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<ミャンマーで今、何が?> Vol.232
2017.10.17

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■スーチーの迅速な作戦!

 ・01: スーチーの誤算

 ・02: まかり間違えば、第二のパレスチナ

 ・03: 国内の民心を統一

 ・04: 電光石火の取り組み

 ・05: スーチーの深読みと凄腕

 ・06: エンタープライズ

 ・07: NCAをご存知だろうか?

 ・公式ツイッター(@magmyanmar1)をはじめました!

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01: スーチーの誤算

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9月19日午前10時、ネイピードのミャンマー第2国際会議センターから、スーチーは充分に吟味したスピーチを英語で行った。

これは明らかに、ヤンゴン駐在の外交団、世界の指導者・友人、そしてジャーナリストが対象であった。だが、その意図は見事に外れた。スーチーは失敗した。スーチーを責める国際的バッシングはますます声高となっている。

このことから、ミャンマーにいて、実に貴重な教訓を学んだ。
あれほど英語の達者なスーチーが、英語を母国語とする連中を、説得できなかったからだ。
相手がヘイトスピーチ・モードにある時は、共通言語でスピーチしても、聞く耳を持たぬということに気付いた。

特に外国語に弱い日本人が、安易に通訳に頼り、通訳の能力を測りもせず、ただペラペラと説明する。そういう光景をよく見かける。
自分の意図する内容が、通訳を通して、果たして相手に充分伝わったかどうか、振り返らない。すなわち、一方通行のみで満足して、目的を果たしたと錯覚する。特に偉くなればなるほどその傾向が強いようだ。帰国してから、どうもコチラの真意が伝わらなかったようだなと、悟る。時すでに遅しである。

だが、スーチーは強運に恵まれている。
海外で失敗した駄賃に、国内でスーチー擁護の旋風を巻き起こしたからだ。
これは日本が国際特許を有する"神風"が吹いたようなものだ。

「同胞兄弟姉妹たちのために、人生を犠牲にして独り闘う"我々の母親 "の傍らに立ち、自分たちはMom Suu(スー母さん)に連帯を表明したい」とミャンマー全土の一般大衆があちこちで自然発生的にスーチー擁護の声を上げ始めた。



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02: まかり間違えば、第二のパレスチナ

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この国の、たった1年半という僅かに芽生えたばかりの新政権に対して、正義感を装って、ラカイン問題を人道主義に基づいて解決しろと叫ぶ、国連の高官、欧米各国、欧米のマスコミ、その尻馬に乗るアジアのマスコミの無分別にも困ったものだ。アジア人としての自覚意識を持ち、自分の頭で考える誇りを捨てないでもらいたい。頭に脳味噌があればの話だが。

それではと欧米諸国に反駁してみたい。第二次世界大戦後、突如発生したイスラエル建国と、領土を剥奪されたパレスチナ難民問題を即座に解決して見せて欲しい。即座が無理なら、スーチー政権と同じ1年半という猶予期間を更に与えてやろうじゃないか。

この根の深い問題は、和平協定を締結しては破棄するの繰り返しだった。米国がシャシャリ出ては、ノーベル平和賞まで受賞した。その根底を探れば、二枚舌、三枚舌を弄した大英帝国に責任があるのは明確だ。その後は欧米社会お得意の国際政治を主導して、この問題を翻弄してきた。

同様に、大英帝国が戦後置き土産としたロヒンギャ問題を、スーチーの責任とすり替えるのは、あまりにも狡猾で卑怯な手法ではないのか? ジャーナリストの看板を掲げるのなら、その辺りを掘り下げて報道すべきである。パレスチナ問題を永遠に解決策のない千日手に持ち込んだ欧米勢力が、ラカイン州のロヒンギャ問題を全く同じ手口で、世界の火薬庫に仕立てようとしている。

当研究所は、ロヒンギャ問題、およびミャンマー国内の武装勢力との国内和平協定(=21世紀パンロン協定)、この二大問題を解決できるのは、スーチー以外には、誰一人不可能とみている。ましてや、最高司令官ミンアウンライン率いる軍人グループには、その解決を図れる叡智を持つ人物はゼロである。それは過去の歴史が証明している。



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03: 国内の民心を統一

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老練な船乗りのようにスーチーは風向きの変化を読み取った。
今度は海外ではない、ミャンマー国民に向けてテレビで語りかけた。
その模様が10月13日(金)GNLM紙第一面に写真入りで出ている。

「我々が大問題に直面している時、その困難さを充分に理解した上で、我が政府と一体となって立ち上がってくれた国民に、私がどれほど感謝しているかをまず最初にお伝えしたい。

国民の支援、国民の信頼、国民の一体感ほど、力強いものはない。
国民の気持ちが一つになれば、どのような困難でも、打ち勝つことができるだろう。

ご承知の通り、ラカイン問題は世界の注目を浴び、のっぴきならぬ問題となってきた。
最初は、昨年10月ラカイン州の辺境警察官駐屯地がテロリストによって襲撃され、続いて今年8月同様の事件が発生し、問題はさらに拡大している。

数多くの国際的非難が我が国に集中している。国際的な意見に耳を傾ける必要がある。
しかし、国内での我々の行いを誰もが充分に理解できぬのと同じく、我が国の平和と発展を強く希求するのは、ミャンマー以外にないのも事実である。だからこそ、国民の気持ちを一つにして、この問題に取り組む必要がある。この国がヤルべきことを、成し遂げようではないか。

国際的非難と言われなき中傷に対し、単に言葉で反駁するのではなく、実際の行動によって世界に示そうではないか。

成すべきことは無数にある。優先順位をつけ、まとめると、まずヤルことは次の三つに絞られる。
第一: 国境を越えバングラデッシュに逃げた人たちの帰国と、人道的支援を効率的に提供したい。

第二: 彼らの再定住と社会復帰を成し遂げる。
第三: 地域への発展を促し、恒久的な平和を確立する。」

この後スーチーは、これら三つの目的を完遂するために、具体的な方策を述べている。
彼女が一国のリーダーとして優れているのは、国際的非難をかわすためにパッチ当ての方策を掲げないことにある。他国では、選挙票に結びつけるため、政治的人気取り政策が多いが、スーチーの目線は全く異なる。
その方策は、バングラデッシュへの逃亡者のみを対象とせずに、ラカイン州に散在する非常に少人数の民族にも同様の恩恵と政策を平等に施すと明言していることにある。



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04: 電光石火の取り組み

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確かにスーチーに対する海外のバッシングは数多くあるが、その一方で、スーチーが"友人"と呼ぶ世界の協力者が多数いることも事実である。それらはNGOであったり、名も無き国際奉仕団であったりする。それらが中央政府または地方政府と協力して数々のプロジェクトや、民間の団体として実行チームを編成して諸問題に取り組んでいる。

スーチーの取り組みは、8月19日の英語スピーチで約束した通り、驚くほどに素早い。
"時間をかけるということは、永遠にできないということであり、それだけ現地の人たちが長く苦しむことになる"とスーチーは語った。それへの取り組みをスーチーは実践している。

だから、ティンチョウ大統領やスーチー自身が委員長を務める委員会もあれば、二人の副大統領を振り分けた委員会もある。国防軍のトップが担当する部会もある。さらには、各国務大臣もそれぞれに所管の任務を持たされている。ラカイン州地方議会の大臣たちも同様の実行委員会または作業委員会を持たされる。この東南アジアの一国で、驚くべきことに、国を挙げての大作戦が、始まった。

その委員会の数と言ったら、無数にあり、その頂点で目を光らせているのが、スーチー率いる国家相談役事務所である。すなわちスーチーの執務室がこの大作戦を直に監督している。そして国家総動員の大プロジェクトの骨格が、スーチー個人のたっての依頼で1年間にわたって現地調査を行ったコフィ・アナン元国連事務総長の報告書である。



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05: スーチーの深読みと凄腕

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新政権発足から1年半が経過した。
その出発時点から、スーチーの深読みを斟酌せずに、政治は素人だからとか、軍部がスーチーを好き勝手にはさせないとか、ミャンマーとは全く関係ない他国の例を引き合いに民進党と同じだよとか、側近に人材を育ててこなかったとか、頭っからネガティブな意見を、巷の評論家は得意になって語っていた。今になってみると、それらの意見が井の中の蛙で、いかに貧弱だったかを思い知らされる。

だが1年半経過した今点検すると、無数に設置された諸委員会には、軍服を着た制服組が何人も組み込まれている。軍事政権がお手盛りで制定した憲法上、議会における制服組の存在を認めざるをえないが、スーチーは徐々に制服組をガバーン(統治)し始めたと、当研究所は注目している。

制服組の混じった諸委員会で、細身のスーチーがチェアパーソン(女性議長)として、ド真ん中に陣取っている映像はTVのニュース番組で度々放映された。そして百花繚乱の新聞業界では日刊紙および週刊のジャーナルがニューススタンドの店頭に所狭しと並んでいる。そこでは中央にドカンと座る女性議長の姿が写真付きで報道されている。後ろ髪はもちろん一輪の花でまとめられている。

これはスーチーが約束した透明性が政府部内、議会でも浸透し始めたことを雄弁に物語っている。軍人が委員長を務める記者発表では地図まで用意して軍人が得意満面で説明している姿も見かけるようになった。そして軍人が内外の記者の質問にも嬉々として答えている。まだギコチナイところもあるが、それは許そう。これらの光景は、スーチーの命令系統に軍人が取り込まれた、あるいは従わされたと読めないだろうか?

そして、スーチーが依頼したコフィ・アナン起用についても、当初は訳の分からぬ批判もあった。だが、今となっては、それがラカイン問題の中心的な解決方針となっている。スーチーの深謀遠慮の凄さである。

最初は頼りなかったNLDを中心とした各大臣・政府高官・地方議会も、スーチーの指示に従い、責任を持たされ、フットワークが軽くなってきた。日本のマスコミの語彙を借用するなら、スーチー・チルドレンが立派に成長し始めたとみれる。
スーチーが英語スピーチで語った、"細部だけに注目するのでなく、全体をも同時に推し進める"というアナロジー(類推法)が確実に効果を上げ始めた。

スーチー・バッシングの大元は、ラカイン問題に関してスーチーが安っぽい(=不勉強な)レポーターの質問に口を閉ざしたことにある。オッチョコチョイのある国の議員のように、スーチーが安易に答えれば、それが火に油を注ぐようなものだ、ということをスーチーは見抜いていた。

スーチーは今、実質上、元首である大統領の上に君臨して、ネイピードの執務室から国務大臣を始めとする政府、そして議会の要人にテキパキと指示、あるいは諮問を持ちかけている。
まるで将軍を自在に操る元帥のようなものだ。

自分の大統領就任を憲法が阻むのであれば、スーチーは大統領の上に君臨すると大見得を切った。スーチーは政治家として自分の唯一の師であるアウンサン将軍との対話を瞑想の中で追求し、アウンサン将軍ならば、今、どういう選択をするかを、至福を皆に分け与えるという仏教の信念に基づき、常に追い求めているのではないだろうか?
それをタンシュエは恐れ、軍人グループも畏怖し、国民一般大衆が鋭敏に感じ取っているのかもしれない。

スーチーは外からのバッシングという禍を転じて国内に福をもたらしたようだ。


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06: エンタープライズ

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スーチーは国民に向けた今回のスピーチの中で、"Union ENTERPRISE for Humanitarian Assistance, Resettlement and Development in Rakhine"という組織を創設すると決意した。
このエンタープライズは研究社の新英和大辞典によれば"冒険的な計画、大仕事"を意味する。

「ラカイン州における人道支援、再定住、発展のための、国を挙げての冒険的大事業」ということになる。
スーチーが当時、過激な仏教徒とイスラム教徒との仁義なき戦いと見られていた最中に、口を開けば、スーチーどころかラカインが、そして新生間もない脆弱な民主国家ミャンマー全体が、巧妙に仕組まれたワナに落ち込んだことであろう。スーチーは、イギリス軍に包囲されたオルレアンの町を救ったジャンヌ・ダルクに匹敵する、選択を行ったことになる。

ここではユニオンを"国を挙げての"と訳したが、字句通りには"連邦政府の"という意味である。
ラカイン問題は、これまでは、ミャンマー北西部の地方問題として取り上げられ、ジャーナリストも、無法地帯の危険地区として足を踏み入れるのを躊躇し、特別の取材網を組織したロイター通信などのウワサ情報を鵜呑みにしてきた。

スーチーはそれを世界のマスコミが見守る中で、堂々と国民大衆の支持を取り付けつつ、連邦政府どころか国家の中心的な緊急課題として全国民の同意を取り付けてしまった。

世界にはマスコミによって祭り上げられたドナルド・トランプ、プーチン、習近平、安倍晋三、テレサ・メイ、などなど優秀な国家リーダーが存在するという。昔は、文化をこよなく愛する国のドゴール大統領からエコノミック・アニマルとして蔑まされた池田勇人がいた。だが、今の国家リーダーはエコノミック・アニマルにプラスしてあまりにもポリティカル・アニマルに成り下がっているような気がする。

だが、135という多様な民族を、それぞれに尊重して遇し、まとめ上げるという難問に挑戦しているスーチーの苦悩を理解できる海外首脳はほとんど居ないのではなかろうか?

もしスーチーが、ラカイン問題に追加して、21世紀のパンロン和平協定を成し遂げたら、ノーベル平和賞を剥奪するのではなく、ノーベル財団は重ねてのノーベル平和賞を検討すべきである、というのが当研究所のつましい結論である。



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07: NCAをご存知だろうか?

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ミャンマーのお役人、マスコミは何でもかんでも頭文字をまとめて略語を作ってしまう。
これは金銭登録機の名称ではない。National Ceasefire Agreement(全国停戦協定)の略語である。
これにミャンマー全土の反体制武装勢力がすべて武器を置き中央政府軍に降り署名すれば、21世紀のパンロン和平協定は実現する。

10月16日(月)GNLM紙第一面に、ティンチョウ大統領・スーチー国家相談役を中心に現職両副大統領・前両副大統領、現職両国会議長を両脇に侍らせ、さらには最高裁判所長官、国防軍最高司令官、弾劾裁判所長官、少数民族武装勢力各代表、などなど錚々たる大物がズラリと前列に並び、二列目、三列目にも和平協定署名に立ち会った国際社会外交団の面々総勢70名以上が勢ぞろいした公式の記念写真が迫力いっぱいに掲載された。

これはNCA(全国停戦協定)の第2回(第2年目)記念式典を祝う公式写真である。
祝うと言っても、NCAが締結した訳ではない。ミャンマー全土の少数民族武装勢力すべてが参加した訳でもない。スーチーが外交団に英語スピーチで説明した通り、それは粘り強さを要求する長い長い道のりが前途に横たわっている。その不完全なテーブルに着席した第一回目の会合を記念する式典である。

スーチーが説明した通り、テーブルに着席しても、中央政府代表・各武装勢力代表、双方が不信感を抱いて思い思いのことを主張する。しばらく冷却期間が必要だ。日取りと場所を変える。だが、双方が希求するのは地域の恒久平和ということは、基本原則として認めざるをえない。スーチーは議長として、わだかまりも、不平不満も吐き出せと全体会議でけしかける。お互いが腹の底から納得するまで、討議しろと、議長として双方に迫る。決して合意を早急には求めない。

その内に一つ二つと双方で合意できる案件を見出す。それだけでも一歩前進だ。それを書面に書きつける。双方持ち帰って、文面を目を凝らして精査する。小さな前進を協定書として、双方で署名する。
もちろんこれらの交渉は、各少数民族ごとに分科会・作業部会を何層にもレベルを設けて積み重ねていく。それがスーチーの手法である。その手法が徐々に浸透して、ミャンマー全土レベルで受け入れられる。討議事項が合意に至るのはまだまだ先の話だが、交渉のスタイルは少なくとも受け入れられた。

スーチーの手法は、まさに20世紀のパンロン和平協定を成し遂げたアウンサン将軍の手法に、そっくりだ。

これに類似したスーチー・マジックは、別の方面でも垣間見えるが、それは次回以降にお伝えしたい。



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