******************************

<ミャンマーで今、何が?> Vol.201
2016.09.27

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

******************************

━━━━━━━━━━━━━━━━━ MENU ━━━━━━━━━━━━━━━

 ・01: スーチーの幻の国連演説

 ・02: スーチーはかく語りき(Also sprach Suu Kyi)

 ・03:スーチーはいま、何を語るのか?

 ・04: スーチーは丸投げした

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



======================================

01: スーチーの幻の国連演説

======================================


9月21日付GNLM紙上では、ミャンマー時間同日夜10時頃MRTVー4でライブ中継と案内があった。友人の好意でTV画面の真ん前に陣取り、真夜中過ぎまで待機した。が、画面には国連総会の議場もスーチーも現れなかった。

国連総会は、ご承知の通り、毎年9月の第3火曜日からスタートし、終了日は各会期のはじめに設定される。開幕時には各国首脳による一般討論演説が行われ、持ち時間は一人15分以内。だが、元気な頃のキューバのカストロさんは、常識など型破りで、4時間30分の大演説をぶっている。マニュアル首脳ではできない度胸だ。

今年第71回の総会では42名の首脳によるスピーチが予定され、その順番は一番目がブラジル、二番目の米国が慣例とされ、三番目以降は国連事務局が決定する。

日本の政治家は歴史から学ばず、お粗末な失言を繰り返している。その上、演説は不得手だ。特に晴れの国際舞台でそれが目立つ。日本語の基礎を知らない小学生に英語を強制する前に、どうして国際舞台での演説を鍛えるという自覚が政治家にないのだろう。一国のリーダーが国連の晴れ舞台で世界中の若者を奮い立たせ、国連の議場を唸らせれば、総立ちの拍手喝采も夢ではない。その実例をTV実況中継で見れば、子供たちは大きな夢を膨らませ、将来への大志を抱くかもしれない。

ビル・クリントンは若い頃JF・ケネディの演説に魅惑された。B・オバマはビル・クリントンの演説に鼓舞された。そして二人は米国の大統領にまで上り詰めた。二世議員の"村社会"ではありえないエピソードである。

結局、スーチーの演説は 9月23日のGNLM紙上で手に入れた。



======================================

02: スーチーはかく語りき(Also sprach Suu Kyi)

======================================



二日遅れではあるが、その内容を吟味してみた。

ミャンマー初の民間政府代表が国連総会の演壇に登場するのは50年振り、いやそれ以上となる。

「70年前に国連が創設された時の精神と目標は、新しいミャンマー政府を勇気付けてくれる。この組織の強固さは、国連憲章に明示されたその普遍性と正当性、そして国際法を基本とする精神にある」とスーチーは語りはじめた。

「人のなすことには不完全さと限度がある。それだけに、もっと平和に、そしてもっと繁栄した世界にという私たちの希望の受け皿が国連であり、すべての人類にとって、より優しく慈悲深い我が家となる」と続け、「ミャンマーは新たに独立したビルマ連邦として、1948年に国連に加盟した。正義に基づき、平和と平等、そして繁栄を成し遂げることは人類の英知で可能との信念を持ち、それぞれの国家が戦争の荒廃から立ち上がり、新国家づくりを目指した。」

「ミャンマーは多くの国民の支持を受け、夢と希望に満ちた国づくりを、今一度、決意した。この夢と希望は創設時の国連の精神と反響し合うものである。」

そうしてスーチーは、欧米社会のマスコミが、そしてチープな定見のないマスコミが繰り返してきた、ロヒンジャーの問題を、堂々と国連の演壇で語り始めた。背筋を伸ばしたこのスリムな女性が、聴衆の目をまっすぐに見据える。鋭い切っ先を舌鋒という武器に置きかえて、口頭試合における正眼の構えである。決して逃げない。世界のマスコミが注目する中で、伝家の宝刀を抜いた。古武士の風格さえある。

これまでロヒンジャー問題では、内外の記者に、徹底的に沈黙を守ってきた。スーチーは政治家として失格だとか、これがスーチーの限界だと言われてきた。卑怯だとも罵られてきた。



======================================

03: スーチーはいま、何を語るのか?

======================================


テインセイン前大統領は、単純明快に、ロヒンジャーは135の少数民族+大多数のビルマ族=合計136民族には属さないミャンマー国民ではないと断言してきた。なぜなら、ロヒンジャーは北西部国境から侵入したベンガリ族であり、経済難民であると結論付けた。そして軍による熾烈な殺戮を繰り返し、人族主義を標榜する仏教徒を扇動してムスレム(回教徒)に挑ませ、貧困難民部落にガソリンをまき、点灯し、多くの逃げ場のない生活に困窮した難民を焼却していった。

この結果、大量のボートピープルが、所帯道具を抱え、ひもじさに泣き叫ぶ子供たちを何人も引き連れ、なけなしの金目の物をすべてむしり取られて、オンボロの漁船にギッシリと詰め込まれ、当てもない航海に脱出する。命がけの船出だ。だが、難民部落で焼死するよりはマシだ。というよりも選択肢はないのだ。

この話は、メルマガの読者にも、発行者にも、何一つ関係のない話である。だから、スーチーに変わり半年も経つのに、何ひとつ改善されないと、新政権を非難するのはアナタの勝手である。

テインセイン大統領のように、仏教徒側につき、旗色を鮮明にすればコトは簡単だ。国民の大多数である仏教徒を取り込めば総選挙に勝てると読んでいた。スーチーには味方と思っていた国際世論が刃を突き付けてくる。お前は民主主義の旗手で、正義の味方ではなかったのかと。なぜ声を上げぬ。なぜ沈黙を守る。仏教徒の票田を失うのが、それほど怖いのかと。

スーチーは誰からも援助を得られず、孤独に突き落とされた時、瞑想の世界に入っていった。本人は「そんなに簡単なことではなかった」と白状している。ウー・パンディタ師の講話本を手に入れてから彼女は前進した。正しい瞑想のやり方が分かってきて、より多くの時間をそれに費やすようになった。瞑想の喜びを知れば知るほど、長い時間を瞑想して過ごそうという気になったと後に述べている。

いま、スーチーに会見を求める政治家・経済人の中で、経済発展ではない、安い労働力の確保でもない、人間の生き方について、人類の恒久的な平和について、スーチーと向き合って話し合える、世界の指導者は、どれほどいるだろう?

このボートピープルについては、このメルマガで何度か取り上げた。これは地球の片隅のベンガル湾だけの問題ではない。地球の反対側の地中海でも発生している人類の末期症状である。この地球文明が生み出した地獄絵が、東洋と西洋の、両地域で同時に進行している。

これはミャンマー一国で片付く問題ではない。バングラ一国で片付く問題ではない。両国が話し合いで片付けられる問題でもない。これをスーチー国家相談役とハシナ首相が解決できても、地中海問題の解決にはならない。これは現代文明が生み出したこのプラネットの大異変であるからだ。

インドのさらに西方アフガニスタン・パキスタン・イランからの難民、そして地中海の東岸パレスチナ・シリアからの難民、アフリカ地中海沿岸あるいはサハラ砂漠以南からの難民、それらが地獄絵のように地中海に呑み込まれていく。死んでも地獄、生きても地獄だが、生き延びた難民は、EU諸国、イギリス・スウェーデン・ドイツを目指す。だが、通過国の人々は急造の高い壁を作り通せん坊をする。デモ鎮圧部隊を並べて高圧のウォーターガンで吹き飛ばす。欧州諸国は黒死病を見るように大量避難民を恐怖の目で見る。

スーチーが説いた「恐怖からの自由」の"恐怖"が、文盲率の少ない、教育レベルの高いと言われる欧州各国で、猛威をふるって吹き荒れている。

旧約聖書を紐解けば、そこには世界をさまよったユダヤ人の物語が語られている。アンネ・フランクの日記からも歴史は学べる。黒死病のように嫌われたユダヤ人が、ジョージ・ソロスのように世界の金融界をいま牛耳っている。ウォール街がその証拠である。スピルバーグのように世界のエンタメ業界をいま牛耳っている。ハリウッドのみならずNYの五番街を歩けば、それを実感できるだろう。ロイターのように世界のジャーナリズム業界をいま牛耳っている。

いま解決すべき難問は何なのか、老獪に育ったスーチーには見えているような気がする。
それは自分の父親を殺された英国から学び、非暴力のガンジーから学び、仏陀から学び、母親のドー・キンチーから学び、ウー・パンディタ師から学び、いまのスーチーを作り上げていったものと思われる。



======================================

04: スーチーは丸投げした

======================================


国際入札の土木作業のように、スーチーは自分でシロクロをつけずに、スーチーはこの問題を丸投げしてしまった。

スーチーは国連の壇上で語る。

新政権は発足すると間もなく、ラカイン州の平和と安定、そして発展を遂行するために、中央委員会を設置した。そして国連諸機関および国際的機関に人道的な支援と協力を求めた。さらには、新政府はラカイン問題の助言委員会を設置して、前の国連事務総長であるコフィ・アナン博士をその議長に指名した。

丸投げした相手はコフィ・アナンであった。2001年に国連とアナン個人にノーベル平和賞が授与されている。すなわちスーチーとアナンはノーベル賞仲間である。ということは、全世界に知的な友人のネットワークを確立し、世界の紛争ごとの仲介のプロであるアナン博士を国連とともに自国ミャンマーの最大難問解決に雇用したことになる。

いま世界の首脳で、これほどの知恵を出せる策士はいるだろうか。国連とアナン博士を同時に引き出せる大物はいるだろうか。だから、東西南北研究所では、スーチーは老獪だと言っているのである。

当研究所の資料室を覗いて見た。つい最近のことだ。
お馴染み9月9日付GNLM紙第一面にその写真は掲載されていた。コフィ・アナンとティン・チョウ大統領がネイピードの大統領府で会談している。その前後の情報も洗ってみた。コフィ・アナン調査団はすでにラカイン州入りし、精力的に聴取を開始している。

スーチーは単に丸投げではなかった。すでにできる限りの手を打っていたのだ。しかも、最適の人物を選別して。蛇足で付け加えると、自分の足では調査せず、第二次、第三次情報で踊らされる、ゴシップ・ジャーナリズムは相手にせず、沈黙を守り、スーチーだから打てる手を模索してきたようだ。
*

正直、馴れないiPadによる原稿書きは肩がこる、そして先ほどは書き上げたばかりの原稿が保存されずに消えてしまった。慌てて書き直したところだ。ここで今日のエネルギーは切れてしまった。

尻切れとんぼだが、ここでいったん終了し、あとは次回とさせてください。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ご意見、ご感想、ご要望をお待ちしております!
 magmyanmar@fis-net.co.jp 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


=================================
- ご注意 -
このメールマガジンは情報提供を目的としたものであります。
なお、内容につきましては正確であるよう最善を尽くしておりますが、その内容
の正確性を保証するものではなく、内容についての一切の責任を負うものではあ
りません。
=================================


▽このメールマガジンは等幅フォントでご覧ください
 表示がズレる場合はお使いのメールソフトのフォントの設定をご確認下さい
 ※MS Outlook Expressの場合
 「表示→文字のサイズ」を選択、「等幅」にチェック


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※「ミャンマーは今?」の全文または一部の文章をホームページ、メーリングリ
スト、ニュースグループまたは他のメディア、社内メーリングリスト、社内掲示
板等への無断転載を禁止します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※登録解除については下記のページからおこなえます。
 ○購読をキャンセル: http://www.fis-net.co.jp/myanmar/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 発行元:ミャンマーメールマガジン事務局( magmyanmar@fis-net.co.jp )
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━