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<ミャンマーで今、何が?> Vol.249
2018.2.23
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■スーチーの正面突破作戦
・01: スーチーの演説は言い訳か?
・02: 国連を地球の中心に据える
・03: スーチーは何を語ったか?
・04: ミャンマーの民主化はいつ始まった、それが原点
・公式ツイッター(@magmyanmar1)
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01: スーチーの演説は言い訳か?
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スーチーのマスコミに対する沈黙の期間が長過ぎた。
その間に世界中のマスコミからサンドバッグのように叩きのめされた。
それはコーナーに追い込まれたKO寸前のボクサーのようにも見えた。
だが、あの痩せ細ったスーチーがヨロヨロと立ち上がった。
場所は首都ネイピードの第2国際会議場。時は2017年9月19日午前十時のことであった。
その場に出席したのは、ミャンマー駐在の外交団、国連各機関、国内のマスコミも招待されたが海外の報道機関が主要対象とされた。そして、それは国内および海外のTVで同時中継された。
スーチーが語ったのは正味30分間。首都ネイピード発信にもかかわらず、スーチーはすべて英語で訴えた。対象はミャンマー国民ではない。海外の各国政府、国連機関およびマスコミが対象であった。
外国人が占めるネイピードの会場は、今頃スーチーがどんな言い訳をするんだという冷たい雰囲気で包まれていた。だが、スーチーは周到な演説原稿を何日も前から自分で推敲して用意していた。
国造りに着手して僅か一年半。国会議員も、司法裁判官も、そして大統領府内閣も、すべてピカピカの1.5年生である。立法・司法・行政の三権分立がどう機能するか、当事者のほとんどが理解していない。だから、スーチーは軍事政権が巧妙に作文したミャンマー憲法の間隙を縫い、"自分は大統領の上に君臨する"と宣言した。エガワ君みたいなものだ。スーチーを大統領に就任させないため入念に作文した憲法の盲点をついたからだ。国軍関係者全員が唖然とした。一挙手一投足を見守る衆人環視の中で、エガワ君がホームスチール(和製英語)を成功させたのだから。
それだけにスーチーにはプライドがある。そしてコーナーからスーチーが立ち上がった。
"♪立ち〜上が〜〜れ、もう一度♪ You are a Queen of Queens!"ここは是非ともアリスの応援歌が必要なところだ。プロバイダー殿、音符マークが印字できますか?
スーチーには、従順だが有能な秘書も部下もいない。孤軍奮闘で、彼ら全員を育てるところからスタートだ。三権分立それぞれの代表者と言っても同様だ。スーチーは一人一人の教育からスタートした。
取り巻きには、スーチーのスピーチを代作できる有能な官僚などいない。
孤独なスーチーは、演説原稿はすべて自分で構想し、自分で推敲する。だから、原稿ができあがった頃には、すべて暗記してしまう。だから、どこかの首脳のように棒読みしたり、一行飛ばして読み上げ、マスコミが大喜びしそうなパフォーマンスができない。スーチーの演説原稿をチェックすれば分かることである。その一つ一つに彼女自身の哲学と建国の理念が詰まっている。オーバーな言い方をすると、それは米国の独立宣言にも匹敵する。
昨年9月19日の海外向け演説も同様であった。
だが、すでに色眼鏡でスーチーを見る外交団、海外マスコミの反応は冷え切っていた。
そして、スーチーの努力はすべて失敗に終わった。
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02: 国連を地球の中心に据える
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ラカイン問題だけではない、ミャンマー全土が、軍事政権によって荒廃していた。
宝石が眠るモゴックも、豊かなチーク林も、そして新政権が引き継いだ国庫までが、旧軍事政権が持ち逃げし、カラッポだった。スーチーの新政権が唖然とした。どうやって、新政権を運営すればよいのだ。
自分の周りを見渡せば、大学は閉鎖され、同僚は全員ムショ帰りだ。教育と言ってもインセイン刑務所などのブタ箱教育しか受けてない。反軍事政権の反骨魂だけは盛んだが、民主主義を標榜する新政権の戦力になる知識は何一つ身につけていない。
国民投票という洗礼を受けていない25%の制服組国会議員、そして彼らを将棋の駒として扱う軍事政権の首脳たちは、スーチーという名の小娘がいつ音を上げるか、余裕たっぷりに待っていた。
各役所では何も言わない。だが、軍事政権時代と変わらず、それ相当の紙幣を書類の下に挟めば、即座に申請書は受理すると、露骨に顔に書いてある。そして壁にはムナシク、贈収賄撲滅の真新しいステッカーが貼ってある。
新政権では、お役所仕事がすべて滞った。民主主義どころではない。ビジネスマンたちからの不平が噴出した。合弁相手の、あるいはパートナーの、外国人にその不満が伝えられた。外国人は自国の大使館に飛び込んだ。心あるミャンマー人(自分の地元パートナーのこと)は昔の方が良かったと言っていると。各国を代表する大使も新政権に苦情を持ち込んだ。軍事政権の残党が目論んだ通りにコトは運んだ。海外のマスコミは、軍事政権のお先棒を担いだ。軍事政権時代の取り巻き連中はニヤリとした。その時、清楚なスーチーの顔相が般若の面に変わった。敵は国内にも、海外にもいる。
先進国の首脳が有能な官僚組織に操られている時に、スーチーは新生ミャンマー建国をひとり真剣に瞑想していた。勝てば権力は思いのままというトランプ方式に対して、スーチーの頭はミャンマー維新の国造りに必死であった。父親アウンサン将軍や坂本龍馬を想い描いた。イヤ、勝海舟と西郷隆盛であったかもしれない。
そこで、ネイピード演説の構想に真正面から取り組んだ。
毎年9月の第3火曜日からNYの国連本部で、各国の首脳および代表が出席して、国連総会が開催される。開幕時には、各国首脳による一般討論演説が行われる。そこでのスピーチをスーチーも予定していた。持ち時間は一人15分が慣例だ。だが、元気な頃のキューバのカストロは、常識など型破りで、4時間30分の大演説をぶっている。マニュアル首脳にはできない度胸だ。
今の状況を語り尽くすには15分では足りない。カストロほど野蛮ではないスーチーはそう考えた。
そこで副大統領のバンティオを国連に送り込み、自分は首都ネイピードから自分の"哲学"を30分間ミッチリと世界に向けて発信した。
決して"言い訳"ではない。スーチーの"テツガク"である。国連総会の場を逃げたのでもない。ミャンマーの首都から毅然と世界に発信した。
戦術を変えたのだ。背筋を伸ばし、後ろ髪に花を挿し、ミャンマーの首都から、自分の信念を世界に向けて発信した。仮に先進国G20の首脳なら、建国理念のスピーチをどのように組み立てるだろう。ゴメン、ゴメン! アナタたちには優秀な官僚あるいは秘書官が作文してくれるのでしたネ。
スーチーの頭脳が辿り着いたのは、THE UNITED NATIONSであった。国連総会をキャンセルして"国連"を想い描いたのである。それがスーチーが辿り着いた究極の戦略であった。
スーチーには自宅拘束も含め人生の半生をかけて、本を読む時間、瞑想する時間はタップリとあった。
世界の偉人伝、世界の歴史、ミャンマーの歴史、老獪なイギリス人のモノの見方、偏狭な日本人の歴史観、それはそれは膨大な書物を英語で、ミャンマー語で、時には日本語で読み漁った。だから、先進国と言われる国家のヒヨコ代議士や外務大臣、あるいは薄っぺらな二世三世議員とは、格が違う。そして品格も違う。
21世紀の今は、軍事力や経済力だけでグローバル覇権を目指すのではなく、地球上で生存してきた多様性を尊重せねばならぬ時代に突入している。この大きな潮目を読み取らないと、自国ファーストを振り回すスーパー大国アメリカや、共産主義にしがみつく中国の覇権主義、核ミサイルでデスマッチを挑む北朝鮮などに、振り回されることになる。
スーチーの目は第二次世界大戦が終了し、勝った側も負けた側も、世界中が荒廃し疲弊した時点に釘付けになった。モウタクサンだ戦争なんて! あんな悲惨な生活は!
第一次大戦後の国際連盟は空中分解してしまった。だが、世界の叡智はもう一度、戦争のない平和な地球国家に挑戦してみようと立ち上がった。世界の叡智が知恵を絞った再建策が国際連合である。
スーチーはロヒンギャで荒廃したラカイン州を、イヤまだ紛争の真っ最中であるラカイン州を、第二次世界大戦に比肩しうると判断した。そしてその解決策を国際連合をロールモデルとして設定した。
スーチーの老獪な知恵は、問題を世間の目から逸らすのではなく、世界中の人たちが見守る国連の場に投げ出すことにあった。それが2017年9月19日のネイピードからのスピーチである。もいう一度噛みしめてほしい。そこにはスーチーの哲学のみならず、具体的なラカイン解決策が込められている。それは決して小手先だけの言い逃れではない。
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03: スーチーは何を語ったか?
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世界のバッシングはラカイン州に住む悲惨なイスラム教徒の人権を保護しろという。
スーチーは明確に"ノー"と断言した。
「新政府は、特定の人たちだけではなく、ミャンマー領土内に住む、すべての住民の人権を平等に保障したい。宗教にかかわらず、人種にかかわらず、すべてのミャンマー住民のHuman Rightを尊重し、平等に保障する」とスーチーは語った。
それは72年前に創設された国連の精神と目標、そのものである。ビルマは1948年に国連のメンバー国となった。国内事情で半世紀もの不幸な時期もあった。だが、今ミャンマー新政府は、国連憲章に明示されたその普遍性と正当性、そして国際法を基本とする精神を尊重し、ここに再び固く決意を表明したい、とスーチーは明言した。
皆の見ている前で、国連憲章の根本理念であるHuman Rightを尊重し、実行すると、再び確約したわけである。コソコソとレポーターに言い訳したのではない。
さらにスーチーの凄いところは、一年前の国連総会のことである。民主主義を標榜して初登場した2016年の国連総会の演壇で、スーチーは世界中の国連参加国に対して誓いを立てていた。国連創設の精神と目標に則り、新生国家ミャンマーの建設に取り掛かると、だから兄弟国家の支援と協力をミャンマー国の代表としてお願いしたいと。すでに一年前に肝心要の布石を用意していた。だから、今回のネイピード演説が付け焼き刃の言い逃れでないことは明瞭だ。
スーチーは世界中のバッシングを甘受するのではなく、世界中に警告を発信して、逆襲しようとしている。戦後すぐに世界中が、あれほど崇高な理念で国連憲章を採択したにもかかわらず、冷戦で弄ばれ、21世紀の今、軍事紛争が世界各地で発生し、もっと危険な核戦争にすら相手を追い込もうとしている。
先進国でもその国内は、そして国民は、多様性に富んでいる。単純な一枚岩ではない。
政権党に属する人たちもいれば、現在、野党に甘んじているグループもいる。
世界中のバッシングと書いたが、同国人であっても話をヨク聞かないと、スーチー政権に反対も賛成もいる。スーチーは今、それをジックリと選別している。
国連安全保障理事会に議場で、堂々とミャンマー擁護の論陣を張り、ミャンマー懲罰の決議案にキッパリと反対票を投じる国もあれば、議場では意見表明せず、投票だけはコソコソと棄権して、後でスーチーの耳にワガクニはミャンマーを全面的に支援してますと語りかけるのでは、外交的本気度と効果は全く異なる。ミャンマーの外務大臣は、そこのところをジックリと見極めているのだ。
だが、日本の一般報道は、スーチーは中国びいきで、あれほど経済援助しているのに日本に冷たいと報道する。中には、スーチーが京都大学の研究員として勤めていた時、教授からセクハラを受けたのが原因だとの風説も聞こえてくる。賢明な読者は、一国の外交問題を考察する時、何が正論で、何が愚論か、当然ご存知のはずだ。
もう一つ例をあげよう。ミャンマーの軍事政権時代、軍人将校の軍事訓練を引き受けてきたイギリス国軍が、その計画を一旦停止するとイギリスの外務大臣が最近発表した。それに対して、ミャンマーの最高司令官はカンカンに怒り、今後は二度と英国などには絶対に世話にならないと、即座に反応した。
この世の中は面白いもので、その分野では世界的に有名なスイス国軍がミャンマー将校の軍事訓練を引き受けるたい即座に手を挙げた。捨てる英国あれば、拾うスイスありである。今の国際情勢は変化が激しい。隙あれば、トンビに油揚げを盗まれる。今、イギリスという国家が、飼い犬同様に扱っていたミャンマーという国家をないがしろにすれば、いつかは飼い犬に手を噛まれないとは決して言えない。
スーチーの一日の行動はGNLM紙でかなりの部分見えてくる。その面会者・グループの数および多様性には驚かされる。多分、でも間違いなく、文字通り分刻みの忙しさは、世界一ではないだろうか。ワタシが比較しているのはトランプさんを頭に描いている。しかも、その相手というのが、世界のトップレベルの人士である。元米国大統領がNGO団体を率いて現れたり、ジョージ・ソロスがなんどもやってくる。マイクロソフトの創設者、欧米の大企業の社長会長が面会を求める。
これら大物はティンチョウ大統領も表敬訪問するが、真の狙いはスーチーである。スーチーと直接話せないのでは、ミャンマー訪問の意味はない。
バッシングとひとまとめに書いたが、スーチー賛同者・応援者も世界中にいる。北欧にも、中南米にも、アフリカにも、バチカンにも、中近東にも、中国にも、台湾にも、香港にも、シンガポールにもいる。国家という名前を離れたNGOという正体不明の団体もアプローチしてくる。スーチーはどの国とも偏らずに、平等に等距離外交の関係を築きたい、と語っている。日本の報道は伝えないが、中国関係を損なわないために、台湾に送信した祝電をオンライン版でコッソリ削除するなどの外交政策は絶対にとらない。スーチーは正攻法で堂々と正面から吠え、噛み付く。
スーチーは誰からも援助を得られず、孤独に突き落とされた時、瞑想の世界に入っていった。本人は「そんなに簡単なことではなかった」と白状している。ウー・パンディタ師の講話本を手に入れてから彼女はアップグレードした。正しい瞑想のやり方が分かってきて、より多くの時間をそれに費やすようになった。瞑想の喜びを知れば知るほど、長い時間を瞑想して過ごそうという気になったと後に述べている。
いま、スーチーに会見を求める政治家・経済人の中で、経済発展ではない、安い労働力の確保でもない、人間の幸せとは、人類の恒久的な平和について、スーチーと腹を割って語れる、世界の指導者は、どれほどいるだろう?
スーチーが説いた「恐怖からの自由」の"恐怖"が、文盲率の少ない、教育レベルの高いと言われる欧州各国で、猛威をふるって吹き荒れている。それは豊かで平和であるはずの21世紀が生み出したボートピープル難民の通過である。愚かな政府は、そして愚かな国民は、万里の長城を建設して食い止めるという。域内のヒト・モノ・カネの流通を自由にするという理想で作り上げたEUが、21世紀の今、大音響と共に崩壊しようとしている。その愚かな大問題を避けて、地図上のどこにあるかも知らないチッポケなラカイン州に人目を惹き付けるなど、なんとセコイ報道ではありませんか?
旧約聖書を紐解けば、そこには世界をさまよったユダヤ人の物語が語られている。
アンネ・フランクの日記からも歴史は学べる。
黒死病のように嫌われたユダヤ人が、ジョージ・ソロスのように世界の金融界をいま動かしている。
スピルバーグのように世界のエンタメ業界をユダヤ人の優秀な頭脳が華やかに、時には深刻に演出してくれる。ハリウッドのみならずNYの五番街を歩けば、そして南に下ってウォール街で、それらを実感できるだろう。世界のジャーナリズム業界でもロイター通信のようなユダヤ資本が牛耳っている。
いま即刻解決すべき難問は何なのか、老獪な訓練をイギリス人から学んだスーチーには見えているような気がする。
それは自分の父親を殺された英国から学び、非暴力のガンジーから学び、仏陀から学び、母親のドー・キンチーから学び、ウー・パンディタ師から学び、いまのスーチーを作り上げていった。
スーチーは複雑なラカイン問題を自分でシロクロをつけずに、スーチーはこの問題を丸投げした。
スーチーは一昨年、国連の壇上で語っている。
新政権は発足すると間もなく、ラカイン州の平和と安定、そして発展を遂行するために、中央委員会を設置した。そして国連諸機関および国際的機関に人道的な支援と協力を求めた。さらには、新政府はラカイン問題の助言委員会を設置して、前の国連事務総長であるコフィ・アナン博士をその議長に指名した。
丸投げした相手はコフィ・アナンであった。2001年に国連とアナン個人にノーベル平和賞が授与されている。すなわちスーチーとアナンはノーベル賞仲間である。
ということは、全世界に知的な友人のネットワークを確立し、世界の紛争の調停プロであるアナン博士を国連とともに自国ミャンマーの最大難問解決に雇用したことになる。コフィ・アナン調査団は昨年すでにラカイン州入りし、一年をかけて精力的に聴取を開始し、勧告書をまとめた。
スーチーは単に丸投げではなかった。すでにできる限りの手を打ち、行動を開始していた。
しかも、最適の人物を選別して。
蛇足で付け加えると、自分の足では調査せず、第二次、第三次情報で踊らされるゴシップ・ジャーナリズムは相手にせず、沈黙を守り、スーチーだから打てる手を模索してきたようだ。
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04: ミャンマーの民主化はいつ始まった、それが原点
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床屋談義でスーチー政権をケナすのは一向に構わない。庶民は常に反政府であるからだ。だから、どんどんやってほしい。だが、ジャーナリストの看板を掲げるなら、床屋談義や銭湯談義は見当違いだ。東西南北研究所は吹けば飛ぶような野次馬だ。だが、五分の魂は堅持したい。
2011年11月18日、インドネシアのバリ島で東アジアサミットが開催された。
それに出席するオバマ大統領は"エアフォース・ワン"機上から、スーチーの自宅に電話をかけた。用心深く超極秘会談が始まった。「ミャンマーの民主化推進に、米国が介入した場合、マダム・スーはゆるぎない態度で、最後まで米国を支援してくれるね」と。
スーチーがオバマに哀願したのではない。スーパー大国の大統領がスーチーにお願いしたのである。ミャンマーの民主化が混沌の中から動き始めた歴史的な瞬間である。6年以上前のことである。
このときスーチーは自宅拘束から解放されたばかりのただの一婦人である。敢えて言えば、無力な野党勢力の党首でしかない。民主化が今後どうなるか、全く先が読めない時である。スーチーが国会議員に当選し、NLDが政権を奪取し、国家相談役に就任し、憲法を度外視して大統領の上に君臨し、実質ミャンマーの元首になろうとは、全く見えない手探りの時期であった。それだけにオバマの識見には驚かされる。他国の首脳が、スーチーを無視して、軍事政権に擦り寄っていたことを思い返すと、米国の凄さを改めて見直さざるをえない。今、米国と英国では、スーチーに対する態度が180度、異なる。
欧米のマスコミを含めて誤解していることがある。スーチーはスーパー大国の軍門に下った。あるいは米国の手先になったの類だ。実に皮相的な見解である。繰り返すが、スーチーがオバマに頼んだのではない。オバマがスーチーに頼んだのである。だから、二人の間は対等である。両国間の外交関係は対等である。それを英語でパートナーシップと呼ぶ。上でもなく下でもない。
同様のことは中国にも言える。
スーチーは中国ベッタリだ、という声も耳にした。だが違う。スーチーは台湾とも香港とも等距離外交を楽しんでいる。何ら中国に遠慮することはない。卑屈な朝貢外交を続けてきたのは、ミャンマーの軍事政権であった。
軍事政権の悪弊が染み付いた風土では、巨大タンカーがフル・アスターン(バック・ギア)をかけても行き脚がついて、発足後一年半程度では止まらない。
だが、賢明な読者は自分の目でベンガル湾の本流はどちらに流れているか、見極めてほしい。
あるいは本船がどちらに向かっているか、船長になったつもりで、見極めてほしい。
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