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<ミャンマーで今、何が?> Vol.122
2014.11.26
http://www.fis-net.co.jp/Myanmar
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■憲法改正と総選挙
・01:先ずは下院議長が総選挙前の憲法改正に否定的な意見
・02:続いて、国防軍最高司令官が2008年憲法を支持
・03:パドック情報
・04:テインセイン大統領もインタビューに応じていた
・05:米国から学ぶこと
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ミャンマーが主催した11月のアセアン会議が終了し、2014年も残りあと一ヶ月となった。そしてマスコミの目は早くも、2015年11月の総選挙、そして大統領選挙に注がれている。だが、欧米のマスコミでは、旧守派が巻き戻しを図っていると大騒ぎをしている。
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01:先ずは下院議長が総選挙前の憲法改正に否定的な意見
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シュエマン下院議長が11月18日の記者会見で、来年の総選挙前に2008年に制定された憲法のいかなる変更もありえないと明言した。
下院議長によれば、憲法改正についてはまずは2015年5月に行われる国民投票で承認を得る必要があるが、議会での投票は2015年11月または12月に予定される総選挙の前に行われることは ありえないとしている。
憲法改正は2016年初めに召集される新たに選出される国会議員によって投票が行われると同議長は語った。
このことで、2015年の選挙をボイコットする政党が出ることにならないかと質問された議長は、それは彼らが決めることで、それは彼らの自由だと答えた。
この議長コメントは、10月22日に憲法改正実行委員会が議会に提出した116頁にわたる改正案をめぐるホットな議論の最中に出てきた。
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02:続いて、国防軍最高司令官が2008年憲法を支持
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米国のVOA(ボイス・オブ・アメリカ)が11月22日、ミンアウンライン国防軍最高司令官にネイピードで独占インタビューを行った。
そこで最高司令官は、憲法は国家と国軍にとって生命線であると語った。この憲法はミャンマーの有権者92.48%の支持を得て成立したもので、どんなことがあっても擁護せねばならない。この憲法は国家の指導者たちによってはるか将来を見通して書かれたものと自分は信じている。NLD政党は憲法第436条を改正するために5百万人の署名を集めてキャンペーンを展開しているが、残り46百万人の意思を尊重せねばならない。
そして憲法第59条(F)は特定の個人を対称にしたものではなく、国家の安全を考慮したものである。
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03:パドック情報
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下院議長の上記発言は意図するところが不鮮明で、さまざまな受取り方をされていたが、どちらにせよ同議長は最大与党USDPの党首で、次期大統領選挙の下馬評ではダントツの優勝候補である。
2011年、闇将軍がテインセインを大統領に指名し、国内外から大統領の改革路線への賞賛が高まるにつれ、同議長は大統領職に強い意欲を公言し、一時は反体制派のアウンサンスーチーNLD党首を擁護するポーズをとり人気票を獲得していた、だが、むしろ今回の発言で、本人の意思が鮮明になったといえるかもしれない。
パドック情報では、その剥き出しの意欲が闇将軍の意に染まず、テインセインに大統領職が廻った経緯もあり、2015年も同様に彼(テインセインの2年下)を敬遠して、しかも10年も若返る大幅世代交代という一石二鳥を狙って、ミンアウンラインを上級将軍に仕立てて、今は大統領職の仮免許運転を見守っているのが、実情ではなかろうか。
それが証拠には、同上級将軍の日刊英字紙への露出度は旺盛で、テインセイン大統領に劣らないほど、外国の要人との応対が写真入で掲載されている。それだけではなく、海外からの招聘にも頻繁に応じ、この11月初めにも、ミャンマー国軍首脳を率いてベラルーシ共和国ミンスクにある1,200kmにわたる歴史的なスターリン・ライン(要塞)をロシア軍将校と視察している。
闇将軍としては、現在81歳であくまでも健康が条件となるが、自分と自分の家族への忠誠度を2015年11・12月までに見極め、最後の最後の段階で次期大統領をピックアップすればよい。
しかし、今回のVOAインタビュー発言は、VOAが米国政府の広報機関という性格を考察すると、言わずもがなの発言で、米国に挑戦するような発言と取れなくもない。これが忠誠度の証であれば、テインセイン大統領が折角勝ち得た経済制裁解除に暗雲を投げかけるリスクを犯したことにもなる。それとも、各国入り乱れての複雑に混み入った経済支援に、そしてロシアや中国との独自外交に、オバマさんもう経済制裁解除を元に戻すことは出来ませんよという見極めを図っているのか、そこのところはまだ読みとることはできない。
この国が恐れるのは米国だけでなく海外が一致団結して声を上げることである。なお、憲法第436条は議席の25%を国民の投票を経ずに軍が指名でき、憲法改正には75%の議席の承認が必要としていることで、第59条(F)は配偶者あるいは子供が外国籍の場合はミャンマーの大統領職につけないとする条項である。だが、これらは一国の国内問題だけに、海外が立入ることが出来ず傍観しているのが実情である。
だが、もうひとつの別の見かたをご紹介すると、1990年の総選挙では、スーチーさんが自宅軟禁というハンデを背負いながら大勝したNLDに恐怖感を抱き、2012年の補欠選挙では争った44議席の43議席をNLDに奪われている。これは与党にとって完敗で、トラウマ以上の悪夢である。与党および軍部が真剣に票読みをすればするほど、スーチーさんが大統領選に出馬すれば、与党および軍部に勝ち目はまったくない。そこで、下院議長および最高司令官の発言となったのではなかろうか? むしろ追い込まれているのはスーチーさんではなく、与党および軍部、と見るのはいかがであろうか。追い込まれた連中はさらに馬脚を顕わしてくる。政治家の失言は命取りになる。それを熟柿が落ちるのを待つ心境で楽しむのもミャンマー・ウォッチかもしれない。
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04:テインセイン大統領もインタビューに応じていた
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BBCとVOAは軍事政権が最も毛嫌いしていたマスコミであった。だが、今は国軍の最高司令官にも、そしてミャンマー国の大統領にも独占インタビューを申し込み、ともに許可されている。
テインセイン大統領は、実は、2007年5月から4年間首相の座を務めた。もちろん、タンシュシュエ最高実力者の指名の下にである。そして大統領職を2016年の3月まで務めるというのが、一般的な見方である。だが、東西南北研究所は、下院議長がすんなりと2015年の大統領選に出馬するのは、難しいのではないかと分析し、その場合の代替は国防軍最高司令官と見るが、万一、大統領としての能力を闇将軍が認めない場合は、奥の手としてテインセイン大統領の続投が有り得るという可能性が強くなってきたような気がする。
特に今回の最高司令官の発言は、欧米政府・マスコミからは総スカンを食うもので、もう少し反応を見守りたい。
テインセイン大統領の功績は民主化への移管を梃子に欧米の経済制裁を解除させたことにある。これは闇将軍も高く評価しているだろう。お役ごめんとなったら、ゴルバチョフと同じで、葬り去られるのを恐怖に感じないかとBBCから質問され、テインセインは「ゴルバチョフと私は同じじゃない。改革は私がやりたいからやっているのではない。私は単に改革したいという人民の要望に応えているだけだ。したがって、私の将来も人々と彼らの希望次第だ。」この行間は、人々が望めば大統領職を続行しても構わないと読めないだろうか。
そして、実際、VOAとの独占インタビューで、2015年に予定される大統領選で2期目に挑戦するかどうかはまだ決めていないと答えている。
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05:米国から学ぶこと
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アメリカには、軍隊や軍人が独走しないために、大統領と議会の優位性を規定したシビリアン・コントロールの伝統がある。
憲法では、合衆国軍の最高司令官を大統領と定め、現役の軍人が大統領になれないよう規定したり、宣戦布告の権限を議会に与えるといった工夫をしている。軍人の教育課程の中で、シビリアンのリーダーへの服従ということが、合衆国軍のプロフェッショナリズムの伝統として徹底され、代々守られてきた。
「今のアメリカがわかる本」(渡部恒雄著)によれば、映画「風と共に去りぬ」で、燃え盛るアトランタの町を主人公が逃げまどうシーンがある。そのアトランタを焼き払う作戦を指示したのが北軍の司令官シャーマン将軍。南北戦争の英雄で、その後、軍の最高地位を極め大統領選出馬の話しもあった。だが、将軍は「私は大統領に指名されても受入れず、当選しても就任しない。」と生涯、軍人の政治への関与を拒否した。
米国植民地軍の総司令官として独立戦争に勝利した初代大統領ジョージ・ワシントンもアメリカ合衆国の大規模な軍備には懐疑的で、将来、大規模な軍隊は「アメリカ的な自由」を脅かすという懸念を持っていた。朝鮮戦争時、共産軍の追撃と核兵器の使用を求める最高司令官ダグラス・マッカーサーを解任したトルーマン大統領にも、第1次ブッシュ政権のパウエル国務長官も、イラク戦争に突き進むチェイニー副大統領やラムズフェルド国務長官とは異なる意見を持ち、開戦には極めて慎重な姿勢をとってきた。その伝統は引継がれている。
もし、ミャンマーの上院議長も、そして国軍最高司令官も、真にミャンマー国の大統領を目指すのであれば、もう一度ピンウールインにある防衛アカデミーで、三権分立の意義、そして米国のシビリアン・コントロールという伝統を学び直したらどうだろう。21世紀の今は、武力で凄みを効かす時代ではないような気がするのだが。
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