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<ミャンマーで今、何が?> Vol.181
2016.02.10

http://www.fis-net.co.jp/Myanmar

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■スーチーという人物(その一)

 ・01: スーチーという人物(その一)

 ・02:NLDと軍部の二度目の決闘

 ・03:もうひとつのものの見方

 ・04:スーチーという人物

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01:NLDは大統領候補者選定を急がない

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2月4日付MT紙第一面に「スーチーNLD党首は大統領候補者選びを急がず」と大見出しが踊り、詳細は第二面に続いている。

「NLDは大統領の候補者をいつ明らかにするのか?」との報道陣の質問に、スーチー党首は「大統領指名の期限は3月までとなっている。したがって急ぐ必要はない。時至れば、お話しましょう。」と答えている。

先週の時点では、連邦議会の開催は今週に予定されており、大統領と二人の副大統領の候補者発表が誰になるのか期待が高まっていた。だが、スーチー党首の口は堅い。そこで、報道陣の間では憶測が渦を巻いている。

ある政治評論家は、現状を次のように読み解く。

現行憲法第59(f)条によってスーチー党首は大統領には就任できない。だが、憲法を一時中断することで、スーチー党首には大統領に就任できる可能性がでてくる。
だが、一時中断は憲法改正と見做される。まずは議会内で賛同を得て、国民投票に掛ける必要がある。このためには、是非とも25%を占める軍人議席の一角を切り崩す必要がある。

そのためのハードな交渉が現在、ミンアウンライン国軍最高司令官と続行中で、国軍側は憲法は堅持すべきもので、いかなる改正も認めないと公言して、合意に至っていない。それが上記のスーチー発言ではないのかという見解だ。



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02:NLDと軍部の二度目の決闘

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2月9日付GNLM紙第一面の大見出しは上記の通りだ。

総選挙で選出された新議員による国会は進行中で、上院・下院の議長および副議長もすでに決定された。そこで、次期政権の新大統領および新副大統領を選出するための最終日は3月17日と設定された。その日までに、議会の多数を占めるNLDは大統領候補を指名せねばならない。

スーチー自身が大統領候補となることを現在画策しているようだが、その戦略が3月17日までに国防軍から同意されない限り、一昔前の軍事政権とまったく同じ手法を横取りし、名目上の大統領を代打で指名し、スーチー自身はタンシュエと同じく、政治の舞台の後方から、この大統領を100%操るという手法である。

“スーチーには政治経験がない”と不安視する素人評論家もいるが、どうしてどうして彼女はしたたかで粘り強い意志強固な熟成した政治家である。

この週刊メルマガが登場したころ、すなわち2012年7月ころは、今は先鋭化しているジャーナル類もスーチーの写真を第一面に大きく掲載することをためらっていた。国父として慕われるアウンサン将軍とのシナジー効果で、父親・娘の写真を並べて掲載するなど、当局を刺激すると恐れていた。

臆病な国民たちは、路上喫茶でスーチーの“ス”の字を秘密警察に盗聴されることを極度に恐れて、辺りを見回した上で、ほとんど聞こえない小声で“ザ・レディ”と漏らしたものだ。

彼女の仲間たち、支持者、学生運動家たちは、次々と独房に放り込まれ、精神に異常をきたすほどの拷問を受け、そして耐え、生き延びてきた。そして今、やっと、野党NLDが総選挙で大勝し、来月末には、その新大統領が誕生するところまできた。一応軍部は、スーチーの新政権を受入れ、その移管に協力するという公言している。だが、簡単にバトンタッチするような相手ではない。

この状況下で、“スーチーに政治経験がない”と発言するのは、ビルマあるいはミャンマーの近代史、現在史を知らないと素人評論家である。



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03:もうひとつのものの見方

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だから、スーチー党首が言うように、このメルマガも特別な政治ネタが出てこない限り、3月17日までは開店閉業としたい。

だが、アウンサンスーチー独特の資質を探るのに、政治経験ではなく、別の観点から掘り下げるのも許されるのでは。それは彼女の70年という人生経験であり、その間の読書経験の重みである。それにどこまで挑戦できるか、試してみたい。 



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04:スーチーという人物

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アウンサンスーチーの名前は、父親(アウンサン)、父方の祖母(スー)、母親(キンチー)という三人の名前を豪勢に受け継いだものである。

風貌が父親似といわれる長兄のアウンサンウーは政治の世界を嫌い、さっさとアメリカの市民権を取得して移住して行った。次兄のアウンサンリンはスーチーがもっとも慕っていたといわれるが幼くして自宅の池で溺死した。そしてスーチーにはアウンサンチッという名前の妹がいたのだが、わずか数日でこの世を去った。この4人の兄・姉妹である。

父親アウンサンが暗殺されたとき、スーチーはわずかに二歳一ヶ月。その面影はほとんど記憶にないはずだ。だが、アウンサン将軍の部下など、周りの人たちから繰り返し聞かされ、母親の躾もあり、スーチーは父親の印象を強く心に刻み、育っていったようだ。その4人の兄妹の中で、父親の意思を引継ぐのは自分しかいないと責任感に似た感情が芽生えたのでは。

アウンサン将軍の貴重な資料が残されているのは、外務省のアーカイブであり、図書館であろう。スーチーはその後、父親の面影を追い求めるように、インド、英国、日本のアーカイブ・図書館で父親の足跡を辿る。そして、さらに父親の印象を強く心に刻印していったものと思われる。それに加えて、自宅軟禁時代の膨大な読書量は、いまどきの経済発展しか頭にない、ヤワな先進国の政治家をはるかに凌駕するモノがある。東西南北研究所は、アウンサンスーチーには、海外の投資家・ビジネスマンが期待する経済発展よりも、藤原正彦が語る一国の指導者としての教養の厚さと深さに期待したい。

スーチーの母親ドー・キンチーの父親はクリスチャンだったという。そして長じて、スーチーは英国人のチベット学者マイケル・アリスと結婚した。だが、スーチーは自身がクリスチャンに改宗することは絶対になかった。それどころか、むしろ仏教の真髄に深く深く傾倒していった。

そこのところを何一つ考慮せずに、軍事政権は表面的に外国人と結婚したとして、自分たちが明文化した憲法でスーチーの大統領を就任を阻止している。そして夫マイケル・アリスの没後、アレキサンダーとキムという二人の息子たちのビルマ国籍を成人前に強制的に剥奪して、結果的に英国籍に追い込み、息子たちが外国籍であるという理由で、スーチーの大統領就任を阻止している。

軍事政権の論法で、本当に憲法というものが重要であるのなら、1990年の総選挙で奇跡の大勝利を勝ち取ったNLDに、どうして憲法にしたがい政権を移譲しなかったのかを弾劾すべきではないのか。それらを度外視して、いまどきのマスコミが、欧米のジャーナリストを含めて、もちろん日本の新聞も含めて、スーチーは憲法上大統領になれないと、軍事政権を代弁するようなセリフを吐くことに当研究所は憤りを感じる。

スーチーの手足を達磨のように切断しておいて、スーチーには政治的経験がないとは何たることを抜かすとばかりに、お届けしたいのが、来週のメルマガである。

その裏づけ調査ははじまったばかりで、来週まで、もう少し時間をいただきたい。




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