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<ミャンマーで今、何が?> Vol.175
2015.12.24
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■今週は休刊としたいところです
・01: 今週のメルマガは休刊
・02:クリスマス・ソングの世界制覇
・03:南の島に雪が降る
・04:深夜劇場
・05:アラビアのロレンス
・06:鈴木大佐の謀略地図
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01:今週のメルマガは休刊
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ミャンマーでも時の流れは早い。国民総選挙の年といわれていた2015年も、あと2日間でクリスマスだ。そして一気に年の瀬に突入する。
だが、慎重な姿勢を崩さないスーチー党首のお陰で、海外メディアも、国内メディアも攻め倦んでいるようだ。テインセイン大統領あるいはミンアウンライン最高司令官、およびタンシュエ元上級将軍との個別会談を総括記事で取上げているが、新鮮味のある中味は何一つ出てこない。すなわちニュースがないということだ。
そこで今週の週刊メルマガは開店休業としたい。ご用とお急ぎの方はクリックして「ミャンマーで今、何が?」はここで終了願います。
だが、忙しい巷を低く見て、人生死ぬほど退屈だと嘆かれる読者もおられるかもしれない。ヤンゴンのあばら屋で、時間だけは世界でもっともリッチだと自負する当方としては、そういう方を今週はお相手したい。
普通のオフィスが営業する日中は停電、人が寝静まった真夜中に電気が回復するという、世界で最先端の省エネ国家を目指してきた軍事政権が消えてしまうことに、いくばくかの寂しさを感じる。
ここは熱帯の国である。日中はぐうたらに過ごし、体力の温存を図る。そして、真夜中に仕事を片付ける。これほど効果的なことはない。真夜中に友人が訪ねてきたり、電話がかかることはめったにない。もちろんテレビも、冷蔵庫もない。むかしはWiFiもなかった。集中力を鍛えるのには理想的な環境だった。
情報の氾濫は、人間にストレスを与え病気に陥る、と聞いた。情報は基本的に目から入ってくる。だから、休養が必要なときは人は目を瞑る。犬の嗅覚は情報のアンテナで、人の何十倍も鋭い。だから、犬が眠るときは鼻が乾いている、と聞いた。情報をシャットアウトするためである。
ニュースは東西南北から飛び込んでくる。そして、ニュースがないときは埋草で誤魔化さずに休刊にするのが、正統なヤリ方ではないだろうか。
今週も、いつもの通り真夜中に起床するが、問わず語りの独り言でもはじめよう。
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02:クリスマス・ソングの世界制覇
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ミャンマーは仏教国だと人は言う。だが、どうしてどうして、12月に入ると様相はガラリと変わる。この東西南北研究所にも、この季節になると、クリスチャンの友人から問い合わせが入る。今年も良いかと?もちろん大歓迎だ。日取りと時間、そして人数が確定する。夜の8時ごろ、全員で25名だという。
助っ人の女性二人頼んで午後から炊き出し、そして発泡スチロールに人数分の晩御飯を準備した。日本から到着したばかりの友人もクッキーとジュースを大量に用意して急遽参加してくれた。
そしてぴったり8時に30名の少年・少女たちが到着。さっそくギターとタンバリンが鳴り響き、“Fexiz Navidad”“ We wish you a Merry Chrismas”とクリスマス・キャロルが次から次にメドレーとなって狭い部屋に鳴り響く。ヤンゴンにあるカチン州の教会の聖歌隊が毎年来てくれる。クリスマスにはまだ2週間もあるが、スケジュールがいっぱいで、今日も5ヵ所のお座敷をこなしてきたという。
男性リーダーが、多分ビルマ語で主への祈りを捧げる。そして最後に“アーメン!”、全員が頭を垂れる。ヤンゴン少年合唱団の天使の歌声が再び心を洗ってくれる。
助っ人の女性陣は5人分足らないと汗だくだったが、友人からは女性リーダーにクッキー大缶の贈呈式、そして子供たちにはジュースを一本ずつ。東西南北研究所からはわずかばかりのお捻りを。
歴史的にとらえると、悪魔は常に海からやってきたとか、耶蘇教やイエズス会の陰謀などと唱える人もいるが、東西南北研究所は名前の通り、東西南北の宗教・人種・皮膚の色で、偏見をつくらずに等距離で接する。
立花隆は、キリスト教は成功したカルトと見なすが、その成功の秘密はこの音楽にあるような気がする。ギリシャ語での神を賛美する素朴な歌からはじまり、グレゴリオ賛美歌、アメリカにわたって黒人のゴスペル、そしてディズニーの漫画映画を経由して、クリスマスソングはヤンゴンのショッピング・モールでも欠かせない。商業最優先の時代では、北欧のセント・ニコラスや赤鼻のトナカイまで動員して、熱帯圏にまで押しかけてくる。どうやら世界制覇を成し遂げたようだ。
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03:南の島に雪が降る
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それだけではない。クリスマス・イブには毎年カトリック教徒の友人からお誘いがかかる。れっきとしたミャンマー人だが、あのルネッサンスを成し遂げた偉大なイタリアの血が混じっている。その巨体で“オーソレミオ”を歌いはじめると、天井のシャンデリアがカタカタ鳴り、窓ガラスが震える。そしてエンディングはいつの間にかプレスリーの“イッツ・ナウ・オア・ネバー”に変わっている。彼の出自はベニスなのかジェノアかも不明で、ひょっとしたらシチリアのマフィアかもしれない。だから、飲むにしたがい彼の先祖はマルコ・ポーロになったり、コロンブスになったり、ときにはゴッドファーザーにもなる。
彼はヤンゴンでは成功したビジネスマンのひとりだろう。そのリビング・ルームは20人だろうが、30人だろうが、大騒ぎしても近所迷惑になるようなチャチなものではない。ここに招待されるのは、青少年時代の同窓生たちだ。ほとんどが仏教徒のミャンマー人だが、女性も男性も英語が達者で、今宵はみなクリスチャンに転んで、飲んで歌ってまた飲んでと聖誕祭を大いに楽しむ。
彼との日程の調整で毎年クリスマス戦争を引起す船乗りの友人もクリスチャンだ。鬱蒼とした森の中にある広大な一軒家に住んでいる。ここも乗用車が何台駐車しようが、何十人で大合唱しようが、ピアノ殺人など無縁の世界である。ギターの弾き語りの名手で、とある有名レストランに行くと、必ずステージに引っ張りあげられ、リクエストが入るほどである。彼はカレン族で、多数派のビルマ人とはまた違う話を聞かせてくれる。
それにしてもクリスチャンは歌好きだと感心する。好きなだけにギターもピアノもプロ並みに弾きこなす。乗船でのヤンゴン不在を除いて毎年招待してくれる。前日の晩餐会と違い、こちらは朝から深夜までのマラソン・パーティとなるはずだ。なかには、立派なキーボード、バンジョー、ウクレレを車に積み込んでくる友人もいれば、日本演歌集を持参する輩もいる。こちとらは、酒さえ飲めれば、無節操に隠れキリシタンとなり、どこにでも顔を出す。そしてモロトフ・カクテル以外は何でも飲み干す。今年も、彼らとのクリスマス・パーティーが楽しみである。
この国は本当に仏教国なのであろうか?この垣根のないフュージョンの世界に、堅苦しさのない魅力を感じる。決してグローバライゼイションではない。各個性がそれぞれに生きているところにコスモポリタンというよりも、むしろボヘミアンの味がある。
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04:深夜劇場
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こうやって浮かれて騒ぐのもよし。だが、あばら屋に戻ると、深夜、静かに思い出す物語がある。一生を旅から旅に過ごし、家庭をついに持たなかったアンデルセンの名作「マッチ売りの少女」である。そして同時代の作家ディケンズの「クリスマス・キャロル」もそうだ。
あの時代は、デンマークもイギリスも本当に貧しかった。もちろん日本も貧しかった。それだけに、マッチ一本のかすかな灯りで、切ないほどの温かさを感じ取ることができる。
今は、活字離れの時代だという。だが、今の時代はこれらの名作がDVDの映画やアニメーションでも手軽に楽しめる。これまでに読まなかった古典・名作でも、DVDでの鑑賞はまた格別の楽しみがある。例えば、ハーマン・メルビルの古典で、グレゴリー・ペック主演の「モビー・ディック=白鯨」からは、喫茶店“スターバックス”の語源がここにあったのかと薀蓄を学べるし、同時に、北米の漁港はほとんどが捕鯨基地だったことも学べる。その漁法を学んだ、遅れてきた日本はグリーンピースからお叱りを受ける。
話は逸れてしまったが、DVDのコレクションをチェックしているうちに、久しぶりに「アラビアのロレンス」を見つけた。時間はたっぷりある。深夜劇場の開幕だ。
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05:アラビアのロレンス
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最近ミャンマー入りする日本人のほとんどは、大雑把に東経90-140度をカバーする東南アジアの地図を頭に描いていることだろう。すなわちミャンマーから東の日本までの地域である。だが、ミャンマーには中近東からもインドからも大勢訪ねてくる。むしろ、歴史的にはこちらとの交流が古くて長い。彼らは逆に、ミャンマーから西方を視野に入れる。それらは小アジアといわれるトルコの辺りまで、さらにはシルクロードの終点ローマまでを地図感覚として頭に描く。
ミャンマーの人たちは、その両者とも付き合ってきた。それに地球の裏側の欧米人がプラスされる。
何を言いたいのかというと、ミャンマー人は、日本・中国・韓国だけでもない、インド人・バングラデッシュ・UAEだけでもない、日本よりもはるかにコスモポリタン的な付き合いがあり、宗教も、仏教に限らず、キリスト教も、そしてイスラム教も、日本人よりもはるかに身近に感じている。
そこで、深夜劇場となり、「アラビアのロレンス」となる。
貴族出身で、オックスフォード大学で考古学を修め、英国の情報将校となったT.E.ロレンスは1935年にオートバイ事故で死亡。セントポール大聖堂でその追悼記念式典が行われた。そこが映画の導入部分だが、謎に包まれた伝説のロレンスには毀誉褒貶が生涯ついて回った。
砂漠というよりも、延々と続く砂の海原に風が吹きぬけると、砂丘の表面から微粒子の砂が霧のように湧き上がる。モーリス・ヤーレの印象的で壮大なテーマ曲が全編を通して流れる。ピーター・オトゥールが主人公を演じ、オマー・シェリフ、アンソニー・クウィン、アレック・ギネス、ジャック・ホーキンス、アーサー・ケネディ、ホセ・ファーラなどなどの豪華メンバーが脇を固める。鬼才デビッド・リーンが監督を務め、映画史上においても最高傑作の作品の一つに数えられている。10部門でノミネートされ、7部門でオスカー賞をかっさらった。1962年の作品である。
ロレンスはシリア、パレスチナ、そしてユーフラテス川流域を調査・発掘、陸軍省の依頼でシナイ半島を偵察中に第一次世界大戦が勃発。オスマン帝国の参戦後、エジプトでアラブ担当の情報将校となった。イギリスがエジプトから中東に掛けてと、クリスマス・ケーキを切り取るように、世界制覇の謀略を勝手気ままにやっていたころの話である。
だが、ロレンスは官僚化したイギリス陸軍の将校と違い、その謀略計画には意表を突くものがあった。砂漠の民ベドウィン族の習俗を見につけ、族長ファイサル以下の信頼を得、彼らを完全に味方につける。そしてベドウィン族ですら不可能としたネフード砂漠を50名のラクダ部隊で渡りきり、難攻不落とされたオスマン帝国のアカバ湾基地を予想もしない後方から襲い陥落させる。オスマン帝国の砲台はすべて海上に向けられ、後背地の砂漠地帯は、まったくの無防備であった。
今時の安っぽいハリウッド映画と違い、マシンガンの乱射だけではなく、映像が美しく、会話の端々まで英国人の皮肉が効いている。官僚化した英国軍将校を小ばかにした横柄な態度、部族長の歓心を引く会話のヤリトリ、部下のサーバントに対する思いやり、不屈の忍耐強さ、それを青い目のピーター・オトゥールがニヒルに物静かに演じる。
だが、ロレンスのすごさは、敵であるオスマントルコも、味方の英国軍も、そしてラクダの民であるベドウィン族までもが、絶対に不可能だとする死のネフード砂漠越えをやり遂げたことにある。
これこそが、正に鈴木敬司大佐が、バンコクで結成されたビルマ独立義勇軍兵士を引き連れて、ビルマの最南端のコートン、ダウェー、モーラミンを陥落させた謀略作戦そっくりである。
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06:鈴木大佐の謀略地図
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ここで歴史を少しばかり整理しておくと、太平洋戦争突入となった真珠湾攻撃が1941年12月7日、バンコクでのビルマ独立義勇軍結成が1941年12月28日、ビルマへの4手に別れての攻撃侵略が12月末から1月にかけてのことであった。そして、ラングーン陥落が3月始めである。
デビッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」は1962年の作品である。だから、鈴木敬司大佐も、その参謀として付き従ったアウンサンも当然この映画は見ていない。
ビルマへの侵略を鈴木敬司大佐は隣国タイから攻めていった。だが、その侵略経路は単純な南部攻略ではない。マレー半島の付け根に当たるビルマとタイの国境地帯は道無き山岳地帯と、鬱蒼とした密林、そして逆巻く激流によって分断されている。したがって、ビルマの地勢を知れば知るほど、東西方向への進軍は常識的には不可能な作戦である。
イギリスの植民地軍も、常識派の日本軍も、そして地元のビルマ人も、そう考えていた。逆に鈴木機関長だけが、活路はここにしかないと見ていた。ロレンスと同じく、常識の裏をかいたのである。
このグランド・デザインに従って鈴木機関長は、南機関員を国境の要所要所に配置し、進軍のための地勢地図を綿密に、苦労して作りあげた。その作戦地図を鈴木は日本軍に提出し、何ら土地勘のない日本軍はそのルートどおりに進軍して、予期せぬ成果を挙げた。特に山岳地帯・ジャングル内での進軍スピードの速さの陰には、多数のビルマ愛国青年たちによる、クーリーとしての運搬作業があるのだが、驕り高ぶった日本軍は、それをまったく斟酌しない。
当時の、日本軍参謀本部には、この鈴木敬司を除いてビルマの植民地行政、半植民地運動などの事情を知る謀略将校はひとりもいなかった。したがって、3ヶ月足らずのスピード進軍で、大量の武器弾薬を輸送し、ラングーンを陥落させた功績は鈴木敬司大佐に帰すべきであろう。
あの当時から、鈴木大佐をアラビアのロレンスに見立てる風評が流れており、鈴木大佐自身がその気になっていたフシがある。まだ、デビッド・リーン監督の映画が封切られる前にである。ということは、当時の知識人、あるいは情報将校の間では、ロレンスの伝説は知れ渡っていたのだろう。アウンサンの愛読書のひとつも、このアラビアのロレンスである。
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