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<ミャンマーで今、何が?> Vol.259
2018.7.10
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■シュエマン著「レディと私、そして国家問題」その2
・07: シュエマンが第二冊目の著書を出版
・08: MT紙の記事は二段組で、本文はたったの49行しかない
・公式ツイッター(@magmyanmar1)
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07: シュエマンが第二冊目の著書を出版
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英字紙ミャンマー・タイムズ6月15日号に面白い記事を見つけた。シュエマンが「レディと私、そして国家問題」に続けて、第二冊目の本を出版したという。その本の題名は仮訳「憲法裁判所委員を辞任するに当たり分かった事実、拙い訳でスミマセン!」(原題:Findings on the Resignation of Constitutional Tribunal Members)となっている。
MT紙の見出しは「元大統領、前の独裁者と同じ振舞いをしたと、高官が語る」となっている。第一冊目の著書でも元大統領テインセインに対するシュエマンの追及は厳しいが、今回はテインセインに致命的なダメージを与える決定版のような見出しだ。そこにはシュエマンが出版記念会で演壇に立ち、聴衆に語りかける写真付だ。写真のキャプションを見ると“トゥラ・ウ・シュエマンがネイピードの出版記念会で語る”となっている。
MT紙の見出しの元大統領とはテインセインで前の独裁者とはタンシュエのことで、高官とはシュエマンその人である。
スーチーが言うとおり、ミャンマーは複雑だ。新聞・ジャーナルの読み方でも字面だけを追っかけても何も見えてこない。行間を睨みつけて、それを読み解くのだ。それが分析作業である。
この場合は、テインセイン、タンシュエ、シュエマンと大物役者が三人も揃っている。ミャンマー劇場の三角関係である。バミューダ・トライアングルよりも遥かにエキサイティングで、ミステリアスな謎が見えてくる。
ミャンマー紙幣を使って例えてみれば、上記の情報だけで、シュエマンは10,000チャットのストップ高、テインセイン5,000チャット安、タンシュエ変わらず、というミャンマーの権力地図が浮かび上がってくる。言論の自由な時代をミャンマーは迎えた、とは言え、これほど大胆な発言をシュエマンが出来たということは、シュエマンの基盤がシッカリと固まったということだろう。この発言は単にスーチーのバックアップを受けているからと判断すれば、それは非常に軽薄で安易な見方だ。
シュエマンの頭の中は非常に緻密だ。複雑なミャンマーの国防軍のトップにまでのし上っただけのことはある。これは一部マスゴミも誤解して読みきれていないが、それはタンシュエにも当てはまる。
シュエマンは二冊の著書を出版するに当たり、その内容について、シカルベキ筋の暗黙の同意は取り付けているはずだ。シカルベキ筋とは単数ではない。スーチーの語るとおり複雑である。三軍最高司令官ミンアウンライン率いる国防軍の内部、かって自分が党首を務めた旧与党USDP内部、上院・下院の両議長および国会議員団、大統領・副大統領、現与党のNLD内部などへは事前に原稿を配布して、そこでニラミを利かせる大物の了解ということである。もちろんスーチーには要旨は伝えてある。シュエマンは、そのくらいの配慮が出来る男である。
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08: MT紙の記事は二段組で、本文はたったの49行しかない
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元大統領のテインセインは在任中、SPDC(国家平和発展審議会)議長であった前の独裁者タンシュエのように振舞おうとしたと、徹底的にテインセインを非難している。同時にタンシュエに対しても、遠慮なく独裁者と決め付けている。
タンシュエが独裁者であることはミャンマーでは公然の秘密である。だが、面と向かって“独裁者”と暴言を吐いた部下は一人もいない。いたかもしれないが、残忍なタンシュエは即座にピストルで撃ち殺すか、独房にブチ込んだはずだ。
これを自分の著書の中で独裁者と決め付けることは、ミャンマーの慣習として、そして昔の部下として穏当ではない。それを敢えてシュエマンが口火を切ったということは、前にも書いたが、タンシュエの黒目が白濁してきた前兆かもしれない。ミャンマー事情を分析するには、疑問のポケットをいくつも用意しておく必要がある。スーチーの健康を心配するのと同様に、写真一枚からでもタンシュエの健康に配慮しておくことだ。ミャンマーの人たちは風向きが変わるのを毎年やってくるモンスーンで会得している。この国では何事もありうるからだ。
テインセインはスーチーと同年齢で今年73歳。シュエマンより三歳年上だが、国防軍における将軍の序列ではシュエマンより確実に下位である。おまけにシュエマンには戦場の勲功で得た“トゥラ”という勇者の称号がついている。学究肌でしかめっ面のテインセインなんか軍人じゃないという威圧感がある。面と向かって対峙したときには、あるいは将軍たち列席の場では、テインセインはいくら元大統領とはいえ、この凄みを利かしたシュエマンには何一つ口応え出来ないはずである。
比喩としては正確ではないが、体育会系の集まりで口ヤカマシイ長老がシュエマンに当たる。スーチーがどうしてこのシュエマンを一本釣りしたか、その辺りを読み取ってほしい。スーチーの深謀遠慮の凄さである。ミャンマーの現在史から、タンシュエと同格であったマウンエイのトップ2が消え去った今、第三位であったシュエマンにとって怖いものはいない。軍人ワールドを見渡してこのシュエマンがトップに躍り出た。それも制服組としてではなく、スーチー政権最大の協力者としてである。スーチーの同志とも言える。
今年3月末、ミャンマー連邦国第10代目の大統領ウィンミエン(U Win Myint)が誕生した。そして、これまでウィンミエンが務めていた下院議長の空席にTクンミャット(U T Khun Myat)が就任した。そのとき、ネイピードの政界筋では色んなウワサが飛び交った。彼はKhunという名前が示すとおりシャン州の出身だが、シュエマンの心酔者で懐刀であったからだ。政界の軍人王国が崩れる。ネイピードの政界地図が変わる。軍人部落の一部に動揺が走った。だが今、何事も無かったようにTクンミャットは下院議長の職責を波風立てずに取り仕切っている。彼も政界では大物である。
国会の下院議長とはシュエマンが務めていたポジションである。そのことをジックリと考えてほしい。
前回のメルマガでお伝えしたとおり、USDP主流派は警察権力を動員して党派内のゴタゴタに介入させた。しかも場所はミャンマー政治の中心地ネイピードである。法治国家では起こしてはならないクーデターであった。
だが賢明な政治家スーチーとシュエマンは、この大危機をチャンスに摩り替える叡智を持ち合わせていた。NLDが問題とする2008年憲法では、国家が不安定な状態に陥れば軍部が出動してクーデターを起こして構わないと、明記してある。
だから、スーチーと入念に打ち合わせた上でシュエマンは、再開された8月18日の国会議員総会冒頭で、法の精神を説き、ミャンマー連邦が法に従って国民全員に平等に適用されることを訴えた。USDPのテインセインに文句あっかと、挑戦状を叩きつけたのである。正論だけにテインセインは一言も反論出来なかった。その後、一貫してシュエマンは前政権が蹂躙してきたほうの精神を説いている。それが彼の現在の職責でもある。
旧軍隊組織の中でも、シュエマンを慕うものは、隠れ信奉者を含めて、かなりの人数に上る。Tクンミャットだけではない。そこのところ押えておかなければ、ミャンマーは見えてこない。
ミャンマーの軍人というと、コンビニ的簡便さで一括りにする自称ミャンマー評論家は多いが、現在USDPに留まっている軍人グループにもシュエマン支持者、あるいはTクンミャット支持者は潜んでいる。これら支持者はいつスーチー指示に転向するか、情勢次第である。スーチーにはこれらの軍人グループを仲間に取り込む策略は講じるが、彼らを敵視して色分けする稚拙な行動は取らない。
この二冊目の著書の中でシュエマンは続ける。テインセインがSPDCの議長(タンシュエ)のように法を施行しようとしたとき私は同意できなかった。国民の声を反映していなかったからだ。そこで議員連中もテインセインに同意しなかった。テインセインと私の考え方の相違はこのときにはじまった。テインセインは議会を自分の望み通りに動かそうとしていたと、シュエマンは語った。しかし、前の大臣ウ・ソーテインが彼に対して行った批判に対しては同署の中では何もコメントしていない。
「ウ・ソーテインと私は友人だ。何もコメントすることはない。スーチーへ対する協力は気に入られるために自分の主張を変えるものではない」と、シュエマンは語った。
これはシュエマンの書いた二冊目の本で、彼らが言ったことが正しいのか、正しくないのかは、将来明らかとなるだろう。上級将軍のタンシュエも国家にとり最善のことをやろうとしてきた。私がやろうとしていることも、何が国家のために最善かという信念に基づいている。自分だけでなく、すべての国家指導者は権力を掌握している間は、何が国家に取って最善かを考えて行動してきたはずだ、とシュエマンは語った。
微妙な表現だが、それだけシュエマンが繊細であるということである、シュエマンは元大統領のテインセインは徹底的に叩き、独裁者のタンシュエには、わずかな気配りを施している。この辺りをどう読み取るか、難しいところである。
なお、このメルマガでは前にもお断りしたが、基本的に登場人物の敬称は勝手に省略している。スーチーも含めて現在史の人物だからだ。シュエマンはテインセインを攻撃しても男性への敬語ミスターを意味する「ウ」付きで語っていることをお伝えしておく。
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