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<ミャンマーで今、何が?> Vol.307
2019.5.21
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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━━【主な目次】━━━━━━━━━━━
■イライラの停電で考えさせられた
・01:新歳時記ミャンマー編
・02:SIN CITY
・03:眠られぬ夜のために(ヒルティ)
・04:真夏の夜の夢
・05:細切れのメルマガ
・公式ツイッター(@magmyanmar1)
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・01:新歳時記ミャンマー編
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ミャンマーの水祭りは一月前に終わった。
日本のゴールデンウィークも先々週で終わった。
長期休暇も、終わってしまえば、ハイそれまでよ!だ。
ミャンマーの歳時記では、12月・1月は空気が乾燥し朝晩は特に涼しい。
2月から突然、夏が始まる。気温は月ごとに比較級・最上級と加速する。
2月がホット(普通の夏)、3月がホッター(猛暑)なら、4月はホッテスト(酷暑)だ。
4月になると、野良犬もサイカーも、死んだように木陰に倒れこむ。
この酷暑だ!!
慈雨を待ち焦がれ、雨乞いの祈祷念仏が土俗的に発生した。
それを知的な仏教が利用し、水掛祭りとして発展していった。
北伝仏教では、4月8日を潅仏会として、釈尊像に甘茶をかける。
南伝仏教では、陰暦カソンの満月は特別の日として厳粛にパゴダに詣でる。陰暦なので、西洋歴では日が一定しない。今年は5月18日がその特異日に当たった。
この日が釈迦の誕生日となるが、それだけではない。
南伝仏教では、菩提樹の下、35歳で釈迦が悟りを啓いたのも陰暦カソンの満月であった。
それだけではない。
80歳で釈迦が入滅したのも、このカソン月の満月であった。
だから、善男善女はシュエダゴンをはじめ近くのパゴダに参詣し、巨大な菩提樹の根元にタップリと聖水を注ぎ、仏陀への想いを深める。それに加えて年長者などへの功徳も積む。
ミャンマーにやってくる日本人のほとんどが仏教徒だという。本当だろうか?
令和になろうが、なるまいが、日本の暦には仏教の痕跡はほとんどない。
だが、日本の政治家もビジネスマンも、日本は仏教国であるという。本当だろうか?
東西南北研究所は、素朴だが、根本的な疑問からスタートする。
水掛祭りとは、欧米人のクリスマスにも匹敵するお祭りである。
信者からは叱られるだろうが、仏教のクリスマスといってもよい。
ただし欧米も日本も、そのお祭りは形骸化してしまった。
だが、ミャンマーの水祭りには素朴な物語が息づいている。
エリートぶった外交官および駐在員は、ミャンマーの歴史が潜むこの絶好の時季に、国外脱出、あるいはヤンゴン脱出を試みる。
現地の仲間たちと水掛に狂わない限り、ミャンマーの本質は何ひとつ掴めない。
この季節、ヤンゴンの街中で、驚いたことに背広にネクタイ姿を見かける。
ひょっとして精神に異常を来たした人種ではないかと心配になってくる。
信頼していたNo.2に逃げられたとか、会社の理念を理解しないなどの不平不満は、水祭りあるいはゴールデンウィーク直後の居酒屋で、聞き耳を立てずとも聞こえてくる。
2・3・4月が夏と思ったら大間違いで。そのアトに、スーパー・ホッテスト(灼熱地獄)の5月が待っている。
太陽が頭上にやってくる午前10時から午後2時は身体に危険を感じる。
外出を控えるのが常識だ。呼吸をしても喉が焼ける。空気が燃えている。
パームツリーの葉先が焦げて舞い落ちてくる。
信じられなかったが、チャットリアム・ホテルのプールでそれを発見した。
溶接の白い火花より強烈な太陽に、キャッツアイは目を開けていられない。
午後4時5時になっても気温は下がらない。
事情を体験しない外国人が、9時から5時を当たり前のようにビジネス時間と定め、理不尽とも知らず、このミャンマーに持ち込む。狂気の沙汰としか思えない。
“己を識らず”とも、“敵を識り”はビジネスの基本鉄則だ。
インパール作戦同様に、本社の涼しい企画室で青図を描き、やってきたのだろう。
昔、所得倍増の総理大臣が“エコノミック・アニマル”の称号をフランスのドゴール将軍から頂戴した。見下されたのである。どうして?
将軍とは言え、文化の薫りと血の歴史で育った。
だから、“エコノミック・アニマル”は日本が元祖だと、今でも誤解している。
その“エコノミック・アニマル”を日本大躍進の原動力だと、時代が変わっても政治家は吹聴する。無教養でイノセントな世界のリーダーが、それを信じる。誰もがマネする。
もう日本の専売特許ではない。
地球最後の経済フロンティアに、世界中から“タイム・イズ・マネー”の効率化と、安易なコンビニのフランチャイズ化が、雪崩れ込んでくる。そこには、古代ギリシャ人が思索した哲学の深淵さはない。日本のカースト制度で最下層に置かれた商人のゼニ勘定を世界の指導者が共有するようになった。
水祭り期間中、政府はどんなことがあっても停電を回避してきた。
これは軍事政権時代から植えつけられた伝統である。
水祭りが終了すると、停電が多発する。これも軍事政権からの伝統である。
真夜中、日中を問わず、毎日2,3回の停電が頻発する。
これにはイライラさせられる。特に今年の停電は異常だ。
苦情の矛先がヤンゴン市当局に、3年を経過したばかりの新政府に向かう。
そして、行き先のない怒りがスーチーにぶつけられる。
本当に、それは正しい判断なのだろうか?
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・02:SIN CITY
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蛇のように曲がりくねる道路が、緑に覆われた山また山を越え、そして更なる山を越える。果てしない緑の水田が延々と続く。そこに突然、本当に突然である。
蜃気楼のようにコンクリート・ジャングルが出現した。
モンラー(Mong La)の名前が通りがよいが、正式にはマインラー市(Mine Lar)である。本当にここはミャンマー領土なのだろうか?
ここは紛れもない東シャン州の大都市で、中国雲南省からの中国人旅行者で賑わっている。
その近代的なビルとモダンな佇まいはヤンゴンに匹敵する。
マインラー市は中国雲南省に隣接する国境の町である。
建設中のビルが至る所に出現し、カジノとギャンブルハウスは、このマインラー経済のライフラインとなっている。
マインラーについて地元の人あるいは旅行客に質問を投げかける。
答えは、顔をしかめるか、あるいは物知り顔で片目をつむるか、のどちらかだ。
ここはミャンマーの“SIN CITY”で、ラスベガスである。
ギャンブル、セックス、ドラッグ、野生動物の違法取引がたっぷりと大手を振ってまかり通る。
中国で、高価に取引される漢方薬の秘宝、野生動物、がここでは自由に手に入る。
“SIN CITY”とは、米国人フランク・ミラーが作り出したコミックブックの悪徳の栄える街である。アメリカでは映画にも、テレビシリーズにもなった。もちろん海賊版DVDでも手に入る。
元々はアメリカの西海岸のBASIN CITYを舞台に、世の中のありとあらゆる悪(SIN)が栄える、未来空想物語である。
BASINとは他から隔絶された“盆地”を意味する。が、その単語の後半を採って短くSINと省略するところは、日本が独占権を所有するオヤジギャグのパクリである。
あのキプリング大先生が、100年前に、横浜の海岸通りで憤ったように、アメリカは海賊版コピーの本家本元である。
このBASINを意味深なSINに省略するところは、アメリカ人のセンスが光る。哲学的ですらある。さらに修練を積めば、俳句の初心者コースに入門できるかも。
アメリカ人とは、生まれたときから原罪という十字架を背負い込んだ不幸な民である。
幼い子供を水に沈めて、洗礼という名の児童虐待も行ってきた。それは今も続いている。
海賊版コピーのみならず、児童虐待の立派な元祖、それがアメリカである。
その罪作りな白人連中に悪の限りを尽くさせて、それを楽しむ自虐的な物語がこのコミックブックである。
このマインラー市およびその周辺は“特別第4区”と呼ばれ、ミャンマー領土内に属しながら、ミャンマー政府・ミャンマー警察・ミャンマー軍部・ミャンマー市政府、が手を出せない不思議な一角である。
1989年にビルマの中央政府軍が共産主義勢力をこの地から追い出した。
そのとき、この辺境地帯の東シャン州で、三つのエスニック武装グループが中央政府軍に協力した。そのひとつが民族民主同盟(NDAA)で、現在この“特別第4区”を牛耳っているのがそのNDAAである。
同市への入り口には巨大な立看板が睥睨し、「平和・統一委員会の指導の下、地方自治政府を支持し、人民の幸せのために前進しよう」と中国語とミャンマー語、二ヶ国語での標語が否でも訪問者の目を引く。
このNDAAは軍隊、警察、セキュリティ部隊を自分たちで保有し、ミャンマー政府からは完全に独立した、実質上の自治政府を敷いている。
すべての道路にはCCTVカメラが設置され、深夜もセキュリティ部隊がパトロールし、厳重な警戒体制を敷いている。
ビルマに因縁深いジョージ・オーウェルの未来小説「一九八四年」のビッグブラザーを髣髴させる。
ここはカジノ、ギャンブルハウス、バー・飲み屋、マッサージ・パーラー、ゲームセンターなどの歓楽街である。だが掟を守る限り、このマインラーは平和が支配しているという。
4950平方キロの“第4特区”が建設されたのは1989年のことである。
それまで支配していたビルマ共産党(CPB)が崩壊し、中央政府軍との間に停戦が協定した。その当時のマインラーは3つの部落で、所帯数は80家族のわらぶき小屋に約500人が住んでいた。それはそれは小さな寒村だった。
当時の中央軍事政権はCPBの野戦司令官であったU Sai Linに、特産品のアヘンを含む全ビジネスの特権を与えた。このU Sai Linは先に紹介したNDAAの議長である。ということは、NDAAとは、ビルマ共産党が衣替えしただけの野戦部隊ではないのか?
U Sai Linは、1990年代初めに、ゴールデン・トライアングル地域で最もパワフルな麻薬王のひとりだった。米国国務省が“Most-wanted”と名指し、国際麻薬殲滅作戦の指名手配という栄誉に浴していた。
麻薬取引の中継ハブとして、マインラー市は一気に巨大悪徳ビジネスの中心都市に変貌していった。
しかし1992年、どういう訳かU Sai Linは突然、国際連合(UN)と手を組んだ。そしてマインラー市で麻薬管理プロジェクトがスタートした。
それから1997年、マインラー市と海外の麻薬撲滅強化機関はマインラー市およびUDAA支配領域における麻薬フリー宣言を行った。麻薬を撲滅したという宣言である。
その宣言を契機として、どういう訳か、外国支援が雪崩れ込んできた。
基本的なインフラ事業に着手し、自動車道路、橋梁などが建設されていった。
続いて、ギャンブルハウス、売春業、野生動物の違法取引(漢方薬としてのレア・アニマル)などへの投資が加速していった。
当局も、マインラー市の経済は観光事業と娯楽産業で成り立っていると認める。
市内には100以上のホテルが建設され、さらに多くのホテルが建設の真っ最中である。
外国からの投資といっても、そのほとんどは中国資本で、リッチなミャンマー資本が若干便乗している。カジノの出現とともにセックス産業が活発化してきた。
ミャンマー人女性だけではない。ロシア人、中国人女性も出稼ぎに、そして最近はベトナム女性までが、世界最古のビジネスに専念している。
マインラー市および“特別第4区”の基幹産業は間違いなく娯楽産業である。だが、最近UDAA政府は食糧確保のため農業部門に力を注ぐようになった。観光娯楽だけでなく、増加する周辺人口を養うためである。UDAAは停戦後、約束を守り、道路や橋の建設、そして遠隔地とのアプローチも不断なくアップグレードしてきたと、喧伝する。
自治政府は百億元(2.23兆チャット)をインフラ計画に注ぎ込んできた。こういう統計数字は日本人の耳には実に心地良い。実感がわかないが、とにかくスゴイ投資額のようである。
さらに自治政府は、この罪作りの町、その周辺の60,000人の住民に安定した電力を供給するために4つの中型水力発電所を建設中という。このような水力発電所は昔は存在しなかったと得意げに語る。
水力発電だけではない、道路や橋も建設され交通網も整備された。さらには、人民の生活向上のために教育や社会問題にも取り組んでいきたい。字面だけ読めば、実に立派なプロパガンダである。
だが、その実態はスーチー演説というか、その施政方針を見事に横取りした発言である。
マインラー市その近辺では、疑いもなく中国の影響が甚大である。
ここでは、ミャンマー通貨は通用せず、中国元だけが流通している。
ここでは中国語が共通言語として使用され、ミャンマー語は少数言語となっている。
以上のレポートはミャンマータイムズの5月15日号に掲載されている。
「ミャンマーの密林に出現したシン・シチーに明るい展望を見る」と題し、かなり辛辣で皮肉な記事内容である。行間を読めば、ミャンマーの現状と中国の現状を浮き彫りにし、噴出する諸問題をひとつひとつ巧妙に示唆してくれる。
(ここはビリー・ホリデーの“It’s a SIN to tell a LIE”をBGMでお願いしたい)
ロヒンギャ問題では自分の意見を持たず、他国のマスゴミに頼りきる日本のメディアは、どうしてこのような秀逸な記事を独自でレポート出来ないのだろう。どこかオカシイ。
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・03:眠られぬ夜のために(ヒルティ)
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MT紙のレポーターは、カチン州の巨大ミッゾン・ダムには言及していない。だが、行間にはそれらが鮮明に浮き上がってくる。
90%の電力を中国が持ち去り、産出国のミャンマーには僅かしか還元されないという国辱的な契約が締結された。国内ではコワモテの軍事政権が当事者である。しかも、テインセインの軍事政権は、立ち退きを強いられた地元住民の反対とマスコミの追求を抑えきれず、自分の任期中はダム建設を中断すると発表した。尻拭いはすべてスーチー政権に押し付けた。
この丸秘契約の裏金は当然軍事政権のトップに献納されたはずである。
その莫大な裏金と契約書は、新政権には引継ぎされていない。
国軍トップの私腹に入った莫大な裏金が、新政権の国庫に引継ぎされていれば、この不平等契約をキャンセルするなり、違約金を払うなりの処置は取れるかもしれない。
だが、その原資なくしては、新政権は手の打ちようがない。
巧妙で老獪な中国は、すべてのプレッシャーをスーチーひとりに掛ける。手詰まりのスーチーに打つ手はない。雪崩れ込んできた外資が、スーチー政権に自国ファーストの、経済最優先の政策を採るようにと、プレッシャーを掛ける。発足後わずか3年の新政権に対してである。
なにかオカシクはないだろうか?
中国・韓国だけではない。アメリカもイギリスも、そして日本までもが、ものの考え方が狂っている。人類は何か危険な方向に突進しているのではないだろうか?
中国は、国連における拒否権を利用して、歴代の軍事政権をプロテクトしてきた。中国による巧妙で老獪な押し売りである。テインセイン大統領も朝貢外交を強いられた。外的から守るといいながら、歴代の軍事政権は、国家としての威信を棄て、私腹を肥やしてきた。
これらを踏まえて、同じミャンマータイムズ前日5月14日号を見てみよう。
表題は「ミャンマーは中国から電力を購入」となっている。
電力エネルギー省(MOEE)の発表によれば、現在国内で発生している電力不足の応急処置として、2021年までに1000MWの電力を中国から購入するとしている。しかし、全量を国内で消費することは不可能で、余剰分は海外に売却するとのこと。
基本契約は調印したが、価格は交渉中となっている。
ここまで読み進めると、イノセントなミャンマーのMOEEが、老獪な中国の手玉に取られていることが良く分かる。手玉に取られているのは新政権の電力エネルギー省だが、その大本の元凶は、国民ではなく、すべて私腹を肥やした軍事政権にある。国家の財産を私腹したのだから、国家反逆罪に相当する。
だが、駐ヤンゴンの外交団は、軍事政権に擦り寄っても、それを非難することはなかった。スーチーの勇敢さの足元にも及ばない。Shame on Them!だ。外交団は、本当に恥ずかしくないのだろうか?
では、中国とミャンマーだけに問題があるのかというと、そうではない。
この灼熱地獄の停電で、イライラしながら考えると、郊外には外資系の工場が立ち並び、そして市内には外国人を主な対象とする高級コンドミニアムが急増中だ。
電力需要は、もちろん大都市に集中する。
辺境の不夜城SIN CITYにも、新首都ネイピードにも、莫大な電力を供給せねばならない。
多発する停電の中でイライラは募る。
矛先はまたしてもスーチーとNLDに向かう。本当にそれは正しい判断なのだろうか?
新政権が発足するとき、各省庁の大量の役人をどうするか、という問題が討議された。
全員解雇という荒治療もテーブルに上がった。だが、全員そのまま雇用とする政治決着が採用された。
軍事政権時代に植えつけられた、たらい回しの役人根性は徹底している。仕事をしないのがお役所仕事と言われてきた。
それだけならまだしも、アンダーテーブルの集金システムは上司から下司まで、身に染み付いている。NLDの新大臣がいくら声を嗄らしても、一朝一夕で変る訳がない。中には、それに染まるNLDの新大臣も出てきた。
繰り返すが新政権が発足してから、まだたったの3年間である。
海外からのバッシングは、ロヒンギャを切っ掛けに、スーチーに集中している。
しかも、その張本人は、英国アカデミー界の最高峰に位置する、しかもスーチーの母校、オックスフォード大学そのものである。
ノーベル平和賞をはじめとして、スーチーにアレほど肩入れした知の巨人たちである。世界最高の老練な学者たちが集った知の集団である。
その学会が統一見解として、どうしてスーチーを切ったのだろうか?
ソレが分からない。色んな裏情報を捜し求めるが、ソノ片鱗すらつかめない。
WHY?あまりにも老獪すぎる。
冷蔵庫を開けると、改めて停電を再認識する。
庫内は真っ暗だ。手探りで冷たい飲み物を探す。
突拍子もなく、テレンス・ヤング監督オードリー・ヘプバーン主演の“Wait Until Dark”を思い出す。お馴染みショーン・コネリー007映画、最初の三作を演出した監督で、そしてヘプバーンのハラハラどっきりの演技が光る。
停電ではDVDはもちろん鑑賞できない。薄暗いランタンでは読書も長続きしない。
座っているだけで汗が噴き出してくる。
蚊帳を僅かに開き、細心の注意で蚊帳を下ろす。蚊を入れないためである。
ゴザを敷いたベッドに身を預ける。
心頭滅却どころか、手にした団扇も暑苦しい。
眠れないのは、熱さのせいだけではない。頭が冴える。
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・04:真夏の夜の夢
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日本では経験できない暗闇の中で、真夏の夜の夢に耽る。
ミャンマー北東部は中国雲南省と国境を接している。
その地が軍事的にも、経済的にも、文化的にも、そして地政学的にも、中国の強い影響を受けていた。軍事政権自身が怖れ、打つ手を無くし、途方にくれていた。
山岳地帯のシャン州から旧都マンダレーまでが中国圏に取り込まれていた。
市内至る所、漢字併記が氾濫していた。ミャンマー領土というのは、中国の甘ったるい外交辞令でしかない。
中国の“一帯一路”はまさにこのミャンマーが最初の関門となる。
日本の薄っぺらな一枚岩と異なり、中国はあらゆる階層の代表団を送り込んでくる。それは政治面だけでなく、軍事面、経済界、文化面、宗教界、学童レベルと、その層は実に厚い。中国にとって、“一帯一路”の出発点で失敗することは許されない。
このミャンマーには、北朝鮮、韓国の両大使館も置いてある。老獪な外交官であれば、このミャンマーこそ、知恵を絞るに適したジェオポリティックスの地であることが分かるだろう。スーチーがミャンマーは複雑なんですと臭いボールを投げたとき、とある外務大臣は経済発展の話しか出来なかった。スーチーの方がはるかにぎこう派である。
テインセイン政権が登場した2011年に話を戻したい。
カチン州北部のイラワジ川上流で中国と共同で進めてきたミッゾン水力発電巨大ダム建設を、流域の自然環境破壊と強制立ち退きを、ミャンマー国民が望んでいないとして、テインセイン大統領は2011年9月30日、一方的に建設中断を発表した。気楽に国民の人気取りを発表したように思えたが、実質、軍事政権はその対応に苦慮していた。テインセインは中国に対する最大の難問を投げ出したに過ぎない。
この巨大プロジェクトは産出する電力の大半(9割)を中国に取り込む契約となっており、産出国であるミャンマー国民の利益は度外視され、売国奴的な片務契約となっている。当然ながら中国側からは巨額の裏金が動いたはずである。すべては独裁政権のトップが懐に入れ、スーチー新政権の国庫には一銭も入金していない。
スーチー新政権が引き継いだのは、契約不履行の責任と中国に対する延滞金の支払いである。最近、スーチーがこの巨大ダム建設再開を匂わすような発言をしたが、それはスーチーらしくない。多分中国からの強圧プレッシャーで弱気になったのかもしれない。
仮にの話だが、2006年当時の契約内容をあの手この手で中国側から引き出し、海外メディアにそれを暴露する。暫くは国内外のマスコミがそれをどう料理するか、様子を見る。あるいは、中国政府に対して、軍事政権を恐喝して脅し取った過去の債務を帳消しにする懐の深さは有りませんかと、日本政府の過去の事実をくどいほど列挙して、揺さぶりを掛けるのも悪くない。
これは寝苦しい、真夏の夜の夢である。
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・05:犬も歩けば棒に当たる(ラッキー編)
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実は、ミャンマーの水掛祭りから、日本のゴーデンウィークまで、メルマガ原稿を用意しては、何度も何度も反故にしてきた。
この不規則な頻発する停電に、イライラが高じて、原稿が完結に至らなかったからだ。
メルマガなど忘れて、朝・昼・晩、データの整理や読書に没頭することにした。
そして電気が戻ると、DVDのワンダーランドで時間を忘れた。
精神衛生上、悪くない。
昼間だと熱いが、薄いカーテンを閉めて窓辺で読書は出来る。
僅かな風の流れに敏感になる。ネコの心境だ。漱石なら続編を書くかもしれない。
この間の読書量、そしてDVDの数はかなりに上る。
だが、手付かずの未読・未鑑賞は山ほど残っている。前途遼遠。
それから、何人かの友人から指導してもらったYouTubeの活用も真剣に考え始めた。
ミャンマーの若者には、DVDも有効だが、YouTubeの活用は、もっと世界が広がる。
そのアイデアは止まるところを知らない。
技術的には戸惑うことが多いが、決してギブアップはしない。若者と一緒に進めていこう。
この水祭りから、新しい友人との往来もはじまった。
自分の存在は目立たないことに徹している。
だがミャンマーと外界の動きは、わずかでも見逃さない。
気がつくと涼しい快適な場所に鎮座している。ネコの習性を身につけている。
商人のゼニ勘定では、計り知れない人物だ。
アメリカの超一流紙と契約し、夕方になるとネットでダウンロードする。全紙面のダウンロードも20分もあれば充分だという。ヤンゴン某所の印刷所ともオンラインで繋がっている。そこへの発注も一時間掛からないという。印刷所にはアメリカと同サイズの用紙を用意し、米国は地球の裏側である。昼夜のズレはあるが、その日の内に日刊紙がヤンゴンで印刷される。
印刷されたばかりの、本日付日刊紙をプレゼントされたときには、舌を巻いた。
経済フロンティアでも、この超一流紙はオンラインで読むことは出来る。
だが、紙に印刷された需要はペイパーレスどころか、逆に鰻登りである。ということは、彼のビジネスは未開拓分野を完全に押さえたことになる。
ラーメンのチェーン店に進出するのも良いだろう。だが、どうして激戦区で同業同種の勝負を挑むのか理解できない。
IT産業はペイパーレスの時代を吹聴する。
ヨハネス・グーテンベルグの時代から、そして瓦版の時代から、慣れ親しんだ紙での保存は、そう簡単にはなくならないというのが、この我輩はネコの紳士と意気投合した最初の会話であった。
印刷業に関しては、私にはひとかたならぬ想い入れがある。
「親も無し、妻無し、子無し、版木無し、金も無ければ、死にたくも無し」の辞世の句を残した林子平。6つの“無”をもじって“六無斎”と号した。版木とは、新聞社で組む活字に匹敵する。
海防の重要性を警告した林子平は印刷業者でもあった。
ネコの紳士は、だから日本の文化は素晴らしいですネ、と敏捷に反応した。
違いが分かる人物である。
素晴らしいですネがお世辞でないことは、直ぐに分かった。
日本人の英語、SHINZO ABEはオカシイでねと言う。そんな日本語は無いでしょう。ABE SHINZOに徹すべきです。メルマガで主張した私の意見とまったく同じである。この考えも気に入った。
それだけではない。
日本の大使はミャンマーに造詣が深いと聴いていた。
ある日緬友好のパーティーで、同氏のスピーチを聞く光栄に浴した。
戦争直後、日本は物資不足だった。だが、ビルマは大量のビルマ米を無償で送り届けてくれた。だから日本は今、経済援助でソレに応えたいと演説を締めくくった。
その場の出席者は拍手したが、彼本人はがっかりしたと言う。
日本とビルマの歴史には、もっと根深い親密なものがたくさんあります、と彼は語った。
そういう秘話を語ってくれるかと思ったら、日本の役どころが正しく伝わらないような気がしますとも言う。もちろん気配りのネコ紳士である。経済援助には感謝しますが、とそれを踏まえたうえでの話である。
そしてアウンサン将軍関連の書籍ははとんど揃えているとも言った。
私もさいとうナンペイ著「アウンサン物語」を数日前に読み直したばかりだったので、彼の話には追いていけたし、同感することしきりであった。
この紳士とは、水掛祭りの舞台を見渡す、道路反対側のテーブルから声を掛けられ、冷えたビールの供応を受けたのがキッカケだ。話のひと言、ひと言に無駄が無い。オモシロイ人物と判断した。礼を言い、デジカメで町内を撮影したいと15分ほどで、そこを辞した。
今年の水祭りは、最近出来たてのコンビニがオープンしている。しかもビールが便乗値上げもせずに通常価格だ。これも新政府の方針が生きているのだろう。冷えた500ml缶を半ダース手に下げて我輩はネコの紳士にお礼参りして、その日は分かれした。
その後、この紳士とはヤケに話が合う。
ミャンマーの新年を迎え、新しい交友が始まった。共鳴する話題が幾つも出てきた。
同氏の家族構成、彼自身の血のルートもざっくばらんに話してくれた。
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と書きたいことは、いくらもある。だが、いつ停電になるの心配だ。
中途半端だが、次回は私の大好きなモンスーン雨季かも・・
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