させる。“炎上”という流行語もYouTubeで、最近学習したばかりだ。
欧米の外交筋にとって、日・中・韓の炎上は最高のエンターテインメントである。
だから、世界のマスコミはこの炎上をさらに煽ってマスゴミの本領を発揮する。
日中韓の広報担当は、自国のマスコミを取り締まることには熱心だが、海外のマスコミを手なずける手腕と老獪さは未だもって欧米から学んでいない。
事態を笑い飛ばすユーモアにも欠けている。
その生真面目すぎるほどのキャラクターは、オモシロいことに、日中韓で共有されている。
欧米人にとっては、格好の酒の肴となる。
世界第二位と第三位の経済大国が窮地に陥るほど、酒の味は美味となる。
それに加えて第一位の米国もお騒がせな話題を頻繁に提供してくれる。
トランプの登場だけでなく、ボリス・ジョンソンの登場も、素晴らしい。
ヤンゴンで味合うカクテルは最高だ。ジンベースも良し、ラムベースも良し。
このヤンゴンではガセネタを含めて情報が飛び交っている。
フェイク・ニュースは退屈な世の中には最高のスパイスである。
昔、ポルトガル人が、ついでスペイン人が、そしてオランダ人が、最後にはフランス人とイギリス人までもが香料貿易を求めて、インドネシアのマカッサル島に押し寄せてきた。
歴史の借りはブーメラン現象でお返しする時代となった。
欧米人がお気に入りなら、そして周回遅れで西洋人のマネを好む東洋人なら、ヤンゴン発の最高のスパイスをお届けしてあげようではないか。
朝市のオバチャンでも、サイカーの運転手でも、中学生までもが、スマホに夢中のヤンゴンである。学生たちとヤンゴン川の黄土色の濁流を眺めながら、ヤンゴン発の夢を語り合った。
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・03:対岸から“森”を眺める
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またしても話が逸れてしまった。
ダラーの船着場近くに行きつけの、そして私だけの秘密の安食堂がある。
ミャンマーに興味を示す友人だけを、特別にココへお連れする。
そして川風に吹かれて、雄大なパノラマと歴史を説明しながら、ここでビールを楽しむ。
今日の課外授業は、最初からここで開催する目論見であった。子羊たちは可哀想だが老獪な誘導計画に引っかかったことになる。
女子学生が相手だと、ビールはご法度だ。コーラとオレンジジュースで我慢することにした。
ミャンマーではミャンマー人のしきたりに従うのが礼儀である。
ガタピシのテーブル、そしてプラスチックの椅子に座って真北に対峙する。
向こう岸にパンソダンの桟橋が見える。真っ白なチェリー号も見える。ヤンゴンも開発が進み、高層ビルがシュエダゴンパゴダを隠してしまった。
目を皿のようにしても、ここからは見えない。右手にボータタウンパゴダ、真正面にミャンマー港湾局の赤い三角屋根、左手上流にはアジア・ワールドのコンテナ埠頭が見える。
その少し左、ほぼ真北に近い355度の辺りに高層のシャングリラホテルが見える。
持参したタウンマップを広げると、その延長線上にシュエダゴンパゴダがあるはずだ。学生たちと目を凝らしながら探すが、ヤンゴンの象徴であるシュエダゴンパゴダは見えない。
120年前の歴史ドラマをミャンマーの学生たちに語る。
アルメニア人のサーキーズ兄弟が、目の前のストランドホテルを開業した。1901年のことである。ラッフルズ・ホテル、イースタン&オリエンタル・ホテルを創立した伝説のあのサーキーズ兄弟である。
向かってその右隣に見えるのがオーストラリア大使館。オーストラリアといってもビルマ、インドと同じくイギリスの植民地でしかなく、オーストラリア連邦の発足はストランドHと同じ1901年のことである。
当時は蒸気船花盛りの時代。欧州から長い旅路を航海してきた蒸気船は、イギリス帝国海軍のアドミラル・チャート(*海図)で“エレファント・ポイント”を左手に確認し、ベンガル湾のアンダマン海からラングーン川(*今のヤンゴン川)に入る。現在のティラワを右手に見て、“モンキー・ポイント”沖合いのペグー川(*現バゴー川)とラングーン川の合流点で舵を大きく左舷側に切る。
大英帝国の海図に示されたエレファント・ポイントとモンキー・ポイントは、野生動物が彷徨していたビルマの当時を髣髴させる命名である。航海者にとって陸地の航路標識となるランドマークである。それだけではない。
当時のイギリス人が愛読したラドヤード・キップリングの名作“ジャングル・ブック”を思い起こす命名ではないか。
因みにスーチーはラドヤード・キップリングのもう一つの傑作“KIM”から次男坊の名前を“キム・アリス”と名付けた。この“キム”は1950年エロール・フリン主演でMGMから映画化された。
話すうちに学生たちは、ミャンマーの歴史物語に興味を示してくれた。
それではこのパノラマ劇場で、ミャンマーの歴史に深入りしていこう。
川幅の真ん中に大型船を繋ぎ止めるブイ(*浮標)が設置されている。川底はV字型に切り込まれているので通常桟橋のある両岸は浅くなっている。そのために大型船は中央にあるブイに係留される。
「アウンサンとラーミャインは中国服を着込み、英国官憲の目をかいくぐり、ノルウェー船ハイリー号(*海利号)の上甲板船客としてラングーンを脱出した。1940年8月8日のことである。同船は中国・サイアム航路に従事する貨客船であった」とさいとうナンペイ著「アウンサン物語2015」に書かれている。
アウンサン青年たちの密出国現場がまさに目の前の係留ブイである。
そこから日本とビルマの運命的な、だが捻れた歴史がスタートする。
学生たちは「本当ですか?」と身を乗り出して、黄土色の濁流に面影を探す。
暇つぶしの一環で、船乗りの卵である若者たちに日本式英語を教えたことがある。
そのときもここがミニ卒業旅行の現場であった。
ここは船乗りにとっても、世界でも稀有な、特別に仕立てたシアター教室となる。
ヤンゴン川は左手の上流から右手の下流に清水を運んでいく。清水とはいえ、大河イラワジの河川敷・土手堤から土砂・泥土を削り取っていくので下流域のヤンゴンでは黄土色の濁流となっている。この現場では、時間がたてばアンダマン海の塩水が、下流から上流に逆流してくる。この自然現象のドラマは一日に2回繰り返される。
生徒たちや船乗りの卵の知的好奇心レベルは個人個人で異なる。
干潮・満潮の話から、太陽と月の引力の話に展開しても良し。川の清水と海水の塩分が混濁した状態を海運用語でBrackish Water(*半塩水)と呼ぶ。清水・半塩水・海水では塩分が異なり、浮力も異なる。国際ルールでは、この塩分濃度で積載量が細かく規定されている。それが船舶の前後・横っ腹に描かれたドラフト・マークで識別できる。
ここヤンゴンでこの河川を上り下りする船舶から、今月9日に米国ジョージア州で無様な転覆事故を起こした自動車専用船に話を振ることもできる。積み付けのバランス次第で貨物船は前後にも左右にも大きく傾ぐこと。船舶の底には多数のタンクが区分けされており、飲料水・燃料油などが船舶のバランスを考慮して貯蔵されている。
特に事故を起こした自動車専用船は貨物としては重量が軽いので、Ballast Tankに海水を大量に取り入れ船舶の安定を図る。逆にバラストタンクの排水は環境に配慮した国際ルールが確立している。だが韓国系のシッピング代理店が今、人件費の安いミャンマーの若者をターゲットに、インスタント船乗りとして仕立て上げようと暗躍しているのも事実である。もちろん全部が全部ではない。人権・安全を無視した末路はアノ世行きである。
こういう話を船員の卵に噛んで含めるように話すと、ダラケタ学生たちの目が真剣になるから不思議だ。
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・04:SAFETY-FIRSTはホントウに安全第一か?
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話をチェリー号に戻したい。
このシアター教室からヤンゴン川の流れを見ていると、干満の入れ替わりであるスラック時間を除いて本流も逆流も、流れは実に険しい。かなりの泳ぎ手でも泳ぎきるのはドーバー海峡より難しいかもしれない。
今、ダラー桟橋に着桟したチェリー号をもう一度観察しながら、漠然と考えた。
女子学生二人に訊いてみた。二人は泳ぎは得意かい? 予想したとおり、泳げないと言う。「アウンサン物語215」に登場する“三十人の志士”でも大半は泳ぎが不得手だ。
船乗りの卵たちからも知った。ミャンマー人は海洋民族ではない。泳ぎのできる人は非常に少ない。
目の前のチェリー号は二階建てで、屋上である上甲板一面に、オレンジ色が5層の板となって重ねて置いてある。緊急非常用の自動で浮揚するフロートだと想像できた。お役人の定めた安全ルールには適っているのだろう。
そこで疑問が頭をもたげた。
私は正解のない質問を学生に投げかけるのが趣味である。最初はシャイだが、段々自分の考えをまとめるクセが身につくようになる。頓珍漢な応えでも褒め殺しにしてあげる。
ミャンマーの河川では大中小のフェリーがしばしば転覆する。この事故は雨季に頻発し、多くの犠牲者が出る。隣国のバングラデッシュでもインドでも同様の事故が起こる。その多くは定員超過で転覆する。さあ、ここからケーススタディが始まる。
泳げない二人はどうやってサバイバル・ゲームに挑戦する?
チェリー号の乗客は緊急フロートがどこに積み込まれているか見えないし、知らない。だが、二人の学生は上甲板に格納されていることを、既に知っている。それだけで君たちはサバイブできるか? これが最初の質問だ。
このヤンゴン川は湖のような静水ではない。急流ともいえる流れである。緊急フロートも事故現場に留まらず、流される可能性が大きい。二人にサバイブできる可能性はあるか?
しかも水は濁っている。日本の川のように水底はみえない。エンジンを装備したゴムボートが駆けつけても、水底は棒で突っつく以外に沈んだ被害者を探す手懸かりはない。君たちは水面下で何分生きていられるだろう? 洗面器に水を溜め、君は何分息を停められる。私のイジワル質問が続く。
学生たちと話し合った結果、助かる手立てはほとんどないと予想できた。
それで君たちはギブアップするのか? 死んでも構わないのか?
イジワル爺さんは年端の行かない女子学生を追及する。
先日日刊英字紙GNLMを教材にしたとき、日曜日版用に若者の意見記事募集の囲みを学生の一人が見つけた。日曜日版は、ミャンマーの若者に英語の必要性を説き、優秀な意見記事は見開き二面に掲載してくれる。
YouTubeから上杉隆のOp-Ed論をちょうど勉強中だったので、GNLM紙の囲み募集と上杉隆のOp -Ed論がピッピッと繋がった。ここに掲載されるレベルにまで学生の英語力を引き上げられれば学生たちに自信がつく。時間は掛かるだろう。この話題は悪くない。挑戦する価値はある。今年一杯を目処にしよう。
先ほど二隻を三隻にする国際援助を、崇高な思想と哲学と絶賛した。
傲慢になってはいけない。
今の世の中は台風がもたらす豪雨でも大被害を蒙り、千葉県からも、北九州からも、被害状況がこのヤンゴンにまでもたらされる時代である。自然災害が傲慢となった人間の思い上がりに鉄槌を下す。
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